多忙③
第49章
ヒロヒロ宰相が、第一声をあげ、緊張が走り、本格的な会議が始まった。隣にいるルイ陛下とイカルノも、真剣に聞き耳を立てる。
「サルベーセンさんの屋敷がある敷地は、王都の中心部に面していて、かなりの広さだと思います。我々各国も、こちらの王都内に、屋敷をたてる許可を頂いていますが、こちらの屋敷には、到底、及びません。そして、屋敷内には、広々とした空き地が存在しています」
「こちらの敷地は、明確にいいますと、イレブン・ヴィン領の領主の持ち物です。この間の7カ国会議で、決定した事項に、リカの国は、イレブン・ヴィン領と正式に交易を始め、そこで、薬の販売を行う事が決まりました。そう、この国のイレブン・ヴィン領とだけ・・・」
「そうだ、あの時、色々な事が起こって、国王たちは狼狽えて、我々は、理解する事に精一杯で、最後に調印した時には、そう記載されていた」
「その調印の意図は、ルイ陛下の意図か、それともマリヒューイ国王の意図かはわかりかねますが、今、現在、我々がいるこのヴィン邸は、イレブン・ヴィン領です」
「そこで、会議の後、こちらのサルベーセンさんから、提案があり、ご自分のお店を王都の繁華街に出す予定だが、そこは賃料も高く、イレブン・ヴィン領の物がそこで飛ぶように売れるとは限らないと、だから、ご自分の屋敷の庭にお店を構えるので、カオ国の美容製品や、薬なども置きませんか?と、相談されました」
「その後、皆様も、サルベーセンさんの屋敷に多く集まり、国王が存在しない気安さなのか、サルベーセンさんの屋敷で、食べられる面白い料理で、我々も他国を理解する事の必要性を感じ始めて、そして、今日です」
サルベーセンが、
「丁度、ピザが焼き上がりました。冷めないうちに召し上がりましょう。今回のお茶は・・?」
食べる前に、エフピイから、恒例の食材の説明がなされる。
「今回のお茶は、カガク国産ですが、サルベーセン様が、乾燥した果物を、入れる事がお好きなので、サーシャ国のオレンジを入れてあります。ピザの小麦粉は、前回、好評でしたので、アパレル国の最高級の小麦粉を使用しています。トッピングですが、野菜類は我が国、干し肉とチーズは、センブルク国、そして、赤い果物は、カオ国の物です」
大使と大使の従者たちは、暖かいピザを一斉に頬張り、暖かいお茶を一口飲む。
「美味い!! 昨日より、うん、美味しい、毎日、美味しくなる」
サルベーセンも食べて見て、
「ええ、生地もさすがに美味しくて、チーズも濃厚で、トマト缶も昨日とは違います。具材もまた一段と美味しいです」
ヒロヒロ宰相が、
「リカの国は、確かに特別な国だと言う事は、きっと、我々の国王も理解出来ているでしょう。しかし、他の国には、カオ国のエネルギーのように、まだ理解されていない特別な何かが、きっと、あるはずです。そこで、私とサルベーセンさんは、考えました」
「リカの国も参加できるこの敷地内で、互いの国が協力し合える商品を開発して、売りませんか?市場ではなく、雨の日もお客様が気軽に買い物に来られる建物内で、どうでしょうか?」
サルベーセンが、
「例えば、リカの国が、そのお店に傷薬を置きます。そうなると、傷薬を塗るガーゼが必要で、包帯も必要です。カオ国は、美容関係は、得意ですが、薬の分野は、また、始まったばかりで、ピザにのっていたチーズも存在していません。どこかの国が欠けると、ピザが出来ないように、バランスが悪いと考えます」
「え~~~~!! それでは、ここで初めてチーズを召し上がったのですか?」
「はい、そうです。我が国は、未曽有の災害を転機に、変化しようと模索中ですが、このチャンスを逃したくありません。皆さんも国にこの件を持ち帰って頂いて、出来たらご参加して下さい」
「しかし、ーーーこのように、美味しいピザは、どうしたら食べられるのでしょうか?」
