イカルノ登場②
第54章
「あの年・・、前国王は、何者かに毒を盛られたのです」
さすがのエフピイも、一瞬、足取りが乱れ、サルベーセンもこのような秘密を聞いていいのだろうかと、思いながらイカルノを見る。
「その時の解毒薬は、マリヒューイ様が、どこからか用意して下さり、何とか一命を取り留めました。しかし、安心した矢先、リカの国王たちは、ご自分が起こしたクーデターで、亡くなり、リカの国は封鎖され、マリヒューイ様が、王宮より連れ去られる事件がありました。そして、国王陛下に代わって指揮をとられていたルイ王太子は、ルート公爵から聞かされた内容を信じて、ヴィン家の処刑を命じたのでした」
「ーーーマーチン公爵ではないの?」
「はい、二人は繋がっていました。そして、残りの二人の公爵も、これらの事件のどこかには、関わっていると思っています。彼ら4人は、王宮内に秘密がある事を嫌がっていました。国王陛下をお慕いしていましたが、陛下は、絶対にマリヒューイ様の事をお話になりませんでした」
「それは、つまり、信頼関係が築かれていない事を表します。国王陛下も、外交に通じている4公爵には、知られてはいけないと、お考えでした。だから、マリヒューイ様をお守りする事を、ルイ王太子に任せていたのです。自国が危険な時は、他国へ避難する。そして、その裏もありでした」
「そんな・・・」
「もしかして、国王陛下に・・・、毒を持った人物は?あの後、行方不明になったユーシャツですか?」
イカルノは、頷き、エフピイは、涙を流した。
「彼女は、誰よりも身軽で、国王陛下の部屋までも軽く登れたのか、それとも屋根から降りたのかはわからないが、直接、陛下の口に、毒を注いだのだ。その時、マリヒューイ様が、異変に気付いて、ルイ様に知らせなければ、ーーー陛下は、あの夜、亡くなっていた・・」
「ルイ様が駆け付けた時、国王陛下は、彼女の首を絞めたまま発見されたのだ」
エフピイが、
「私たちは、生きていてはいけない存在です。そのような大罪を部隊から出しました」
「あの頃、ルイ王太子は、まだ15歳で、即位するには、どうしても経験が足りなかった、だから、必死に説得して、どうにか、私の話を聞いてくれて、孤児院に移動する処分だけにしてもらった」
「しかし、エフピイ、私がお願いしただけで、ルイ王太子が、君たちを生かしてくれたとは、今は、考えていない。今回のような事を、いつか、探し出してくれると信じて、君たちに、命を残してくれたと思っている。すまない。私の力が足りず、辛い目に合わせた。しかし、現在も、これからも、また、このような事が起きる。だから、ずっと、生きて、王室を助けて欲しい」
「そして、この国を、王室を、守って欲しい」
「イカルノ宰相、実は、わたくし達は、サルベーセン様をお守りする事に、生きがいを見出しています。あなたが、ルイ公王をお支えするように、わたくし達は、サルベーセン様を、そして、イレブン・ヴィン領をお守りします」
「だから、今回、どの位、暗殺してもいいのでしょうか?許可を頂きたいです」
「・・・・・・」
長い廊下の後にその部屋はあった。すでに椅子に縛られていビッパ伯爵は、諦めているように見える。
「まさか、イカルノ宰相が直々に、このような所にお出でになるとは思いませんでした」
「言っておきますが、私が首謀者ではありませんよ。私は上手い儲け話に乗っただけだ!」
「上手い儲け話の先には、自国を裏切り、他国の人間を招きいれて、働かせているのか?」
「あなたが、そこまでの悪党だとは、ルート公爵も気づかれていないだろうな?」
「お前が作った商会は、隣国の人間を働かせる為に作った物だ。今、軍隊を入れて、隅から隅まで、調べ上げてる。彼らは、どの公爵たちが引き連れて来た?」
「・・・・・・」
「こちらにいらっしゃる女性が、イレブン・ヴィン領の領主様のサルベーセン・ヴィン様だ。君たちは、陰で、彼女たち親子を困窮させる為に、随分と汚い手を使ったみたいだな?あの宝石商が、何年も前に、話してくれたよ。隣の領土のビッパ伯爵から頼まれたと・・・」
