リカの国
第38章
「そんな、近くに・・・」
マリヒューイが生まれた国は、リカの国と言われ、やはり、綿花が盛んに栽培されているが、特殊な薬草も有名で、交易では、薬の産業で、外貨を稼いていた。
「元々、リカの国は、多民族の一部の部落民族と、我が国が共同出資を行い、その国を我が国の皇子が治め、妃は、その部落から娶りました」
「長い歴史の中で、幾度もその国をめぐっては、互いに対立した事も有りましたが、王太子様のお姉さまが、リカの国の皇子と結婚なさり、マリヒューイ様がお生まれになって、また、争いが始まったのです」
「どうして?二国間の間に、マリヒューイが生まれ、もしかしたら皇子も生まれるかも知れないのに?その方が、平和が保たれると思うけど?」
「それは・・、王妃が、直ぐに、マリヒューイを我が国の王室に預けた事が、発端でした」
「・・・それでは、比重が、傾くよね、王妃の国に、なんで?」
「国王陛下も王妃も、そのようにした理由を、リカの国の民にも告げませんでした。その後、憶測が憶測を呼んで、リカの国は、元の他民族の国に飲み込まれ、国王陛下と王妃は何年も説得を試みましたが、最後にかけた争いで、お亡くなりになりました」
「じゃあ、マリヒューイを狙って、ケンティを誘拐したのは、リカの国が、他民族の国のどちらかなの?」
「マリヒューイ様を狙っている国は、他にもいると思われますが、ケンティ様を連れ去った国は、そのどちらかと思われます」
サルベーセンは、何を思ったか、話を聞き、突然、客車の床に座り込み、自分が座っている椅子を開け、お金を数え始めた。
エフピイは、このオンボロ馬車に、黄金に輝く金貨が、大量に積まれているのを見て、驚きを隠せない。
「サルベーセン様、・・・いかがなさいましたか?」
「ねぇ、今、この馬車にいくらあるのか数えてくれない。気が動転して、数えられない、ケンティが誘拐されて、身代金で、解決するなら、ここのお金、全部、使ってもいいと思って・・・」
リリアールは、サルベーセンの事を哀れむように見ているが、エフピイは、それでサルベーセンの気持ちが落ち着くならと、一緒に床に座り、揺れる馬車の中、丁寧にお金を数え、寄り添ってくれた。
サルベーセンの馬車は、飲み物や軽食は、常備されていて、一晩中、走っても大丈夫だったが、馬は、そうはいかない。
エフピイが、
「馬車が止まりましたので、少し様子を見て来ます」と言い、降りて行った。
リリアールが、
「サルベーセン、しっかりしなさい。こんな時、お金は、役に立たない。カーペットの下に、護身用にナイフを隠しておいたでしょ?それを、身に着けておきなさい」
「うん、わかった、後は?」
「後は、少し水を飲んで、お菓子を食べて、体力を温存するの、ケンティは絶対に大丈夫よ。だって、天候が荒れていない。風もなく、月も明るい、マリヒューイが、そうしているとしか思いない」
「うん、そうだね。ケンティに何かあったら、絶対に、マリヒューイが爆発して、天変地異が起きるよね」
「大丈夫、大丈夫、大丈夫・・」と呪文を唱えていると、王太子が乗り込んできて、サルベーセンは、急いで聞いた。
「マリヒューイは、どうですか?落ち込んでいますか?」
「ああ、あんなマリヒューイを見たのは初めてだ。ケンティを大切に思って、泣いている」
サルベーセンは、馬車に積んである水をコップに注ぎ、王太子に渡す。王太子は、馬車の中を見て、その豊富な食料を見て、納得して、一気に水を飲んだ。
「君は、いつも、僕たちに安心をくれる。これは、本当に有難い事だ。いつも感謝している。今は、馬たちが走れる状況ではない。馬たちに水をやり、餌を与え、休息も必要だ。ーーそして、ぼくたちも・・・」
サルベーセンは、王太子の意図をくんで、
「こちらの水とお菓子や果物、皆さんでどうぞ、・・」
「いつもすまない。ここで休んで、夜が明けたら、又、出発する。ここから、マリヒューイを頼めるか?」
「ええ、彼女の事も心配でした、近くにいる方が安心です。エフピイと交換して下さい」
「ああ、外の椅子にはビンエムーを、馬引きはコウシャに、交代させる」
「はい、わかりました。大丈夫です」
「それと、私たちも、急な出発で、準備不足だ。もしかしたら、お金も貸してもらうかも知れない」
「・・・・・・」
「援軍は来ないのですか?」
「援軍は来ない。どの国も軍隊を持っているが、どこかの国が軍部を出動させた時は、すべての国が、反旗をあげた国に攻撃を仕掛けると言う条約を結んでいる」
「我々が、良く、外交に向かうのは、視察でもあり、このような小さな争いを解決する為でもある」
「でも、リカの国の事は、解決していないのですね?」
「ああ、そうだ。君もあの国に着くと、解決できない意味がわかると思う」
「では、本当に、今、ケンティもリカの国に向かっているのですか?」
「そうだ。我々も、リカの国に向かっている。だから、・・・サルベーセン嬢、マリヒューイを頼む」
マリヒューイは、その後、真っ赤な目をして馬車に乗り込んできた。とても、何かをすすめられる状態ではないが、リリアールが、
「マリヒューイ、少しでもいいからお水を飲みなさい」と言ってくれた。
水を飲んで、そのまま、何も語らずに、気を失うように眠った、そんなマリヒューイをサルベーセンは、抱きしめる事しか出来なかった。
マリヒューイが、傷ついた時は、いつもリリアールと一緒に二人で抱きしめそのまま眠る。
馬車が揺れ始め、マリヒューイが目覚め、話をすることが出来た。
「マリヒューイ、ケンティの状況はどう?ケガとかしていない?」
「大丈夫だと思います。状況は見えませんけど、ケンティの心の中が見えました」
「どんな風に?」
「お腹が空いて、家に帰りたいとか、先生や私の事をすごく心配しています。泣きそうになっても、堪えているのがわかりました。ケンティには、本当に申し訳ない・・・。わたし、どうしたら・・」
「王太子は、リカの国に着いたら、わかるみたいなこと言っていたけど、どういう事?」
「それは、私が、リカの国を閉鎖しているからです。誰もあの国には入れないし、出る事も出来ません。しかし、国民は、特別、困る事もなく暮らしています。他国やこの国の助けがなくても平気な国です」
「閉鎖って・・、この前の呪いのようなモノ?」
「あれは、本当に、弱い魔術です。先王が、その時、弱っていたとしか思えません」
「??????」
「ケンティを誘拐してまでも、マリヒューイにその結界みたいのを解いて欲しいの?」
「それもありますが、リカの国は、薬の国で、今、殆んどの国は、薬が不足しています。だから、リカの国を手に入れた国は、富を得る事になるでしょう」
「・・・・・・」
「最初に、リカの国の薬草に目を付けたのは、マーチン公爵でした。そして・・・」
「え?」
「マーチン公爵の本当の目的は、リカの国の薬草だったのです。父や母を追放に追い込み、再度、リカの国を手に入れる作戦を失敗させたのも、マーチン公爵の思惑でした。そして、薬を売るには、病気が必要です」
「その説明の前に、私の秘密を話します」
「その秘密は、わたくしも、サルベーセンさんと同じ転生人と言う事です。しかし、前世でも、幼かった私は、その事を、生まれて直ぐに、こちらの母親に、気づかれました」
「私は、彼女の問いに、答えてしまったのです」