サルベーセンの中の気持ち
第50章
1日、休みを挟み、次の日から、また、精力的に働き始めた。
リリアールが、
「サルベーセン、貴族は、そのようにガムシャラに働く必要はありません」
「ええ、でも、また、領土に戻る機会を失いました」
「ーーーそれは、あなたが、お金に弱いからでしょう?」
「ええ、ここまで来たら、この国一番の金持ち領主になってしまおうと、考える様になったの、だって、この事業が上手く行けば、お金はザクザク入ってくるのよ。領土に引きこもっても、安心でしょ?」
「サルベーセン、それが、本当にあなたの望みなの?」
「ーーーーーー」
ヒロヒロ宰相とマリヒューイ国王との話し合いは、1ケ月にも及び、その間、ルイ陛下や要職に就いた4人は、代わる代わる出席して、概ねの概案が出来上がった。そして、マリヒューイとケンティは、リカの国に旅立つ。
「ケンティ、明日、出発ね」
「はい、リカの国で、しっかり勉強して、必ず、イレブン・ヴィン領のお役に立つ事をお約束します」
「うん、マリヒューイは、しっかりしているけど、ケンティよりも年下で、それに大きな責任も抱えています。もしも、マリヒューイが、困ったことがあったら、助けてあげて下さい」
「はい、国王陛下たちにも、随分、頼まれました」
「先生・・・、先生は、これから、この広いお屋敷で、お一人です。寂しくないですか?」
「そうね、きっと、寂しいでしょう。わたくしも、一刻も早く、イレブン・ヴィン領の家に戻りたい。でも、人は、一生懸命、働かなくてはいけない時もあるの、寂しくても、疲れていても、そういう時が、ケンティにも必ず訪れる。だから、わたくしは、この1年、ガムシャラに働いて、イレブン・ヴィン領の家に戻った時は、死んだようにだらけます。それが、わたくしの今の目標です」
「ケンティ、わたくしの事は気にしないで、お行きなさい。ケンティは、今、思いっきり学ぶ時です。それがきっと未来に繋がります」
「元気でね。一緒にいてくれてありがとう」
「先生、僕の方こそ、ありがとうございました」その後、二人は抱き合って泣いた。
ケンティとマリヒューイが、リカの国に旅発った後に、今年の国王陛下の誕生日パーティーは喪中の為に、執り行なわないと新聞に載った。
「それでは、今年もサリーサリー王女には会えないのね」
「今、カオ国に遊びに行く事は、禁じられていて、手紙だけのやり取りなんて、辛いでしょうね」
「サルベーセン・・・・」
「しかし、この年末年始、この屋敷で二人だけなんて・・、やはり、寂しいわ・・・」
「ええ、流石に、花火も上がらないでしょうね。でも、私にはリリアール、あなたがいる。実は、ケンティにも、あんなに心配された時、心が痛んで、実は、幽霊の友達が、いつも、一緒にいるから安心してねって、言いそうになったのよ」
「でも、そんな事、言ったら、増々、ケンティは・・・」
「ええ、ケンティは、絶対、リカの国には行かなくなる、だから、ぐっと、堪えました」
「ハハハハ・・、」
「明日は、どうするの?」
「明日は、流石に彼らも来ないでしょう。だから、執務室に籠って、たまっている仕事を片付けます。シスターたちも孤児院での仕事が忙しくて、明日はお休みです」
「あら・・・、では、今宵は?通常通り?」
「はい、飲んだくれます。フフフフ・・・・」
ルイ国王陛下の誕生日の朝、サルベーセンは、久しぶりに朝風呂に入って、カオ国から送られて来た、化粧品で、オイルマッサージを行い、通常のスエット上下に着替え、簡単な軽食とワインを手に、執務室に籠って、各国から送られてくる書類に目を通し、薬局スーパーの棚割りの原価を計算していた。
「電卓が、欲しい、せめてそろばん、手書きの計算に、時間がかかる。しかし、このセンブルク国! 頭に来るほど、割に合わない、抗議が必要だ!! 自国に保管している病原菌が、恐ろしくて仕方がないらしく・・・。大量注文、困ったわ・・・」
「カオ国にも備蓄する為に、大量購入を打診しているらしいし・・」
