新年
第34章
王室に移動した直後、ルイ王太子と誕生パーティー後を事を話し合った。
「君の本当の目的を聞きたい。君は、父上や兄上の仇を取りたいのか?」
「いいえ、ーーーそんな事は思ってもいません。ただ、何もかも、あやふやなまま、生きて行くとこが、少し、辛くなりました」
「私が、テン・ヴィンの町で、王太子たちと会わなければ、あのまま、あの家で、死んだように生きていたでしょう。しかし、私たちは出会ってしまった。ーーー運命が回り始めた。違いますか?」
「世間知らずのわたくしでも、父や兄の無念を晴らす事は出来ないと知っています。それでも、どうして、このように没落した理由を知りたい。あの数日に何があったのでしょうか?」
「わたくしは、貴族に戻る事は望んでいません。領主でいる事も望みではありません」
「・・・マリヒューイの事は、最大の秘密で、もしも、そのことに関わるのでしたら、キッパリ諦めます。しかし、わたくしがその人を確認して後に、もしも、その人が罪を犯していた事が証明されたら、その人物は、罪を問われるべきです。違いますか?でも、家族は、わたくしのように何も知らないかも知れません。それが気がかりです」
「どうか、その方が捕まっても、家族を同じ罪で裁かないで下さい」
「何も知らないで、罪を受け、裁きを受け、死んでからも、ずっと、自分の死を受け入れられません」
「父上と兄上は、知らずに騙されて、密輸入を手伝わされたかを確かめて、もしも、そのことがこの国の最大の秘密にかかわる事なら、真相を公にしなくてもいいのか?」
「サルベーセン嬢、それは、マリヒューイの為か?」
「いいえ、自分の為です。自分が納得して生きて行くためです。あの数日の事は開けてはいけないと納得し、関係ない人の処刑を無くす為です」
「サルベーセン嬢、約束してくれ。今回は、その人物を君に見せるだけだ。他の意味はない。だから、例え、君が彼を知っていても、どうか、その日は、見逃してくれ・・」
「わかりました。今回は、互いに確認するだけです」
3人で、新聞を読んだ後、ケンティは、馬や鶏の世話で出て行き、リリアールとサルベーセンは、二人きりになった。
「マーチン公爵、亡くなったんだね。・・・病気で・・・?」
「病気の発表は、家族を犠牲にしない為だよね。王太子・・、サルベーセンとも約束、守ったんだね。サルベーセンは、守らなかったけどね」
「あの騒動の後、王太子、滅茶苦茶、怒っていたもんね。でも、アレは、あっちが先に・・」
「・・・・・・」
「でも、真相は、いつ聞けると思う?」
「ーーーーーー」
「リリアールは、前のサルベーセンを知っているから、やはり、どうしても真相を知りたいよね?」
「私の望みは、2番目・・、親がしでかした罪を、妻や子、その一族が背負う事を止めて欲しいの、リリアールやサルベーセンのような人を、一人でもなくしたい」
「でも、そこは、本当に難しい所なのよ。今回、マーチン公爵には、名目上、嫡男がいなくても、愛人には男の子がいて、その子が、結構なやり手で、将来、この国に謀反を起こす可能性があるとしたら?」
「ーーーそこは、今度は、調べるでしょう?王太子様には、あんなに優秀な部下が沢山いるのよ。今回だって、表向きは、病死にしているだけかも知れないでしょう?そこは、お互い、騙し合いだから・・」
「だから、私の考えが、ほんの少しでも王太子に伝わればいいの・・。私は平民ですから・・」
「そうそう、新しい年を迎えて、ケンティが馬車に乗れるようになったら、3人で王都を見て回りましょう。だって、まだ、全然、王都を楽しんでいないよね」
「それは、あなたが引きこもり・・・・」
「ううん(咳)貴族の人達は、どのように新年を迎えるの?」
「わたくしがいた時代は、大勢の貴族がいましたので、連日、どこかの屋敷でパーティー、夜会、ダンス、おしゃれ、それと王宮での国王陛下の御挨拶など、大変、忙しかったです」
