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評判を取り戻す。

第5章

 「どういう事?あの人・・王太子・・・?」


 リリアールは、サルベーセンが浴槽から出て、着替えている間に、玄関ホールにいる人間の確認にむかった。


 「うん、そうみたい、この前の護衛4人とあの女の子も一緒だった」


 サルベーセンは、優雅なパジャマをきて暮らしているのではなく、暖かそうな生地で、自作した上下スエットのような部屋着で、眠っていた。この厨房部屋は、当然スリッパ生活で、土足は禁止している。


 そのスエットの上に、暖かい上着を羽織り、10センチくらいドアを開けて、尋ねる。


 「どういう事でしょう。深夜に女性一人の家に、無断で侵入するとは、身分が高ければ何をしてもよろしいのでしょうか?お引き取り下さい」と言って、ドアに鍵をかけた。


 「サルベーセン、すまない、今、頼れる人間は、君しか思いつかなかった。今晩は、ここに泊めてくれないか?」


 「困ります。貴族は評判が大切です」


 ドアの向こうの6人とリリアールは、

 「すでに、評判は・・・最悪・・」と思っていても口には出さない。


 「それでは、今晩だけでも、泊めてくれないか?」とドアの向こうからルイ皇太子は話す。


 「ーーーでは、2階に客室があります。どうぞ、お使い下さい」


 「お姉さん・・・、寒い・・・・。う、う、うううううう・・」


 その声に、ウッ!! 子供には弱い・・、仕方がないので、ドアを開け、マリヒューイだけをこちらに引き取る事にした。その時、寒い玄関ロビーには、暖かい風が流れて来たが、その後、サルベーセンは、思いっきりドアを閉めた。


 「王太子・・・・」

 「なんと無礼な! 」


 「仕方がない、夜分、女性の一人暮らしに押しかけ、宿を借りるのだ。それに彼女は私の身分を知らない。それに、寝室へどうぞと、言われても困るだろう?」


 「ーー知ったら、腰抜かしましよ。まったく、王太子がこの町の役所に問い合わせして、生活が向上したはずなのに・・、恩を仇で返す女です」


 「しかし、マリヒューイは、どうにか暖かい部屋で休める。それだけで十分だ」


 そう言って、5人は、極寒の2階に上がって行った。従者の4人は2つの客間の、4つのベットを使い、王太子は、サルベーセンの母親の部屋のベットを使用した。と、リリアールから報告があった。



 サルベーセンは、厨房部屋にマリヒューイを招き入れ、頭についている水滴を拭きながら尋ねる。

 「本当にこのまま眠ってしまったら、風邪を引いてしまう。お風呂に入る?」


 マリヒューイが、頷いたので、浴槽で体と頭を洗うのを手伝い、湯舟に蓋をして、ゆっくり話す。

 「王都から、急いでこちらに来る用事があったの?宿も取らずに?」


 「はい、私は、隣国で、クーデターを起こした主犯者の娘です。本来なら一族と共に死刑にされているはずでした。しかし、わたくしの母は、生後すぐに、安全の為、わたくしを兄上に預けていました。私は自国では、知られていない人間だったの・・」


 「そうなんだ・・、大変だよね。大人の問題なのに、・・・、もしかして、逃げているの?」


 「はい」


 サルベーセンは、薪ストーブの近くで、マリヒューイの髪を乾かしてあげながら、

 「今日の夜は、ここで私と一緒に寝ましょう?明日、朝食を食べてから出発するといいわ! 」と話した。マリヒューイは、すまなそうに頷いて、そのまま、サルベーセンと一緒のベットで眠った。


