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生活向上

第4章

 冬前に水道と電気の工事が始まり、どういう訳か、役所の人はすこぶる親切で、ついでに、家のリフォームも、その大工さん達と一緒に実現する事が出来た。


 この家は、厨房意外に、1階はサロンと食堂、また玄関ホールが非常に広く、本当に寒い家で、2階には、4部屋あり、母親の部屋とサルベーセンの部屋、そして、客間が2部屋あった。


 家の修繕は、時折、行っていて、雪に備えて屋根にも上がって見たりもしたが、外側には、何の問題もないため、内装の気密性をあげる事にしていた。


 「お嬢さん、本当に厨房にこのような浴槽を作るのですか?」


 「はい、厨房は土間で、地面から冷気が上がって来ます。寒くて・・・、このままでは折角の水道が凍ってしまいます。ですから床上げをして、下には麦わらを引きつめ、フローリングにして下さい」


 「薪ストーブ一つあれば、私一人くらいこの厨房で、寒さをしのげます」


 家の詳し事は大工さんと相談して、オンドルを作る事は出来なかったが、浴槽にも水が張れて、薪ストーブの煙突も外に出すことが出来、キッチンの隣に入浴姿が丸見えの浴槽が出来上がり、排水工事も完了した。


 ここで簡単に、説明すると、厨房を改築、増築し、耐震の為に柱も増やし、とても広い部屋に浴槽と隣り合わせのキッチン、ベット、テーブルセット、食器棚、タンス、ソファがあり、奥には、パントリー兼、物干しもあり、女の子が一人で生活するには丁度いい大きさになった。


 中は鉄製の浴槽は、木で囲ってもらって、檜ぶろのようで、ついでに蓋も作ってもらって、蓋の上で、読書や食事、美容なども出来た。


 1ケ月程の工事が終了して、その厨房に電気の明かりが灯ってリリアールと話す。


 「役所の皆さんや工事関係の人達、どうしてこのように親切にして下さったのかしら・・?」


 「王太子が、役所に助言してくれたのでは?この町で、ヴィン夫人が亡くなった事に、責任も感じているのかも知れませんね。恐れか・・忖度か?わからないの?」


 「??????」


 「この国は、一度、貴族制度の廃止があったはず、平等を目指していた時代もあって、王室も経済に優れた人材が国王に就いた事もあり、電気や水道、道路や河川などの整備も進んで、その頃が一番、発展のスピードが上がったと思われる」


 「でも、発展を遂げると、どうしてもステータスを国民は求め出した」


 「しかし、当然、反対する人間も必ず現れる。大きな争いが起きて、今の国王陛下は、仕方がなく、国に貢献して、それなりの資産がある人達に貴族の称号を復活させた。そして、同時に国の為に働く貴族を殺害した場合は、途轍もなく重い罰が下されると、発表がなされたのよ」


 「どんな罰?」


 「あなたの様に、会った事もない身内の罪を受けて、父親は処刑され、母親は心労で亡くなって、あなたも餓死状態・・・、そのような罪よ」


 「・・・・・・」


 「この町の人達だって、どこで、誰と、血が繋がっているとか、きっとわからなと思う、だから、貴族の血が、今は、一番、怖い存在にもなっている。没落貴族とは言え、あなたまでも凍死してしまったら、この町全体に暗い影を落とす事は間違いないでしょうね」


 「今まで、あなたは町に現われても、宝石を現金に交換して、食料を購入するだけだった。町の人達は、きっと、あなたをバカにして、大金をせしめていたに違いない。その結果、ヴィン夫人が亡くなったと、調査が行われたら・・・あの宝石店の関係者はすべて死刑になるでしょう。当然、役所の人間も町の人々も、今は、震えあがっている」


 「だから、あなたにお金を返したいと、願っている人間は、沢山、いるのではないかしら?」


 「そんな・・・、本当に困っている時に、助けて欲しかったのに・・・。そうすれば、彼女も、私も、このようには・・・」



 家の工事が終わって、サルベーセンは、役所の人の言う通りに、教会を訪れて、母親のお墓に花を手向けた。その後、教会で行われている教室と言う所で、講義を聞いてみた。


 講義は簡単な内容や、専門的な内容もあり、それぞれが好きな講義を受講出来た。


 教会の牧師さんは、立派なお方で、サルベーセンの知りたい事を教えてくださり、多くの本を貸して下さった。


 「サルベーセンさんは、読み書きはできますか?」


 サルベーセンは、家の本も、時々、読んでいたので、頷いた。

 「子供に教える事は可能ですか?」


 「え?」


 「一人の男の子がいまして、私から見たら優秀な子供ですが、母親が病気がちで学校に通う事が出来ません。ですから、少し、サルベーセンさんのお手伝いをさせながら、字を教えて欲しいのです」


