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誕生日パーティー②

第32章

 遂に、クリスマスの夜、ルイ王太子、20歳の誕生パーティーが開かれる。


 街では、号外が配られ、初めて、カオ国より婚約者のサリーサリー王女が、ご一緒に参加されると、大々的に発表され、王都のみならず、国中から祝福され、他国からも多くの関係者が出席している。


 その盛大な夜空の下で繰り広げられる馬車の数、人々の多さを王宮のバルコニーから見ただけで、サルベーセンは、足が震えはじめた。


 「リ、リ、リリアール、多分、わたくし・・、駄目だ。だって、すごいよ。この眩い光、この世界に来て、初めて見る明るさ! ヴィン家の電気なんて、あって無いような電気なのに・・、ここはすごい! 」


 「王宮で自家発電しているとしか思えない程の明るさ・・・、それに、何発も上がる花火、すごいよ。まるでおとぎの国に来たようで、自分が出席するなんて幻だよ」



 バルコニーに張り付いているサルベーセンに多くのメイドは、振り向くのを待っている。


 「サリーサリー王女、出発のお時間です。ドアの向こうで王太子がお待ちかねです。何が起こっても、私達がサポートいたします。今日は、どうぞ楽しんで下さい」


 振り向いた時、今まで本当にサポートしてくれたみんなの顔が、微笑んでいたので、なんとか落ち着き、

 「ええ、楽しみましょう。さぁ、パーティーは始まります」


 大きなドアが開けられ、今まで見たことがない正装の王太子が笑顔を見せて待っていた。


 「おおおおお・・、素晴らしく美しい。本日は、頼みましたよ。サリーサリー王女」


 「ルイ王太子、本日は、お誕生日おめでとうございます。さぁ、行きましょう。皆さんがお待ちです」



 初めての社交界が、このような盛大な場所なんて・・・。リリアール、絶対に側に居てね。


 「サルベーセン、大丈夫、いつも側についているから、安心して、あの男を探すのよ」


 「うん、わかった」


 『皆様、本日の主役、ルイ王太子、カオ国、サリーサリー王女のご登場です。』


 ドアが開き長い階段を一段、一段、丁寧に降りて行く。王太子は、震えるサルベーセン腕をしっかり守り、手を握り、落ち着くように導いてくれる。


 大きく深呼吸してはいけないと、何度も叱られたけど、山頂にいる様に空気が薄い。


 「王女、今日は、本当に綺麗です。ドレスもあなたにとても似合っています。太陽の下にいる様な、カラフルなドレスで、白い腕が、美しく映えます」


 「ありがとうございます。メイドさん達のお陰です。毎日、美容液の中に浸っていたように思えて、寝ている時も、ケアをして下さいました」


 「ええ、本物のサリーサリー王女は、毎晩、そのように暮らしているのです」


 「本当に?スゴイ! 」


 「緊張は少しはとけた?」


 「ええ、何とか行けそうな気がしてきました」

 (ゆっくり歩いてくれたのは、緊張をほぐす為?)