「でも、私たちは、食べて、飲んでしかやる事ないから、元旦から出かけましょう。10日まではケンティたちの学校がお休みです。だから、毎日、リリアールの好きな所に行きましょう」
「え??いいの?お金がかかるけど・・・・?」
「ーーー高級店は、外から見るだけにしましょう。きっと、入れないから・・。ね?身分がね?」
大みそかの夜は、珍しく豪華な食卓で、ケンティと二人でババロンと太鼓で、歌を歌いながら盛り上がり、夜には、ヴィン邸の裏の大きな公園では、花火も上がった。
「先生、すごいです。僕、初めて花火を見ました」
「ねぇ、本当にこんなに近くで、誰もいない庭で、まるでわたくしの為に上がっている様です」
二人は、庭で大騒ぎしながら、楽しそうに花火を見て、大声で笑っていた。その様子は、当然のことながら、王宮にも伝えられ、王太子は、珍しく笑ってそのメモを見ていた。
次の日は、新年であり、ケンティの初めての街乗りに日でもあった。
「サルベーセン、新年なのに、もう少しおしゃれしなさいよ。何、その服装! 」
「それは、私も考えたけど、馬車が・・・、あれでは、あまりにちぐはぐでしょう?でも、どう見ても金持ちとは思われないから、襲われる事はない安心感は、有るよね」
「・・・・・・」(リリアールは、物凄く不満げにしている。)
「だから、馬車の内装を少し豪華にしてみました。ジャーーーン!! 床には、ホカホカの毛皮をひき、椅子には、大量の綿で作ったクッション、それに荷物置き場、洋服を掛けるハンガーも搭載、そして、折り畳みのテーブルや、飲み物もこぼれないように、カップホルダー、椅子の下は、ほら、隠し収納があって、お金を、たくさん入れてあります。当然、暖かい膝かけ、そして、大好きなスリッパ」
「向かいの一番豪華な椅子は、リリアール専用です。どうぞ、お嬢さま・・」
リリアールは、そこに座ってみる。
「ーーーこんな感じ?」
「うん、いい感じです。二人で出かけるみたいでしょ?」
「マリヒューイが、乗ってきたら?」
「・・・・・・」
「さぁ、出発しましょう!」
「最初は、王都門が目的地です。出発! 」
ケンティの初めての街乗りの為に、朝、まだ、人が少ない早朝に出発して、王都門の近くで、朝食をとる事にした。
「先生、王都門は、新年、3日間は、閉まっていると聞いていますが、それでも向かうのですか?」
「ええ、わたくし、一度も王都門を見たことがありません」
「では、どうやって、領土に戻ったのですか?」
「気絶してました」
「ーーーーーー」
王都門は、閉まっていたが、大勢の人が、商店街で、働いていて、活気があって、サルベーセンと、ケンティは、ワクワクしながら、その様子を見ていた。
「ケンティ、欲しい物があったら言ってね。そうそう、これは、お年玉です。好きな物を買ってもいいし、貯金してもいいです。日頃のお小遣いとは別に、新年をお祝いして、ケンティにあげます」
ケンティは、嬉しそうに、自分のカバンに入れて、3人は、色々な店を見て回って、朝食のやっている店に入ってみた。
「お店で、食事をするのは、この前の船旅以来です。あの時、練習していて良かった。このようなお店は、商品を選んで、店員を呼んで、お金を払ってから、食事が出来ます」
「ケンティ、これで大丈夫?」
「大丈夫です。今、店員を呼びます」
ケンティが、何とか店員をよんでから、食事を始めた時、息を切らして、エフピイが現れた。
「エフピイ、どうしたの?新年早々に?お仕事?」
「サルベーセンさんこそ、どうしたのですか?お酒も飲まずに、王都門を目指して、今、王宮内は、大騒ぎですよ」と、耳の側で小さな声で、震えながら囁いた。
「でも、ケンティ、新年になったら、一人で乗っていいと許可が出たのよね?」
「はい、エフピイさんは、そのようにおっしゃいました」
「ーーーでも、こんな早朝、どうして、王都門なのですか?・・もしかして、脱走なさるのですか?」
「脱走って・・?出来そうかしら?」
「・・・・・・」