 「??????」


 「お二人がこの町に越して来た事を、殆んどの住民は知りませんでした。役所もお母様が亡くなって初めて知ったようです。あなたが通っていた宝石店の店主は、すでに拘束され、お金を返金するようにと裁判所からの命令も出ています」


 「・・・・・・」


 「私たちは、今、あなたの事を知るすべを知らないのです。だから、段々と、あなたを恐れ始めています。それは、この町にもマイナスで、あなたにもいい事だとは思えません。ううん(咳)それに・・すいませんが、あなたは、あまり外には出たくないようなので、こちらから御用聞きのような事をさせてくれませんか?」


 「御用聞き?ですか?」


 「使用人を持たないあなたは、この冬を越す事は、難しいと思われます。・・・台車を押して買い物も大変でしょう・・・」


 「??????」


 少しの沈黙の後・・・、サルベーセンは答える。

 「お金がありません・・・・・・」


 「ええ、その事ですが、宝石店の店主は、返せる宝石は返却したいと申しています。すでに売ってしまった物の代金は、返金すると聞いています。それに、私からもお渡しするお金があります。しかし、その金額は、この町では大金で・・・。そのまま、あなたに渡してしまうと、あなたを危険にさらす事になりかねます」


「だから、あなたの元に戻る現金は、役所で管理させて欲しいと申し出がありました」


「??????」


「その子供に払うお金も、購入代金も返金されたお金で十分に、支払われます。大丈夫です。どうか、子供に仕事を与えて下さい。お願いします」


「良くわからないですが・・・・、その子に文字を教えて、その子への賃金無し、買い物も代金なしで頼めばいいのでしょうか?」


「はい、そうです。できますか?」


「はい、では、一度、その子供に会わせてくれますか?」

 「ええ、今、呼んできます」


 「どういう事?」とリリアールに尋ねると、「そう言う事」と返事が返って来た。


 牧師がその子供を連れて来て、会ってみると、7,8歳くらいの、確かに賢そうな子供だったので、買い物を頼む事にした。


 「では、明日からお願いします」と、牧師とその子供ケンティと別れて家に帰って行った。



 家に戻ってから、リリアールとこの問題を話し合い、牧師の言った事を思い出しながら、今後の生活の事を考えていた。


 「本当は誰とも会いたくないのに・・・」

 「でも、欲しい物を届けてくれるのは有難いよね。う~~~~ん、悩む・・・・・」


 「お金も、仕事も、受け入れるしかないのでは?」


 「ーーーそうだよね。もうすぐ本格的な冬が来るから、その内、来なくなるかも知れないもんね」


 しかし、ケンティは真面目に通い、少しずつ二人でこの国についての勉強も始めた。ケンティは、町の市場の商品の事には良く理解している様で、欲しい物は何でも買って来てくれる優秀な配達人だった。


 「ケンティ! 君は、本当はもっと稼げる人材だ!! 」と話すと、嬉しそうに帰って行った。


 ケンティが来てから、生活水準が著しく跳ね上がり、柔らかいパンも手に入り、トーストにつけるバターや、お肉の沢山入ったシチューなどが食べられて、嬉しくて涙が出た。


 「ありがとう! ウーバー!! 」


 現代人らしい生活を取り戻したので、冬の間は、牧師さんから借りた本を勉強して、野良仕事は温かい昼間だけ行う事にした。


 ケンティに町で厚手のカーテンを作って来てもらい、小さい窓にもカーテンを付けたので、入浴する事は本当に安心になった。


 「今日は、ルンルン♪入浴しながら、リンゴジュースでものみましょうかな~~、それとも、ワインにする?リリアールはとっちがいい?」


 「・・・・・・」


 「ええ、ええ、飲めないと知っていて聞いています~~♪」


 このお風呂、実は洗う場所も半畳くらいある。板の下は排水口を作ってもらった。浴槽の外で洗って、寒いので急いで湯舟につかり、湯舟半分に蓋をして、ワインを飲みながら、カナッペを食べていると、突然、ドアが開いた。


 「キャー!! 誰、どうやって入って来たの?」


 「レディ・サルベーセン、君は何をしている?」


 「入浴中よ!!! 出て行って~~~~!!! ドロボー!! 痴漢! 」


  そして、その夜、初雪が降り始めた。


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