イカルノ登場
第53章
薬局の工事が止まった事が、王宮にいるルイ王太子の報告がいったのは、工事が止まって、2日後だった。この問題は大きな問題となり、イカルノ達も慌てた。
「一体、どういう事だ!! 他の国からも問い合わせがやって来てる!」
「あちらに滞在している人間からの情報では・・、役場の人間が、隣の領土の業者を優先的に工事に入れている様です」
その報告を聴いた瞬間のルイ陛下の激怒は凄まじく
「どこの誰だ!! この前の事といい、役場の機能はどうなっている。そこに癒着があるとしか思えない。彼女は、国王が任命したイレブン・ヴィン領の領主だぞ!! バカにするにも程がある! 」
「それも、まだ、領土の戻って日が浅い、これまで、誰も不思議に思わなかったのか?」
「・・・、エフピイたちが到着して、次の日には調べ上げ、サルベーセンさんに報告して、停止させたようです」
「イカルノ、どうする?」
「私が行って、ご報告いたします」
「ああ、そうしてくれ、我が国の恥を、他国にも報告しなければならない」
急いで船に乗り、イカルノは、考える。こんなに落ち込んだのは、エフピイたちが追放された日以来だと思った。あの日のエフピイの辛い気持ちは、計り知れない・・・。
「エフピイ、君を思うと、胸が張り裂ける。信じていた人間に裏切られ、見捨てられた。恨んでも恨み足りないだろう・・。今回も、私の失敗だ! 本当に、自分の未熟さを思い知るよ」
領民、役場の人達は、イレブン・ヴィン領に、国の宰相が、直々にやって来る事態に、戸惑い、驚いていた。
サルベーセンは、当然の事だが、港までイカルノを出迎えに行った。
イカルノの登場は、港や町中の人々を、もっと驚かせた。
「エフピイ、宰相が移動する場合は、必ず、軍隊が一緒なの?」
「いいえ、私も、国の軍隊が、船で移動して、上陸するのを、私も初めて見ました」
「イカルノ宰相、わざわざお越ししていただなくとも、こちらで、どうにかいたしましたのに・・」
「いいえ、各国からも、すでに問い合わせた来ています。この領土だけの問題とは言えません。それに、まかりなりにも、この事業の最高責任者は、わたしです。国王陛下も、国家の恥だと、大変、お怒りです」
「ジン、隣のビッパ伯爵の身柄は抑えたか?」
「はい、役場で待機させています」
イカルノは、軍隊を隣の領土に突入させ、すべての住民の確認作業に入った。
大勢の軍人たちが、船から降りて、列をなして進行して行く様子に、領民や市場に来ている商人たちも、自然に足が震えた。
「ヴィン領主、では、役場に参りましょう」
「ええ」
連れて来た軍人たちを見送った後、サルベーセンとイカルノは、並んで歩き、その後ろに、エフピイたちが続き、エフピイたちの後ろに、ジンの部隊が続いて歩く。その一団は、そのままの序列を、示している様で、小さい女の子たちは、騎士の制服に身を包んだ10人の美しい女性たちを羨望の眼差しで見ていた。
「サルベーセンさんの屋敷にいるあの女性たち・・・、一体、何者なのかしら・・?」
「ああ、恐ろしいくらい、美しく、そして、強そうに見える」
「今まで、ジンさんの部隊が、一番、優秀だと思っていたが、上には、上があるんだな・・」
「ええ、王都には、もっと、すごい部隊が存在しているのかも知れない」
「ーーーーーー」
「ああ、それは、きっと、ヴィン領主、バカにしてはいけないって事だ。バカにして、また、ズルをすると、軍隊を引き連れて、一人一人、調べられる」
「ああ、きっと、そうだ。誰かが、また、何かしたんだ。前の牧師のように監獄に入れられる」
「・・・・・・」
町中が、同じ認識になった頃に、役場では、既に縛り上げられた役人たちが、頭を下げたままイカルノ達を、出迎えてた。イカルノは、椅子に座り、温和に話しだす。