 煙突をつけたお蔭で、夜も朝も昼も、この部屋は暖かい。早めに起きて、カーテンを開け、お風呂掃除をして、水を貯め、常に浴槽にはお湯がある状態になっている。


 「このお湯は、本当に便利で、お皿もお湯で洗える優れものだ」


 「大人数の朝食を作る事は大変だけど、仕方がない。食事をさせて、さっさと、追い出そう!!」


 チラッと見たリリアールは、他人がいるからなのか、無口だ。


 「何も言わないなんて・・・・。どうしたのだろう・・?」


 リリアールが、その時、

 「サルベーセン、見て、外は大雪だよ」


 「わぁ! 本当だ。大雪だね。始めて見た。この冬は寒そうだね。良かった、準備して置いて、死ぬとこだったよ」


 朝食用のハムエッグを7皿も作り、パンもスープも沢山並べて、準備が済んだ頃、5人は、ドアの前に立っていた。


 「この部屋は土足禁止になっています。靴を脱いで入室して、朝食を食べたら、出発して下さい」


 床には、フカフカのジュータン、食卓には人数分の食事、何よりも、部屋がものすごく暖かい。


 「おはようございます。早く召し上がって、出発して下さい。今日は、ケンティが来る日で、誰かに見つかるといけないでしょう?」


 5人は、じろじろ部屋を見て、静かに食事を取り始めた。


 「お茶、召し上がります?このお茶、私がブレンドして、私の好きなお茶にしてあるのですが、お湯をいれて、このように柑橘系の果物を入れ、蜂蜜を足すと美味しいですよ」


 大きめのマグカップのような、スープカップのようなカップに注ぎ、マリヒューイに渡す。

 「美味しいです」


 「私にもくれないか?」


 「ーーー大人はご自分でお願いします! 」


 一瞬、空気は凍り付くが、ルイ王太子は、「では、私がいれよう」と、言うと、


 その時、一斉に他の4人が立ちあがり、

 「わたくしが、いたします」と、他の4人はやかんに手をかけた。


 サルベーセンは、知らないを楽しみながら、一緒に朝食を食べていた。


 「さぁ、早く出発しないと、また、雪が降り始めます。もうすぐ、ケンティと言う子供が字を習いにやって来ますので・・・」


 「レディ・サルベーセン・ヴィン、我々の目的地は、君のこの屋敷だ」


 「??????」


 「どうしても、急いで王都を出なくてはならなくなって、追跡をかわしながら我々は、急いで出発した。本当ならこの先の港から船に乗り、この国を離れる予定だったが、途中で、雪が降り始めた」


 「その時、思ったのだ。国外に逃げるよりも、国内にとどまった方が、安全は確かで、我々も行動しやすい。雪が降れば、馬の足跡は消され、追われる事がない。ここは港に近くて、町からも離れていて、私達とは縁もゆかりもない。それに・・、マリヒューイが君に懐いている」


 「ーーーすいません。理解が出来ません」


 「しばらく、ここに置いてもらえないだろうか・・・・?」


 「無理です!! 」


 「無理でも置いてもらう」と4人は剣に手をかけた。


 サルベーセンは、恐れながら、

 「この家には使用人がいないのですよ。私には仕事があって、毎食、あなた達の食事の用意や、身の回りのお世話をすることが出来ません。わたくし自身でさえも、小さな子供に助けてもらっている状況です。物理的に無理です」


 「私には4人の従者がいる。彼らはどこでも生きて行ける様に訓練を受けている。君にそんなには迷惑をかける事はないと思う」


 「しかし・・、私の評判が・・」


 「君の評判なら、既にナイ!! 皆無だ! 」5人は一斉に吠える。


 「エ~~~ン! そんな・・・嘘! ううううう・・・」


 「貴族のドレスを着て、手押し車を、あんな必死に動かしている女性に評判などない!」


 「酷い! 生きる為です。私一人がこの冬、生きる為に、準備しなくてはならない事だったのだから、仕方がないでしょう」


 「そうだ。お金の価値もわからない人間が、今、この大雪の中、このように暖かい部屋で暮らして行けるのは、誰のお陰だと思ってる。あのみすぼらしい姿の君を町で見かけて、この方が、役所に便宜を図って下さり、今の、生活があるのではないか?」


 「ーーーそんな・・・、今更、恩着せがましいです」


 サルベーセンと男性5人が対峙していると、裏口のドアが開けられて、ケンティが時間よりも早くやって来た。

 「先生、土砂崩れが起こって、家が崩壊してしまいました。助けて下さい。お願いします」


 ケンティは、病弱な母親を連れ、持てるだけの荷物を持って、10km以上の道のりを歩いて来た。見るからに、その姿はびしょ濡れで、悲惨なものだった。


 サルベーセンは、急いで駆け寄り、

 「まぁ、大変! どうぞ、お母様、ストーブの近くへ、ケンティ、お母さんを湯舟に入れてあげて、今、木のついたてを持ってくるから、大丈夫。お風呂は、朝、水を取り替えてきれいだから・・」


 「そこの人、ついたてを運ぶの手伝って下さい」


 「先生、こちらの方々は?」


 「王都の親戚の方々です。港に行く前に雪で足止めされて・・・、しばらく滞在します」


 5人とマリヒューイ、リリアールは、目を丸くして、サルベーセンを見ていた。


 サルベーセンは、小声で、みんなに対し、

 「わたくし、評判とやらを、取り戻します」と、宣言した。


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