イレブン・ヴィン領
第52章
今回、帰省するにあたって、同行してくれたのは、エフピイたち10人だった。
「10人も、あの家に入るかしら?馬車も2台も必要?どう思う?」
「彼女たちが、復活、出来たのは、あなた付のSPとしてでしょ、全員、同行するのが当然でしょう?」
「しかし、エフピイ以外、誰も、名前も教えてくれないのよ」
「そこは、任務に徹底しているのだと思うわ。敵は、イカルノ達だから・・・」
「それは、なんとなく、わかっている。事情は怖くて聞けないけどね」
馬車に揺られ、船に揺られ、2日でどうにかテン・イレブンの町に到着した。
「優遇されているのか、思った以上に早く着いたね?」
女性SPに身分を変えたシスターたちは、笑顔のお面を被った鬼として、返事もしないで、港町の人の多さに、緊張していた。
「せっかくだから、薬局を見に行きましょう」
「サルベーセン様、お帰りなさい」とジンが迎えに来てくれた。
「ただいま、荷物は、馬車に積んだままですが、このまま、薬局を見に行きます」
「わかりました」
港から町に入ると、多くの領民から「お帰りなさい」の声がかかる。そして、サルベーセンは、「ただいま」と言う。
薬局は、思った以上に形になっていて、ジンに、
「専属の医師は、見つかった?」
「はい、見つかりました。役所も協力してくれて、あの薬局の隣に、大きな病院を併設する事が決まりました」
「そう、それは良かった」
「病院と薬局って、近くにあると安心だから、病院の敷地は、広く取れそう?」
「はい、土地は押さえました。公園のような物が希望ですよね?」
「うん、病気の時って、人を見るよりも、緑を見たくなるし、いつか広い自然が、役立つかも知れないから」
「はい、病院や公園の工事も始まっています」
同行しているシスターたちは、無駄口は絶対に言わないが、心では、サルベーセンの事を尊敬している。国王陛下やイカルノ達と対等に話し合い、各国の大使とも渡り合い、誰でも断るサリーサリー王女の身代わりも引き受け、国の為、領土の為、公国の為に、王都の人の為、寝る間も惜しんで働いている。
(この世界に、このような女性は、何人存在するのだろうか?)
「どうでしょうか?」
「ええ、良い場所です。思っていたよりも緑が多く、綺麗に整地されています」
「はい、すべての段差をなくしました。お年寄りにも優しい設計を心掛けています」
「しかし、すべて高台に建設する事が必須でしたが、どうしてですか?」
「ここは、やはり港が近くて、水害の心配がありますし、もしも、災害で、電気が消えても、高台にあれば、けが人や、病人は、高台のこちらを目指します。それに、テン・ヴィンの港は、公国外の国と近いでしょう?高台のこの場所は、いい場所なのよ」
「サルベーセン様、悪い顔していますよ」
「嫌だ。冗談よ! 」
「さぁ、とにかく家に戻りましょう。彼女たちが寝る場所を用意しなくては・・」
「それなら、既に、出来ています。陛下より、ケンティを家の増築と彼女たちの宿舎の建設の依頼がありましたので、ヴィン家の仕様通りに、出来上がってます」
「どこに?」
「はい、サルベーセンさんの隣に立っています。陛下とマリヒューイ様のお部屋は、そのままですが、宰相たちの部屋を使う事は、王室より許可が出ています」
「イカルノ達の部屋・・・、彼女たち、使うかしら・・・?」
「敵なのに・・・?まさか、この前も、ケンティの家に泊まっていたよね」
「仕方がない、後で、いつもの大工達も呼んでください」
「はい、わかりました」
案の状、10人のシスターたちの強い反対にあい、サロンが潰され、常勤の二人は、そこで夜勤をすることになり、外の新しい宿舎は、渡り廊下が併設されているので、サロンの外のドアが繋がり、冬は少し寒いが、夏は、そこから出入りする事になった。
「冬までに、この家も、大幅に、増築しなくては・・・」