 それから、国王陛下の祝辞が読み上げられ、今日は、他国に滞在していると発表された。


 「まぁ、国王陛下もご多忙でいらっしゃる」


 「何しろ、公国の長でいらっしゃるから、仕方が無いが、王太子の20歳の誕生日に欠席とは、残念でしょうね」


 まわりの貴族たちは、代わる代わる、祝辞を述べて、国王陛下の欠席を残念だと、ルイ王太子に告げていた。


 サリーサリー王女のサルベーセンは、姿勢を保ったまま何度も挨拶を交わし、たまにご婦人たちから、

 「本当に美しいドレスですね」と、質問が寄せられたので、


 「国の民族衣装です。メイド達が、着ている物も自国の物です」


 「ええ、素晴らしいです。デザインもサリーサリー王女にとてもお似合いです」


 「はい、わたくしもこのデザイナーの凄さに驚いています。薄い生地ですが、実は秘密がありまして、暖かいのです」


 「そうなのですか?この何色も使った薄い生地で出来ているドレスがですか?」


 「はい、そうです」


 サルベーセンは、主に、貴族の奥様との会話を楽しみ、姿勢を崩さないまま、ドレスや好きな美容法などで、会話を続けた。


 一通り、貴族たちとの交流が終わると、音楽が変わり、ダンスフローのように、人々が壁によけ、王太子と王女のファーストダンスを待っていた。


 鼻から息は吸わないが、唾をのみ込み、みぞおちに力を入れ、王太子と共に中央へ優雅に繰り出して行く。


 最初の一音が流れ、リリアールが、教えてくれて古い形式のダンスを踊り始めると、会場からは、「ふぁ~~~ステキ!お二人ともお似合いです」と、意外に好評を得た。


 「君が踊るこのワルツは、随分、伝統を重んじていると、イカルノも驚いていた。ヴィン伯爵におそわったのか?」


 「いいえ、お友達に教わりました」


 「たまに、その友達の話がでるが、今も、連絡を取っているのかい?」


 「はい、今もずっと連絡を取っています」


 「君は、孤独が好きな人だと思っていたが、そうでもなかったのだな・・」


 「はい、・・・、所で、その男性は、まだこの会場にはいらっしゃりませんか?」


 「うん、このまま、左の窓の方に移動してみよう」


 「はい、わかりました」


 二人は、飲み物を取りに行きながら、はけて行き、王室の次に身分高い、公爵家の集まりに近づいて行った。


 リリアールが天井から、『サルベーセン、あの4人の集まりの一人、髭の有る人物です。』と指さし、サルベーセンは、その顔を覚えて、繋いでいる手に力が入った。


 王太子は、既に、聞く必要もないようで、イカルノ達に視線を送り、イカルノ達は動き始めた。


 「どうする?大丈夫か?」


 「ええ、大丈夫です。ご紹介して下さい」


 この国に、一番、初めに復活した貴族は、4人の公爵だった。後は、領主の伯爵家だけで、男爵、子爵などは、現在でも存在していない。


 公爵家は、政治的な協力が主に仕事で、主に外交などをして国を助ける役目を果たしていた。


 その4人の中の一人、マーチン公爵、この人こそが、リリアールがヴィン家で見かけた事の有る人物だった。


 「王太子、お誕生日おめでとうございます」


 「ええ、ありがとうございます。皆様もお忙しい中、ご出席して下さいまして、ありがとうございます」


 「それにしても、国王陛下は、今、どちらの方へ?」


 「はい、彼女と入れ違いで、カオ国に、急遽、出向く事になりました」


 「ああ、なんでも、今、サリーサリー王女の国は、内戦になる可能性が出て来ていて、大変な状況です。その為の出国ですか?」


 「はい、父が不在な場合、僕が国内に留まり、指揮を執るつもりです」


 「しかし、我々も仕事で、国外にいる事が多いですが、この数年、国王陛下にお会いする事が出来ません。今日は、流石にご出席されると思っていましたが、残念です」


 マーチン公爵が、

 「カオ国は、自国がこのように不安定なのに、よく、サリーサリー王女の出国を許可されましたね」


 ルイ王太子が、

 「はい、私たちも、数か月も会っていませんので、今宵の誕生日プレゼントにと、カオ国の国王の計らいです」


 「ええ、若い人達は、会えないと寂しい物です。年を取ると、そうでもありませんがね。たまに国内に長く滞在していると、家族も私もぎごちなくなってしまう時が有ります」


 「ええ、奥方に、目で催促されている様で・・・。ハハハハハ・・・・」


 残りの3人は、人の好さそうな人物で、ただ、マーチン公爵だけは、


 「しかし、お顔がはっきり見えないのは、残念です。お話もあまりなさらないのでしょうか?何か、カオ国について我々に教えていただけませんか?」


 (この人、疑っているの?)


 「そうですね。この国のダンスは、多少、練習して来たのですが、王太子と初めて踊ってみて、皆さん、ぎこちないと思われたと、感じましたので、我が国の音楽とダンスを披露させて頂きたいと思いますが、いかがでしょうか?」


 「王太子の誕生日プレゼントとして」

 (サルベーセンは、マーチン公爵に挑む)


 お付きのメイドは、美しいババロンを急いで用意して、フロアーの中央に椅子を置く。



 サリーサリー王女は、ババロンを抱え、カオ国の民族曲を披露する。それは、ババロンを奏でだけではなくて、ケンティが太鼓を叩いていたパーツも、時々、ババロンを叩きながらアレンジして入れながら、カオ国を思いサルベーセンは、ババロンを弾いた。


 王女がババロンを引けば、周りのメイドは、全員で美しく、妖艶に踊り、その場は一瞬で盛り上がって、誰もが、サリーサリー王女を偽物だと疑う事はしなくなった。




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