橋を渡る。
第41章
冬になる前に、マリヒューイの所にも7カ国会議への招待状が送られて来た。
「マリヒューイは、どうするの?出席するの?」
「はい、今回、出席しようと、思っています。ケンティも元気になりましたので、王都に向かう前に、少し、イレブン・ヴィン領の先生の屋敷によって行くのはどうですか?」
「え??行けるの?本当に?」
「はい、ケンティもマルクさんのお墓に寄りたいと思いまして、それに先生のご家族のお墓にも寄りたいです」
「ありがとう。マリヒューイ・・。ありがとう」
「兄上には、イレブン・ヴィンに寄ってから王都へ向かう事を伝えておきます。きっと、色々な準備は、彼らがしてくれるでしょう」
ケンティは2頭馬車を一人で動かす手ほどきを受け、3人ともう一人は、リカの国を出発した。
「マリヒューイ様、本当に大丈夫でしょうか?我々もお供します」と、何人も申し出てくれたが、マリヒューイは、「この国境の向こうは、こちらのサルベーセンさんの領土で、安心です」と話して納得してもらった。
大勢の人達に送られ、サルベーセンさえ初めて見る国境を越えた。
国境には、大きな橋が架かっていて、橋を渡り終えた所には、ジンの部隊が待っていた。
「お帰りなさい。お待ちしていました」ジンは、二人に頭を下げ、敬意を払った。
「ただいま、このような橋が架かっている事を、わたくしは知りませんでした」
「ええ、僕たちも、最近、知ったのですが、マリヒューイ様が、お生まれになってすぐに建設が始まり、今回、初めて、この橋を通る事が出来ました」
「ーーーーーー」
「ここから、わたくしの家まではどの位ですか?」
「はい、馬車で2時間ほどで到着できると思います。ーーーケンティ、馬車を変わってくれ! 」
「え~~、折角、練習したのに・・。一人で出来ます」
「ここからは、道もあまりよくないし、安全の為だ。これは、国王陛下のご命令だ。わかるか?」
「・・・・・・」
ケンティは、渋々、馬車を譲り、マリヒューイは、豪華な馬車に移り、サルベーセンの馬車は、エフピイに変更された。
「お久しぶりです。サルベーセンさん、今回も、警備を担当させていただきます」
「エフピイ、久しぶりです。皆にお土産あるから後で渡すね」
馬車に揺られ、イレブン・ヴィン領の郊外を初めて見るサルベーセンは、リリアールに、
「この辺、妙に、植物が育っていないよね?キレイに空き地が整備されていると言うか・・・?」
「秋だから、枯れているのでは?」
「そうなのかな?」
「??????」
久しぶりの自宅に到着して、本当に嬉しかった。
「あああ・・、なんだろう、この安心感。お風呂に入って、好きな物を食べれる。マリヒューイは、昔の部屋を使って下さい。シスターたちは、余った部屋を適当に・・・」
「国王陛下の部屋を使う事は出来ません。それに・・・、彼らの部屋も嫌です」
ケンティが、
「僕の家ならどうだろう?」と、提案してくれて、シスター達3人は、ケンティと一緒に隣の家で、過ごしてもらう事にした。
「ケンティも寂しくなくていいね」
「うん、きっと、マルクがいない家に慣れるには、時間がかかるよね・・・」
イレブン・ヴィンの屋敷は、キレイに片付いていて、事前に誰かが、管理してくれていたようで、お茶や小麦、卵、チーズなど欲しい食料はすべて揃っていた。
「先生、何か必要な物があれば、町で買ってきます」
「そうね。でも、今日は、みんなでマルクを偲びましょう。ケンティも寂しいでしょう?その気持ちをみんなで分け合いましょう」
「うん・・・・」ケンティは、その後、堪えている涙を拭いた。サルベーセンは、そんなケンティに、マルクの好きな食べ物を聞き、シスターたちと一緒に食事の準備を始めた。
「ケンティは、これが好きなの?」
「はい、肉をじっくり煮て、たくさん野菜が入っているこの煮込みが一番好きでした」
「美味しい、今度、王都に帰ってからも作りましょう?この国の伝統料理には、まだ馴染みがなくて・・・。ここにいる間にシスターたちに習うのもいいわね」
