リカの国②
第39章
「この公国の王室には、代々伝わる言い伝えがあって、わたくしの産みの母親も、その言い伝えを知っていました。だから、生まれてすぐに、リカの国の王妃は、祖母の名前を言い、彼女は、お元気ですか?って、私に聞きました」
「だから、私は、『はい、お元気です。』と答えてしまいました。転生されてくる子孫を探す事は、公国の使命で、わたくしは、本当に何百年ぶりに、この国へ送られて来た大切な子孫でした」
「この国の先王は、ご自分が愛する人と出会ったこの国を滅ぼさない為に、たまに、悪戯をして、人間を転生させています」
「・・・・それって?」
「はい、でも、サルベーセンもこの世界には必要なお方で、リリアールさんもそうです」
「じゃあ、どうして、リリアールは、幽霊なの?」
「それはわかりません。私が自分の国で生きたのは、たった5年間で、ある日、急に、病に倒れ、色々な治療をしましたが、運命は変えられず。母や父、兄弟達は、どこかの国へ行っても、もう一度、会えるから・・、きっと、迎えに行くから、この国で、生きて待っていて欲しいと、言われました。そして、送り出されました。しかし、どんなに、王太子たちに親切にされても、寂しくて、両親に会いたくて・・・」
「自分が死ぬ寸前の事は、微かな記憶しかなく、すべてが曖昧で、孤独を感じて、心を閉ざしている時に、初めてテン・ヴィンの町で、サルベーセンさんを見つけた時・・、物凄く嬉しかったのを覚えています」
マリヒューイは、沈んで、
「しかし、私は、祖母のようには上手く行きません。ケンティは誘拐されてしまいました」
「でも、ケンティは、きっと、わたくし達の事を、信じて待っていてくれると思うよ。彼・・、なんて言うか?いい奴なんだよね。上手くは言えないけど、しっかり見る目も持っていて、頭も賢くて、思いやりもあって、物凄くいい青年に成長している」
「ええ、わかってます」
「あれ?マリヒューイ・・、ケンティが好きなの?」
「何、何を言っているのですか!ケンティは、この世界の中で、一番、信頼できる友達です」
「だから、決して失う事は出来ません」
「そうだね! 」
二人とリリアールは、揺れる馬車の中で、ケンティを救い出すことを固く決心していた。
リカの国に到着したのは、突然の出発から何日も過ぎた朝だった。すでに、随分痩せたケンティは、その入り口に縛られて待っていた。
サルベーセンとマリヒューイ、リリアールは、その姿を見て、涙を流し、怒りを抑える事が難しかった。
「あなた達は、人間ではない!! どうしてそんな子供を・・・・」
その場に、立っているのは、リカ国の人間でもなく、多民族のガガク国でもなく、センブルク国の第3皇子のコノハ皇子だった。
「センブルク国って、確か、生姜の?・・、どうして彼が?」
そのいかにも頭が悪そうな第3皇子のコノハ皇子は、ケンティを乱暴に扱いながら、ルイ王太子に叫ぶ。
「さぁ、リカの国を開放しろ、貴様がマーチン公爵を始末しても、病原菌は、私の手の中にある」
サルベーセンが、怒りで叫ぶ、
「どうして、平民の子供を、人質に取るような事をするのですか?」
「こいつは、俺が、国の特産品を横流ししていたのを、こちらの王太子に告げ口したんだ。その為、センブルク国の後継者候補から落とされた。しかし、頭のいい俺様は、既に、マーチン公爵と二人で、このリカの国を手にいれる為に、協力していたんだよ。ハハハハ・・どうだ! 」
「俺は、センブルク国など要らなかったのサ! マーチン公爵は、ドジを踏んで、すべてを失ったが、私の手には、とっておきのモノがある」
「さぁ、リカの国への扉を開けるんだ。そうしないと・・・・」
コノハ皇子は、おおっきな棒を、ケンティの頭に振り落とそうとした瞬間、サルベーセンが、飛び出し、サルベーセンとケンティは、リカの国側に飛び込んだ。
誰もが、息を飲んだ瞬間だった。「どうして、奴らだけが・・・、向こう側へ・・?」
「ケンティ!!! 大丈夫?こんなに痩せて・・・。ケンティ・・!! 」