「この庭に建設予定の建物に、ピザを焼くお店を併設させます。それぞれの国のいい物が集まれば、もっと、美味しい料理が出来るでしょう。それが、産業や農業、エネルギー、医薬や素材の発展につながる事を祈ります」
その後、鳥の唐揚げが運ばれ、色々な味付けの唐揚げも好評で、サルベーセンは、しっかり胃袋を掴んだと、実感できた。
食べ物から発展した会議は、勿論、エネルギーや鉄鋼、薬、環境問題とどんどん発展して行って、最後は、スープ麺を食べてお開きになって、終了となった。カオ国以外は、一度、国に戻り、検討が必要になって、明日、自国へ向けて出発する事が決まった。
マリヒューイが、
「サルベーセンさんが、ここに巨大なお店を開く事は、国王陛下にご相談なさった方が、きっと、よろしいかと思います」
「ええ、勿論、許可が必要ですし、ご相談して、ヒロヒロ宰相とマリヒューイ国王には、ご報告します」
二人が、帰宅した後、ルイ国王とイカルノが姿を現し、サルベーセンは、疲れがどっと押し寄せて来た。
「いかがでしたか?盗み聞きの成果はありましたか?」
「ああ、かなりあった。物凄くショックだ。今まで、多くの国を訪れていたが、今日一日で、今まで以上に、他国の事を知る事が出来た。彼らは、大使とは言え、国に戻れば、国王の側近にあたる。あのように腹を割った話し合いは、彼ら達も初めてではないだろうか?」
「陛下が行っているのは、外交で、彼らが行っているのは、経済だと考えると納得がいきます」とイカルノが、珍しく発言した。
「・・・イカルノ宰相も、ご参加されればよかったのでは?」
「招待されていない! 」
「わたくしは、誰も、ご招待していません。彼らが勝手にやって来るのです」
「しかし、君が、あの場所に不満を抱いていたことを、聞かされていなかった」と、ルイ陛下は、とても不満げにサルベーセンに、吠える。
「陛下は、わたくしが、利益の出ない商売をするとお思いですか?いくら、領土のアンテナショップだとしても、賃金が高くて、気が乗りませんでした、」
「なぜ、そう言わない! 」
「折角、頂いた権利は、賃料が高くて使えない物件でした。なんて、恐れ多くて言えません」
「しかし、今、言っているように思える」
「・・・・・・」
「所で、こちらに多国籍の大型店をたてる許可を頂けますか?」
「明日も、ヒロヒロ宰相が来るのなら、イカルノも参加させる事。それで許可する」
「ーーーしかし、休日返上で、接待していて、本当は、お休みしたいです」
「・・・・・・」
「では、明日は休め! そのように、エフピイたちに手配するように言って置く」
「本当ですか?ありがとうございます。本当に疲れます。それに、今日、持ち込まれた食材や資材、材料、植物などを、少し吟味したいと思っていました。助かります」
「また、小分けにして、煮て、切って、焼いて、保存するのか?」
「ーーーええ、そうです。貧乏性ですので・・・」
「許可は出すが、口も出す。これからは、誰か一人、必ず同席させる事、いいな?」
「はい、では、こちらお店の権利書です。お返しします」
「イヤ、持っていてもいいぞ」
「いいえ、持っているだけで、お金がかかり、放蕩息子の様で手に負えません」
「ハハハハ、ーーーそれで、ケンティの事は、許すのか?」
「はい、勿論です。彼らはいつも一緒でした。将来の事はわかりませんが、薬の知識を覚える事は、ケンティにとってもいい事です」
「ケンティがいなくなると、一人になってしまい、領土に戻ってもさびしいのでは?」
「王都もテン・ヴィンの事業も、1年以上、かかるでしょう。その後、また、雪になる前には、戻りたいと思っています。大丈夫です。きっと、夜には、マリヒューイが、訪ねてくれます」
「・・・その頃には、陛下の喪が明けて、サリーサリー王女との結婚式ですね」
二人は、そのまま見つめ合い、黙ったまま、言葉を探していた。