「そう言えば、お母さんが言っていたけど、先生は本当に王都にいた時の事を忘れてしまったんだわ・・・って、」
「そうね、両親、兄が亡くなって少し頭がおかしくなっていた時があって、きっとその時、記憶を無くしてしまったのよ・・・」
「でも、それで、幽霊が見えなくなって、話も出来る様になったんだね」
「????幽霊??」マリヒューイとサルベーセンは、同じ反応をする。
「お母さんが言っていたよ、先生は、昔、高貴な貴族の令嬢の幽霊が見えるって、だから、怖くて、屋敷の中で過ごす事を嫌って、ずっと、自分の部屋からでなくなったんだ。でも、周りの人達は、誰も先生を信じてくれなくて、そしたら、話さなくなったってね。でも、今は、幽霊も見えなくなって、こんなに沢山、話が出来る。だから、イレブン・ヴィン領に来て本当に良かったよね」
「だから・・?マルクは、王都に出て来てくれたの・・・・?」
サルベーセンは、泣きながら尋ねた。
「きっと、それもあるけど、母は、僕を教育して、今の国王陛下に雇って貰うのが目的だったんだよ。泣かないで、僕は、お母さんも好きで、先生も好きだから、お母さんの気持ちも、すごくわかっているから、先生のせいではないよ」
「僕は、本当に、先生が、話が出来る様になった事が嬉しいし、先生と暮らせる事がすごく楽しくて、いつも母には感謝しています。本当です」
その日の追悼の夜は、みんなで、失った家族を偲び、互いの家族の話をして、お酒を飲み、食事をして過ごした。
少し酔った夜、厨房部屋で、サルベーセンは、リリアールと話す。
「リリアール、あなた・・・・」
「ええ、その通り、前のサルベーセンは、なぜか、わたくしが見えていたけど、あなたの様に声は届かなかった。会うたびに怯えて、だから、遭わないようにしていたけど、あの娘、霊感があるのか、気が緩んだときなど、遭遇してしまうの・・・」
「元々、貴族の生活には向いていない娘で、気が弱くて、貴族たちが通う学校にも1日しか通えなかった。両親も王都の生活に疎くて、あまり娘にかまってあげていなくて、閉じこもっている事を簡単に許していた。それぞれが自分の事で、いっぱい、いっぱいで・・」
「今のサルベーセンと同じように、お友達になれたら、どんな社交界に出しても恥ずかしくないような娘に仕上げてあげられたけど、怯えるばかりで、声も届かずに、最後は・・・」
「前のサルベーセンさんは、やはり・・、亡くなったの?ーーー餓死?」
「母親は、多分、自殺で、ーー彼女は、本当に限界だったの、いつも見守っていたからそれがわかって・・・、その時、丁度、あなたが、天から降りて来て、初めて、彼女がわたくしに言ったの、『生きたい! って、でも、家族全員が亡くなってしまい、どうしてもこの世界では、生きて行く事が出来ないって・・、怖くて、怖くて、仕方がないと・・。優しかった昔の両親や兄に会いたい。』って、泣いて、やっと私に話してくれたの・・、だから、ごめんなさい、あなたをこの世界に迎えると同時に、彼女をあなたの世界に送った」
「ええええ~~~! じゃあ、・・彼女、私のいた世界で生きているの?」
「それは、わからない。でも、彼女を助ける方法は、アレしかなかったの、だから、あなたの世界に行って、どうにか生きて欲しい。この世界では出来なかったすべての事を、違う世界で体験して欲しい。両親の愛とか、お友達とか、恋もね・・」
「リリアール、わたくしのいた世界は、この世界より確かに文明は進んでいますけど、そんなに甘い世界ではないよ。生き抜くためには、幽霊とも友達になるガッツが必要な程に、サバイバルな世界です。・・・サルベーセンさん、大丈夫かしら?」
「そうなの?でも、わたくしのせいで、暗い人生を送らせてしまったのは事実だから、どうにか挽回したかった。違う世界で、一からやり直して欲しい」
「ーーーあなたの気持ちが届く事を祈りましょう。・・・今晩は、すべての人に祈りを捧げます」
「おやすみなさい」




