階段を登る。
第43章
「もう気軽に君に会いに行けない・・」
「陛下、婚約者がいる身で、気軽に会いに行く女性がいるのは、どうかと思います」
「益々、サリーサリー王女がお可哀そうです」
「・・・・・・」
その会話の後、渋々、カオ国についての勉強を始めたサルベーセンは、王都の屋敷に戻る事は許されずに、そのまま王宮で暮らすことになった。
王宮内は、大混雑で、多くの人間が出入りしてい為に、マリヒューイの部屋でカオ国からの使者が到着するまで過ごすことにした。
サルベーセンは、高い塔から下を覗き、忙しい人々を見て、そして振り返って話し始める。
「ここが、マリヒューイの部屋なのね。相変わらず・・、さっぱりしている」
「ええ、いつか自国へ戻る時が来ると信じていました。この位が丁度いいでしょう」
「やはり、そうだよね。マリヒューイは、国に帰る・・、さっきの陛下の言葉ではないけど、今、本当に寂しいって感じている」
「その件については、この会議で、色々、発表して、承認を得たいと思っています」
「??????」
「所で、ケンティは、どうしたの?」とリリアールが聞く、
「ケンティは、イカルノたちから仕事を任せられて、忙しく働いている。ケンティにも使用人の部屋が与えられて、今回のこの大きな祭典の為に頑張っているみたいよ」
「彼らは、本当に、人使いが激しいよね」
「それだけ、ケンティの事を信用しているのでしょう。何度もひどい目にあいながら、共に戦ってくれるすごい子供としてね」
「でも、朝、起きるたびに背が伸びていて、毎日、恐ろしいよ」
「今、一番、成長する途中なのでしょう。でも、2頭馬車を降ろされた事、結構、恨みに思っているから・・ハハハハ・・・」
「そこは、まだまだ、子供だよね」
7か国会議の前に即位式が行われ、それと同時に、サルベーセンは、領主として伯爵の位を与えられる。今回、嫡男がすでに死亡している為に、異例だが、サルベーセンが、爵位を引きつぐ、この決定は、冤罪を国王陛下が認めた事に等しく、他の貴族たちからも意義は起きなかった。
「しかし、本当に、爵位を与えられるとは思ってもいませんでした」
「サルベーセンさんは、飢饉の時も王都を救い、領土の人々の為に屋根なども無償で直したことが、評価されたのだと思います。それは・・・・、わたくしの為でもあり、陛下の為でもあります」
「??????」
即位式3日前、すべての国の国王が、遂にここ王都へ集結する。
サルベーセンは、馴染みのカオ国のメイド達と再会を喜び合い、直ぐに美容エステに入り、ドレスを選び、新しく追加された資料を頭に叩き込む。
カオ国の宿泊施設に移動したサルベーセンの元にエフピイが、やって来て、即位式前に爵位の 授与式に着用するドレスを合わせる。
「このようなドレスでよろしいのでしょうか?随分、クラッシックな形のドレスですが・・・」
「いいです。このようなドレスを着て見たかったから・・。嬉しです。この形は昔は、正装だったのでしょう?」
「はい、随分、昔ですが、王室の方とご対面する為には、どの貴族もこのようなドレスをお召しになっていました」
カオ国のメイド達も寄って来て、しみじみとドレスを見ている。
「サルベーセン様は、ダンスも伝統のダンスで、衣装も伝統を重んじていて、素晴らしいです。実は、サリーサリー王女のドレスも殆どが伝統の民族衣装です。お二人は相通ずるものがあるのでしょう」
「そうなの?さすがサリーサリー王女です。本当に尊敬します」
古い形のドレスに身を包んだサルベーセンを見ているリリアールは、満足そうに何度もサルベーセン周りを飛んで確認を行った。
「髪型はどうしますか?」
「午前中と同じ髪型で、午後の即位式に出席する訳にはいかないから・・、午前中は簡単な髪形にしましょう」
それから、どの位の髪が抜け落ちたかわからない程に、シスターたちとカオ国のメイドは、髪型についてのバトルを始めた。
「痛い、イタタタタ・・・、髪がなくなる」(リリアール、助けて~~~)
その結果、「では、やはり、午前中は、結い上げる事はせずに、内巻きカールでいきましょう。本来なら、ティアラがありましたら、それが良かったのですが・・・」
「・・・・お母さまのティアラは、一番最初に売ってしまいました。すいません・・・」
しかし、式典の前日の夜、イカルノが訪ねて来て、母のティアラと売った宝石を渡してくれた。
「あの宝石商から聞き出し、探すのに手間取ってしまいましたが、これは、国王陛下からです」
「探して下さったの?本当に?」
「ええ、陛下が出来る事は、これくらいだからとおっしゃって、こんなに長くかかりましたが、サルベーセンさんに返却できる事を、陛下も僕たちも喜んでいます。どうぞ、受け取って下さい」
サルベーセンは、前のサルベーセンの気持ちを思うと涙が出て来た。
「ありがとうございます。これからは大切にします」
ドアを閉め、サルベーセンとリリアールは、本当に泣き出した。どうして泣いたのかはわからないが、苦しかったサルベーセンの気持ちと重なったのだろう。
イカルノは、陛下に報告する為に部屋を訪れて、
「渡してきました」
「どうだった?彼女は・・」
「はい、目に涙を溜めて受け取って、ドアを閉めた後も泣いていました」
「ーーーこれからは、このような事を無くす為に、いつも全力を尽くすと誓うよう」
「陛下、陛下のお気持ちを、私たちも全力でお助けします」
即位式の前に、この国を支えてくれた国民を表彰する。その為、大勢の国民が、王宮の大広場に集まり、一人、一人、レッドカーペットの階段を登り、国王陛下により、勲章や記念品、サルベーセンのように、国王陛下のサインの入った立派な証本を受け取る。
マルセルがアナウンスして、サルベーセンは、階段を丁寧に登って行く。ドレスは、驚くほどに古風なドレスで、中心には紫のレース、腕やスカートには黒生地を使い、刺繍はすべて金色、腰には大きなリボンそして、スカートの後ろの部分は、階段を登る時に映える様に長めにしてある。そして、シンプルなティアラが大きな巻き毛に輝いていて、リリアールの望み通りのサルベーセンに仕上がっている。
「サルベーセン、本当に綺麗よ。本当に、綺麗・・・」
「リリアール嬢、ご満足頂けたでしょうか?このドレス、すっごく重いから、歩くのは大変なのよ」
「でも、見て、周りの人達も、サルベーセンの美しさにため息をついている」
「本当?周りは見えないけど、上段のルイ国王陛下だけは、はっきりと見える。心配そうにわたくしを見ている」
「ええ、彼・・、あんなに優しく誰かを、見たことがあるのかしら?」
「今日は、色々な式典があって、きっと上機嫌なのでしょう。まだ、数段あるのに、既に手を差し伸べている。ふふふ・・、おかしいね」
隣のイカルノが、思いっきり咳をして国王陛下に気づかせる。
「陛下、サルベーセン嬢は、ダンスを踊りに来たのではありません。爵位をもらいに来ました」
その後、差し伸べた手で、ルイ国王は、頭を掻き、自分の署名入りの証本をサルベーセンに渡し、「サルベーセン嬢、今日は、誰よりも美しいです」と囁いた。
「国王陛下、陛下も今日は誰よりも、ご立派です。ご即位、おめでとうございます」
二人は、壇上で、見つめ合い、微笑み合って、許し合った。