「一体、どうして、また、不正流出が起こったのか、説明してもらいたい。君たちは、学ぶと言う事を知らないのか?」
「この前、役場の人間を一掃したはずだが、これは、どうした?なぜ、隣のベーグン領の商会を使って、ここの町の工事をしている?誰の指示だ」
「どうして、このようになったかは、我々も・・・、良くわからないのです。王都から書類が届いて、最初に・・、薬局の建設が始まって、ジンさんから、いつも通りにチケットを持って来た人間に、支払いをお願いすると、言われて・・・。それから、病院や公園の建設が決まって、その時、また王都から書類が来て、ヴィン領土だけでは、人手不足のために、そちらは、隣のベーグン領の商会が、手伝う事になったと・・・」
「その書類は、どこにある?」
「しばらくして、ベーグン領の商会の人が来て、書類を貸して欲しいと言われて、そのまま持って行きました」
「・・・・・・」
「誰か、その書類の内容を、明確に、覚えている人間はいないのか?例えば、誰のサインがあった?公爵か?それとも、ビッパ伯爵か?ーーーそれとも、公爵の印が押してあったとか?」
一人の正直そうな青年が、締め上げられたまま、大声で叫ぶ、
「ありました。僕、覚えています。どうしても、ベーグン領の商会を通す事に納得がいかないで、何度も、その書類を読み返しました」
「どのような印が押してあった?」
「はい、サインは、読み取れませんでしたが、葉っぱが二つに重なっている・・。青色の公爵印でした」
「君は、名前は何と言う?」
「はい、サチスタ・ロコンです。王都の印刷部に勤めていました。だから、自信があります」
「ああ、正解だ! すでに、その印の持ち主のルート公爵は、国王陛下により、拘束されている」
「2度も、テン・ヴィンの役場は、不正にかかわっている為に、今一度、全員の取り調べを行う。その後、正常に機能するまで、ここは軍部の管轄になる。縄に縛られたまま、彼女たちの取り調べを受けてくれ。以上! 」
不安で泣き出す女性職員もいるが、シスターたちの容赦しない視線で、全員が大人しく、連行され、取り調べに入った。
(怖い!! 絶対に、敵に回したくないよね。)サルベーセン談
(うん)リリアール談
「ヴィン領主、これからベーグン領のビッパ領主に会いますが、同席しますか?」
「ええ、お会いした事ないので、同席します。要は、わたくしのお金をピンはねしていたと、言う事ですよね?」
「ジンが・・・、忙しくなり、大工や職人たちを統率する能力が劣っている時、目をつけられて、ベーグン領の商会が、役場とジンの役目をかって出たのです。そして、どんどん工事を進める為に、自分の領土から人間を呼び、同一賃金を無視して、安い賃金で働かせていました」
「私は、最初、薬局出来上がってから、病院や公園を作る計画だと、ジンには知らせていましたが、ジンは、きっと、良かれと思って、その二つの工事も同時に行う事にしたのでしょう?」
「わたくしが不在だった為に、本当に、無理をさせたと思っています」
「しかし、なぜ、あの温和そうなルート公爵が、後ろで・・・?」
「ルート公爵は、前国王に忠実な人間でした。しかし、ルイ陛下と上手く行っているとは、限りません。マリヒューイ様の事があり、陛下は、私達4人以外とはあまり親しくしていませんでした」
「国王陛下が即位され、今までの公爵たちは、職を解かれ、外交にも参加できません。領地は、それぞれお持ちですが、今まで、王宮で築き上げた地位は、一瞬で、消えました」
「それは、マーチン公爵の影響もありますか?」
「勿論、あります。サルベーセン様のお父様、お兄様の処刑、リカの国の国王、王妃の死亡、マリヒューイ様の誘拐など、すべて同じ時期に起きています。そして、その年、前国王陛下も毒殺されかかったのです」
イカルノは、廊下を歩きながら、サルベーセン、エフピイ、二人に語り始める。