初めてのデート
第36章
「サルベーセン嬢、今日は、私とデートして頂けませんか?」と言う問いかけは、サルベーセンには届かず、完全にスルーされた。
「ルイ王太子、丁度、良かったです。本当なら、この遺跡の説明をエフピイに聞くつもりでしたが、王太子より、聞く事が出来るのなら、素晴らしい事です」
「その前に、明日からの予定を聞かせてもらえますか?」
「え?明日は、現在の王宮の散策、その後、慰霊公園の森、郊外に出て、田園地帯を見て、河川を調べます。その後、お店が開き始めたら、色々なお店を回る予定です。後、物凄くキレイな住宅地も見学したいと、思っています」
「なんの為に?」
「え?別に意図はありません」
王太子は、少し考えて、サルベーセンと一緒に歩きながら話を始めた。
「サルベーセン嬢、僕は不思議でならない。あなたと出会ってから、いつも心のどこかにあなたがいる」
「??????」
「気になるのです。あなたが行っているすべての事に意味があり、その事を見逃すと、後悔するように思えます」
「でも、あなたの今後の予定を聞いて、少しだけわかりました」
「何を?」
「秘密です」
「!!!!!!」
「では、ここの遺跡を説明させて下さい。こちらの王宮は、随分前の国王が建設した王宮です。その前の王宮は、慰霊公園となっていますが、その意味は、既にご存じですか?」
「本当に、反逆の地なのですか?わたくしの屋敷の一角もあちらの公園に含まれています」
「あそこに屋敷が建っていることで、マーチン公爵は、随分前から、あなたの父上に興味を持っていたことがわかりました。それは、父上は、王都の事をあまり知らない方だったからで、お母様もイレブン・ヴィン領の出身で、珍しく恋愛結婚でした」
「ヴィン夫妻は、王都に来てから、随分、戸惑われたと思います。だから、あなたが外に出ずに、引きこもっていても、無理強いはしなかったのでしょう」
「本来、地方の領主は、王都に出る必要はありませんでした。しかし、マーチン公爵より、電気の話を聞いたヴィン伯爵は、ご興味をお持ちになり、同時に、港の開港も打診されました」
「だんだん、ヴィン伯爵と兄上は、マーチン公爵に囚われたのでしょう。それは、もしかしたら、あの場所のせいかも知れません」
「最初の内戦も、次の内戦も後継者争いが発端です。それを悲しんで、先王達は、呪われた王宮を2度捨て去りました。この遺跡王宮は、その後の国王陛下たちも、呪いの為か、又は、恐怖の為か、誰も手をつけずにずっと、この状態で保存されています」
二人は、ゆっくり歩き、王太子は、サルベーセンにガイドを始めた。
「ここは、軍部の持ち物で、あちらは正面の入り口です。当時、この王宮は、復興の象徴で、それは、それは、美しい宮殿だったそうです」
「サルベーセン嬢、あそこから、旧王宮の庭園に入る事が出来ます」
「まぁ、庭園は、まだ、このように美しいのですね」
「ええ、市民のボランティアの方々が、手入れをされていると、聞いています」
「噴水も・・・、ベンチも綺麗で、今でも、貴族の方々が優雅にお茶会を開く事が出来そうです」
「しかし、どうして建物は、爆撃を受けたように壊れているのですか?地下もえぐられています」
「その頃、王都の街は、電気がなくガス灯が街を照らしていました。そのガスを利用されて、爆撃を受けました」
「現在は、電気で対応していますが、それでもまだ一般の家は、オイルランプを使用しています。だから、ランプは小型で明るく、庶民でも、手に入りやすいようにしています」
「電気の発展は、本当にこれからです。今、やっと、ここまで来た状態です。それなのに、君の領地に試験段階の発電を手伝いたい。と、言われたら?あなたならどうしますか?」
「飛びつきます」
「あの地に、屋敷を建てる事も、敵国に武器の一部を送る仕事もマーチン公爵の指示したことだと、彼は認めました。自分は、呪いに囚われただけだと・・言いましたが、結局、あのマーチン公爵は、あなたによって罠に落ちてしました」
