多忙
第47章
大荒れの7カ国会議は終了し、頭を燃やされた国王たちから、不満も出ずに、閉幕となった。
その後、マリヒューイとサルベーセンは、ジンを交えて、色々な条件を結ぶ事になったが、イレブン・ヴィン領としては、少しばかりの関税と治安の重視、マリヒューイからは、『橋に名前をつける事を禁止』すると言う、変わった条件だった。
「マリヒューイ、どういう事ですか?」
「名前のない橋を辿って、本当の両親が訪ねてくる可能性を残しました」
「彼らは、名前のない橋を辿って、異世界に行けます。最初、川のないリカの国を、見た時には、絶望しましたが、イレブン・ヴィン領との断崖を見た時に、ここしかないと思いました」
「ーーーマリヒューイ、意外と計算高いよね・・・・」
「フフフフ・・・」
マリヒューイが、王宮のヴィン邸を訪れる事は、公然の事実となって、ヴィン邸は、王宮よりも立ち寄りやすいのか、色々な国の特使もたくさん訪ねてくるようになった。
その中の一人、ヒロヒロ宰相は、毎日のようにやって来る。ヒロヒロ宰相の目的は、その黒い土のエネルギーの活用を、サルベーセンに示してもらう事が一番の目的だ。
「ヒロヒロ宰相、使い道と言っても・・・、わたくしが思いつくのは・・、この前、話したくらいです。その先の開発は、公国全体の課題になると思います」
ヒロヒロ宰相は、根気よく、サルベーセンの答えを待つ。
「・・・・・・」
「ふぅ、・・・仕方がない、今日はお客様が多いので、シスターたちに、用意してもらっているピザを、焼くのに使って見ましょう。石の壁に常設されているオーブンを、使った事がなかったのですが、それで焼いてみます」
「シスター! 用意はいいですか?」
「はい、サルベーセン様に、教わった用に準備が出来ています。他国の特使様たちも、お呼びしますか?」
「ええ、呼んでください」
それぞれの特使たちも、サルベーセンの土間のキッチンに足を踏み入れ、キョロキョロ見回しながら、ピザの焼き方を見ている。
「カオ国のこの燃えた土は、炭よりも長く遠赤外線を、放出する事が出来ます。これを2,3個程燃やして、ピザを入れて、焼け始めたら回します。焼けたら回しを繰り返して・・・。はい、出来上がりです。召し上がって下さい」
ピザが焼き上がると、シスターたちは、綺麗に、切り分け、特使たちに振る舞った。
「ーーー美味しい。美味しいです、たった2,3個で、何枚も焼けるのですね?」
「はい、そうです」
特使たちは、国王ではなく、役人で、ヒロヒロ宰相のように、頭が良く、食べながらも、色々考えているのがわかる。無口になりながらも、食べる事を忘れないのは、ピザが美味しいからだろう。
静かに食事をしながら、ピザを食べていると、
「サルベーセン様、鍛冶屋がご注文の品物を持って来ました」
「え!! 本当に?早いわね。丁度、良かった」
「その壺のような物は、何に使うのでしょうか?」
「はい、今、使ったこの焼けた土を、この壺の中心に入れて、蓋をします」
「??????」
「こちらは馬車で、暖を取るのに使おうかと考えている携帯ストーブで、大きい方は、新しく始めるお店に置く予定です」
ヒロヒロ宰相が、
「皆さん、後で、サルベーセンさんの許可を頂いたら、お風呂の見学をしてみて下さい。薪の代わりにも使っています」
「う・・・・ん」
サルベーセンが、ヒロヒロ宰相に聞く。
「このストーブのように、鉄や鉱石などが量産される国は、公国には存在しますか?」
「センブルク国、サーシャ国、アパレル国も鉄は、有名です。残念ながら我が国には、そのような資源は、ありません」
「では、その3国は、今回のカオ国の為に、たくさん救援して置いた方がいいでしょう」
「・・・・・・」
頭のいい役人たちは、サルベーセンが、抱えている壺を見て、きっと納得している。この土には、絶対に金属がつきもので、土の需要が伸びれば、金属は、もっと伸びる。
アパレル国の特使は、サルベーセンに、尋ねる。