大きな地図、店舗内の見取り図、要望書、陳情の手紙、計算用の文房具、etc.、机の上では手詰まりで、床にクッションを置いて、飲んで、食べて、計算、線引き、たまに、むせて、胸を打つ。
「駄目だ~~~!! これ、一人では限界です。もっと、頭のいい人間を雇わなければ、絶対に赤字になる」
そう言って、床に大の字になって、天井を見上げていると、ガチャっと、ドアが開き、エフピイが、顔を出す。
「・・・サルベーセン様、具合が悪いのでしょうか?」
サルベーセンは、ガバッ! と起きて、
「いいえ、仕事に行き詰って、どうしようかと悩んでいる所です。すいません・・」
「・・・・・・」
「サルベーセン様、これから支度をして、少し下に降りて頂く事は可能でしょうか?」
「え?」
エフピイが手招きして、シスターたちは一斉にサルベーセンに取り掛かり、着替えさせ、化粧をして、頭を結い上げ、アクセサリーや靴を身に着けさせる。
「はい、これで、大丈夫です。下に降りましょう」
1階のサロンからは、音楽が流れ、今まで、見たことがないように飾り付けられたシャンデリア、真っ白なカーテンや緑色が映える植物、キラキラ光る銀食器、その場に漂う香りまでもが美しい。
「どうしたのこれ?」
ルイ国王陛下が、手を差し伸べ、ファーストダンスにサルベーセンを誘う。
「今年は、喪中で、王宮では、パーティーは開かれない。それなら、今宵、ヴィン家のパーティーに出席する事にした」
「え?ご招待した事はありませんが・・・・?」
「うん、いつも、招待されていない」
音楽が流れ、側近たちも次々にシスターたちと踊り出し、さながら本物の夜会の様で、楽団やボーイ、メイドも王宮から連れて来たのか、誰もが、整然として、優雅な身のこなしで、ダンスは続けられていく。
「陛下、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。覚えていてくれたのか?」
「国民で、覚えていない人はいないでしょう。しかし、また、プレゼントの用意が・・。すいません」
「いい、また、遅れてもらっても嬉しい、そこは寛大だ」
(要らないとは、言わないの?)
「それにしても、臭うな~~?」
「クンクン、え?そうですか、朝、お風呂に入りましたけど・・・」
「イヤ、酒臭い。朝から飲んでいるのか?・・・水で薄めたワインを?」
「まさか、自分の能力に限界が見えたので、やけ酒で、さっき、少し飲んだだけです」
「自分が始めた事業は、大変か?」
「はい、シスターたちも手伝ってくれますが、もっと、優秀な人材が必要だと実感しています」
「例えは・・?カオ国のヒロヒロ宰相のようにか?」
「え~~?いいえ、彼は、どちらかと言うと交渉の達人で、そして、もっと、遠くを見ている人で、今の仕事は、地道な仕事が多く、同時に、立案して行くには、人材が必要だとわかりました」
「サルベーセン嬢は、どうしてそんなに働くのか?昔は野良仕事、今は事業開拓、誰かと結婚して、のんびり暮らす事は考えないのか?」
「ええ、まったく考えません。のんびり暮らす事は、当然、最大の望みですが、折角、頂いた領地や爵位を無駄にすることなど、微塵も考えた事はありません」
ルイ国王陛下は、サルベーセンをクルクル回しながら、古風なダンスを楽しみ、サルベーセンの背中に回した手が、段々と熱くなっていく事を、二人とも感じている。
「今日のこのような宴は、いかがかな?君の、のんびり暮らす中には、入っているかい?」
「ええ、今日のようにキラキラした夜会でも、知っている人達が楽しくして、すごく楽しいです。のんびり暮らす事は、死んだように暮らすとは違います。このような集まりも大切です」
「ほら、今宵の貴賓客が、登場したよ」
そこにいるのは、マリヒューイとケンティで、二人とも正装して、物凄く可愛く、サルベーセンは、陛下の熱い抱擁を抜け出して、『ケンティ!マリヒューイ!!!』と抱きしめ、周りがドン引きする程に、泣いた。
「寂しかった~~~~~!!! 」