「それに、武器、弾薬も我が国の為に、揃えてくれているらしいな。今回、すべて没収して、有難く頂いておくよ」
「ああああぁあぁあぁ! 本当に、公爵たちから頼まれたんだ。前のヴィン伯爵だって、断り切れずに、どうしても、やっただけなんだ。それなのに、あっさり処刑されて・・、断る事なんて出来ないだろう?」
「しかし、ヴィン伯爵は、他国の人間を入国させ、働かせてはいない。お前とは違う!! 」
「何もわからないくせに、公爵たちがどんな悪者かなって、こんな田舎の・・・田舎の領主には、手に負えない程の悪なんだ・・・!!! 何が公爵だ! 罪は全部、俺たちに擦り付けて!! バカ野郎! 俺だって、本当は、領民を守りたいだけだったんだ! 」
「・・・父も、領民の為に、悪い事に手を染めました。それは、きっと事実だったのでしょう。そこはきっと一緒です。しかし、それは、結局は、領民の為にはなりませんでした。屋敷で働いていた使用人たちは、路頭に迷い、領地は荒れて、食べる事も出来ない人が増え、親のいない子供も増えました。勉強したくても、出来ない子供もいます。父は、悪に染まると、飢え死にすると、・・最後はそのようになると、教えたかったのかと、今では思っています」
「あなたの領土は、これから一時は、荒れて、きっと、死者も出るでしょう。しかし、その後は、きっと良くなります。どうか、正直に罪を償って、ご家族や領民一人一人が、助かる道を選んでください。お願いします。これから、王都に連行され、厳しい調べを受けて、正直に話す事が、領民や家族を助ける事になります。わたくしの父上や兄上は、そのようにしたのでしょう。だから、わたくしや母は、領土に戻され。領民たちも、何とか生活出来ています」
「本当に、領土を愛していたのなら、どうか、正直に、公爵の名前を陛下に教えてください」
それから、1週間位は、隣の領土から大きな爆撃の音がしたり、地響きがなったりして、戦争状態が続いたが、その後、落ち着き始め、イカルノが、サルベーセンの家にやって来た。
「イカルノ、大丈夫でしたか?物凄い音が、この屋敷の方まで聞こえていましたが?」
「ええ、当分は、軍部で、あの領土は管理します。他国との戦場となってしまい、大勢の自国民の難民が出て、エフピイの部隊までお借りして、申し訳ないです」
「これからあの領土は、軍部支配になって、どうするのですか?」
「それは、王都に戻ってから、国王陛下と相談して、決まる事ですが、それまで・・・、」
「いいですよ。工事の事は、エフピイとジンに一任しています。彼らが、どうにかするでしょう」
「役場はどうなりますか?」
「・・・・そこも、彼女たちにお願いするしか・・・」
「いつも思いますけど、あなた達は、人使いが激しいですよね?」
「はい、役場の人間たちも、一度、王都に戻し、王都で取り調べが待ってます・・、」
「エプピイたちは、本当に優秀ですから、大丈夫でしょう。わたくしの報告書も作れるくらいですから、安心して下さい」
「ええ、信用しています」
「今日は、ここに泊まって行く?」
「いいえ、ジンたちの村に泊まります。変な噂が立つと行けません。評判は大切ですから・・」
「評判なんて地に落ちてない! って、言われた事がありますが?」
「ハハハハ・・、昔の事です。今の、あなたは、本当に素晴らしいと思っています」
「イカルノ、ありがとう。今回の事も本当に助かりました。また、様子を見に来てね。いつでも歓迎します。エフピイと一緒に待ってます」
そして、イカルノは、忙しそうに王都に戻り、ベーグン領は、軍の管轄になり、役場は、ベーグン領からの難民の受け入れ場と変貌して行った。
「サルベーセン! 所で、薬局は、いつ頃、出来上がるの?」
「ええ、当分、先になるでしょうね?お金、足りるのか、エフピイに聞かなくては・・・」