「王都で、お店を開く予定だと伺いましたが、どのような物を売る予定ですか?」
「はい、主に、冬だけお店を開ける予定です。売る物は、こちらの洋服です」
サルベーセンもシスターたちも、キルトで出来ている服を上手に着こなし、働きやすいようにも改造を重ね、動きやすさも取り入れてある。
「ドレスでもない服を、王都の人々は購入しますか?」
「ええ、わたくしも、そう思いますが、以外とマニアには受けるとかとも思っています。暖かいですし、このように、携帯ストーブも、膝に乗せられます」
「おおおおおぉ・・。携帯ストーブも売るのですね?」
「そこの鍛冶屋は、どこから金属を仕入れているのでしょうか?」
「そこまでは、わかりかねます。ヒロヒロ宰相は、ご存じでしょうか?」
「いいえ、まさか、私も、そこまではわかりかねます」
その後、サルベーセンが、始めるお店の件で、激論が続き、夕食にもう一度、ピザをご馳走して、お開きになった。
「疲れた~~~~。死にそうです。彼らは、なかなか国に帰りませんね?」
「ええ、明日も、きっと、訪ねて来ます」
「しかし、明日は、マリヒューイと、テン・ヴィンの町で、開く薬局について話し合う予定です」
夜遅くなっても、シスターたちは、滞在してくれていて、サルベーセンを助けてくれている。
「サルベーセン様、イカルノ宰相がお見えです」
「王太子が公国様になって、イカルノも、宰相に出世して忙しいはずなのに、何の用事! 」
エフピイは、きっと、イカルノの事が嫌いなのか?イカルノが現れる時は、絶対に顔を見せないし、お茶も出さない事を、リリアールは気づいている。そして、サルベーセンの安全の為に、外の窓から、様子を見ている事も知っている。(彼女たちの敵は、彼らなの?)
温かいベットから、のんびり立ち上がり、通常のジャージにキルトのガウンを羽織り、スリッパのまま、隣の執務室に顔を出した。
「イカルノ宰相・・、このような時間に、何か御用がございますか?」
「明日の、マリヒューイ様との話し合いは、この執務室の隣の会議室で行って欲しい」
「どうして?」
「明日の話し合いにも、各国の特使たちは、押しかけてくるだろうと、予想はしているか?」
「ええ、今では、仲の良い友達のようですから、それが何か?」
「国は、誰が動かしている?」
「国王陛下です」
「国王陛下を動かしているのは?」
「知識や勘ですか?」
「・・・・・・」
「・・・彼らの様な役人たちも、大きな役目を負っている。隣の会議室で会議を行い、こちらの執務室には、我々と陛下が待機したい」
「???会議室で話している事は、こちらには聞こえませんよ」
「今晩、一晩で、改造する」
「そんな・・、ケンティはすでに寝ているのですよ。可哀そうです」
「ケンティは、既に、王宮の部屋に移した」
「それでは、わたくしは、どうするのですか?ここは、自宅です!! 」
「酒を飲んで、ぐっすり眠る・・?大丈夫です。そんなに音は立てない。シスターたちの事は気にしなくていい」
「イカルノ宰相!!! たまには、シスターたちを気にして下さい。彼女たちの身分の復活が条件で、この屋敷の改造を許します!! 」
「サルベーセン嬢、女性騎士たちの役目は、女性皇族を守る事です。しかし、彼女は失敗して、身内から暗殺者を出しました。本来なら、もっと重い罪でもいいのです」
「だから?」
「だから、これ以上の譲歩は、許されません」
「ーーー陛下に、孤児院のシスターになる事を進言したのは・・、もしかして、イカルノなの?」
窓の外のエフピイとリリアールは、驚いてイカルノの次の言葉を待っていた。
「私にできる事は、この位でした・・。それに、今、王室に女性皇族が存在しません。我が国は、代々、継承者争いを避ける為に、男性皇族が生まれた後は、王妃様は、子供を産みません」
「そうなんだ・・・、マリヒューイは、特別だものね・・。姪だもの・・・」
「だから、今後、彼女たちに仕事を与えてあげられるのは、サルベーセンさんだけかも知れません」
「ーーーーーー」