「彼、認めたのですね。ありがとうございます。これで、ヴィン家の件は、はっきりしました」
「その後の事は、いいのですか?」
「ーーー本当は、知るのが怖いのです。今のこの平穏な毎日が、続く事を願っています。それに、わたくし、あの呪われた地に、住んでいるのですよ。反逆者かも知れません」
「ハハハハ・・、あなたが反逆者なら、マリヒューイは、こんなに懐きません」
「王太子、この王宮の近くにも美しい川が流れています」
「はい、王都は、大きな二つの川の間に存在していて、その川を利用して、発展を模索しました。山や崖を壊して、道を作る事を避け、川の整備を基準にして、水害を防ぎながら、生活に必要な水も、畑に必要な水も、ち密に計算して、土木部が開発しています」
「ええ、素晴らしい考えです。ーーーー水力によって電気も?」
「はい、太陽、水力と風力に頼っています。それは、先人の教えです」
「その人は・・・?もしかして、マリヒューイのような方だったのですか?」
「そうです。半分は、マリヒューイのような人だったのでしょう」
「半分?」
「・・・・、あちらの川の方に行ってみますか?恋人たちが散歩する歩道が整備されていて、休む場所や、川沿いに、レストラン等があります」
「先生、こっちに来て、物凄く景色がいいよ」とケンティとマリヒューイは、手を振る。
サルベーセンは、最初、リリアールとかみ合わないと思っていたが、最近は、王太子の言動も理解できない時がある。
デートのように、川辺を歩き、食事を取って、買い物もして、その日は、終了した。
次の日からは、従者4人のうちの一人が、必ず同行するようになって、王都についての説明をしてくれた。
「サルベーセンさん、もう少し、勉強したいのでしたら、王立の図書館や教室、資料館などが王都にはありまして、そこで、調べる事や学ぶことが出来ます」
「教室の方は、学校ではないので、年齢制限がありません。サルベーセンさんも参加できますよ」と、最終日のコウシャは、場所を説明してくれた。
「いいえ、この後は、おとなしく屋敷で、仕事をします。ありがとうございました」
「本当ですか?」
「嘘かも知れませんが、わたくしの自由を尊重して下さい。しかし、逃げたりはしません。逃げても、どうせ、マリヒューイには、バレてしまいます」
「ハハハハ・・、そうですね。わかました。王太子に報告しておきます」
ケンティとマリヒューイは、学校が始めり、やはり、王宮から迎えの馬車が来て、二人は、渋々それに乗って登校して行った。
静かになった屋敷の執務室で、サルベーセンは、ヴィン邸の見取り図を取り出し、リリアールと相談する。
「ねぇ、それにしても、王宮遺跡の庭は、キレイだったよね?」
「ええ、昔の面影が少しだけ感じられました」
「でも、最初にこの屋敷に来た時、この屋敷の庭の枯れっぷりは、相当、酷い状態だったよね」
「雑草も生えていなかったし、今でも、畑以外は、土色だよ。どうしてだろう?」
「実は、思い出した事があって・・・、わたくしの住んでいた屋敷は、植物が育たない屋敷だったのです」
「??????」
「当時、貴族たちは、ガーデンパーティー、つまり、庭園でのお茶会や芸術を愛でる会などが、流行っていましたが、その度に、鉢植を大量に購入して、植えては掘り起こす職人を雇っていました」
「それを、おかしいとか思わなかったの?」
「当時は、美容に忙しくて、気づきませんでした。・・まさかあの土地が呪われているなんてねぇ」
「わたくし、このお屋敷と土地が、どの位、呪われているのか検証してみようと、思います」
「どうやって?」
「街の種店で、大量の種を購入して、それを、今の畑以外の場所に全部撒きます」
「それでは、屋敷の庭は、薔薇園のようになるのですか?」
「まさか、食べられる野菜に決まっています」
「また、畑・・・・」