「増築するのでしたら、早めにご相談下さい。病院、公園、薬局と道の整備で、今、建設ラッシュで、他の領土からの出稼ぎで、賄っていますが、なんせ・・・同一賃金で、領土内から少し不満が出始めています」
「そうなの?どうして?」
「彼らは、他の領土の人間に、領主様のお金を渡したくないのです」
「どうして???」
「だけど、同じ国の人間ですし、今後も、頼みたい仕事は沢山あるのよ」
エフピイが、
「サルベーセン様は、すべての人達に同じ料金を支払っているのですか?」
「そうよ。シスターたちにも同額の賃金を支払いました」
「ジンさんは、他の領土の人達の事を調べた事はありますか?」
「いいえ、忙しくて、すいません」
「では、その賃金の支払いについて、わたくし達が調べます。ここの管轄は、王都の誰の管轄ですか?」
「テン・ヴィンは、一度、不正が発覚して、その後は、ジンに引きついて・・・」ジンを見る。
ジンは焦って、「イカルノ宰相から指示があり、王宮の職員が、役場を、一掃して改善されたとおもいますけど・・」
エフピイは、にっこりして、「大丈夫です。しっかり、調べます」と宣言した。
「まぁ、箱もの建設では、人件費が一番高いからね・・・。ジン、少し覚悟しておいてね。救えない場合もあるから、初めに謝って置く、ごめんね」
「そ、そ、そんな~~~~! 僕、どの位、怒られるのですか?」
「それは、今後、どのように、彼女たちと協力できるかにかかっていると、思います。
「サルベーセンさんは、彼女たちの事を、どの位知っていますか?」
「凄腕の女剣士?」
「彼女たちの組織の中に、裏切り者がいた事はご存じですか?」
「ええ、知っています。彼女たちの仲間が、マリヒューイを狙ったのですよね」
「そうです。幼い頃に、王宮から連れ去り、他国へ引き渡そうと、企てたのです。その後、組織は解散、彼女たちは、王宮から孤児院に異動させられました」
「彼女たちは、女性の中では、エリートの中のエリートで、階級で言ったら、僕たちよりはるかに上でした。我々が彼女たちに、勝るのは、腕力ぐらいで、剣術も頭も、ずっと上です。だから・・」
「だから?」
「僕たちの部隊・・、どうなるのでしょうか?」
「ーーー、ごめん、本当にわかりません」
「とにかく、協力してあげて下さい。また、我が領土のお金がどこかに流れているとなると、本当に、問題です。この1年は、この領土の管理をあなたに任せました」
ジンは、立ち上がり背筋を伸ばして、
「はい、彼女たちと協力して、明日から頑張ります」と返答した。
次の日から、サルベーセンは、デスクワークをしながら、大工達と話し合いを始め、顔見知りの大工に探りを入れて見た。
「どう?仕事は順調ですか?これからもたくさん依頼する事は、あると思うけど?」
「我々は、こっちの村で仕事を受け持っていたので、町の仕事にはつけませんでした」
「どうして?組合のような組織があるの?」
「大きな工事は、役場が仕切っていて、大きな商会に仕事を依頼しています」
「この村の大工達は、個人で仕事をもらっているので、サルベーセン領主のように、みんなに均等に仕事をくれる事はありません」
「ねぇ、わたくしが、その様な事を望むと思う?」
「思いません。しかし、ジンさんは、とても忙しくて、役所が、結局、色々な事を手配するようになったのです」
「そう・・でも、大丈夫よ。今日の内には、色々な事が改善されます」
「本当ですか?」
「本当よ。凄腕の剣士を連れて来たから、一刀両断で、解決できると思うわ・・・多分・・・」
「それより、わたくしの家の仕事を急いでくれる?わたくし、寒さに弱いから・・・・」
夕方、シスターたちは、戻り、サルベーセンに「薬局の工事の一時停止を、要求します」と宣言した。
「ええ、いいですよ。マリヒューイもわたくしも、国民、領民の為にこの事業を始めたのですから、停止を歓迎します」