「先生、へへへ・・、お腹が空いて、動けない。昔は、お腹が空いても我慢できたのに、今は、先生が作ってくれる不思議な食べ物の事で頭がいっぱいだ」
「ケンティ・・・、ごめんなさい」いつの間にか現れたマリヒューイが、ケンティに謝る。
「マリヒューイ、大丈夫だよ。君がひどい目にあう方が、僕は嫌だ。君に負けたくない」
「ケンティ・・・・」
サルベーセンは、二人を抱きしめていると、リカの国の人々が大勢やって来て、
「姫様・・、姫様ですか?ーーーあゝ、国王陛下にそっくりです」
サルベーセンは、
「すいませんが、誰か、医者を、この子に食料とケガの手当てをお願いします」
大急ぎで、リカの国の人々は、ケンティを医者の所に運んでくれた。そこは、暖かい雰囲気で、びっしりと薬棚が並んでいる診療所みたいで、薬の臭いを緩和する為に、窓もドアを開けられていて、大勢の人々が、ケンティ、マリヒューイそして、サルベーセンを見に来ていた。
「この子の事・・、我々もずっと心配していました。しかし、助ける事も出来ずに・・、可哀そうで、どうして、子供を人質に・・」
マリヒューイが、「わたくしを呼ぶ為です。そして、この国を開放する為・・」
「あああぁ、あなたは、やはり、国王陛下の姫様ですか?」
「はい、マリヒューイと申します」
大勢の民衆は、マリヒューイを見て、感動している。
「我々は、ずっと、あなたを待っていました。我々は誰がこの国を一番に考えているかをわかりました。最初は、民衆を扇動する人間を、信じた国民もいます。しかし、この5年、他国からの侵略を守って下さっていたのは、姫様です。その為に、国王陛下と王妃様は、生まれたばかりの我が子を、預けたのです」
「我々は、何もかも嘘で固められた言葉を信じ、国王陛下と王妃を信じる事が出来ませんでした」
いつの間にか、リカの国の国民は、大勢集まり、マリヒューイに頭を下げ、マリヒューイが大切にしているケンティの回復を本当に祈った。サルベーセンは、何も語らないマリヒューイを抱きしめる事しか出来なかった。
リリアールが、目で合図を送るので、ケンティの事は、マリヒューイに任せ、サルベーセンは、外のルイ王太子たちの様子を見に行く事にした。リカの国の人たちが、馬車を用意してくれて、結界の内側からその戦いを見に行くと、どう見てもコノハ皇子の惨敗のように見えた。
「どういう事?援軍は来ないはずなのに・・・?ルイ王太子の方に大勢の援軍が・・・?」
最近、自由に動ける範囲が広がったリリアールは、結界も余裕で通りぬけて、様子を見に行ってくれた。
リカの国の人々は、自分に影響がないと思っているのか、呑気に、
「ルイ王太子の方は、いつ、あのような軍隊をこちらに送ったのでしょう?」
「・・・・・・」
その戦いは、戦国時代のような一騎打ちの戦いで、あんなに真剣な王太子を見たことがなくて、自分は安全な場所にいる事が申し訳ないようで、ルイ王太子から目が離せない。
「ルイ・・・・」
涙を流しながら、見守るサルベーセンに、リリアールは、状況を伝えた。
「ルイ王太子を守っている軍隊は、センブルク国の新しい国王の部隊だそうよ。センブルク国の国王にとっても、邪魔な第3皇子を堂々と消せるチャンスで、ルイ王太子から連絡を受けて、急いで駆け付けて、ここで待っていたみたい」
「それでは、自国からは援軍は来ないけど、これはセンブルク国の内戦と言う事で処理するの?」
「きっとそうでしょう。頭がいい王太子が考えそうな事です。色々な国との均衡を図る事が彼の仕事ですから・・・」
「でも、安心しました。センブルク国の国王にとって、この戦いは絶対に負けられない戦いだよね。だから、きっと、勝つ!」
リリアールと微笑み合い、その場を去ろうと背を向けると。『サルベーセン!! 』と呼ぶ、ルイ王太子の声がして、サルベーセンは、振り向き、
『絶対に負けないで!! ケンティは心配ありません。信じて待ちます~~~!! 』と手を振った。