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万能シスター②

第30章

 初めてルイ王太子に会った時に、リリアールは、『あなたの攻略対象は、あのルイ王太子だわ』と、言った。


 最初は、何を言っているのかわからずに、どうしてそのように言ったのかも、考えなかった。

今は、私に憑いているリリアールは、前は本物のサルベーセンに、又は、この屋敷に憑いていたのではないかと、思うようになった。


 私が、一度死んで、黄泉の国からリリアールを連れて来たのではなくて・・・。


 前のサルベーセンの不幸は、ルイ王太子がもたらしたもので、その原因はマリヒューイ、辛い事実が発覚しても、リリアールの真実を探す姿勢は、変わる事はない。その真実は、あの王太子と共にある。


 だから、今、ルイ王太子が、「泡のように消し去った人物に会ってみないか?」と挑発して来た時に、リリアールの物凄い悪寒を感じた。


 絶対に、雪の中に、埋められない何かが有るんだ・・・。その為に、リリアールと自分は存在する。


 「その方と会ってどうするのでしょうか?」


 「君がその人物に、この屋敷で会った事があるかを聞きたい」


 リリアールを見ると、般若のような顔で、頷いたので、サルベーセンも頷くしかなかった。


 「わかりました。出席するだけでよろしいでしょうか?わたくし、来年度の領地の予算を計上する為に、これから毎日、書類整理と計算など忙しいのです」


 「私はいいが、君は、それでいいのか?社交界にもデビューしていない娘が、王室主催の誕生パーティーに出席して、立っているだけで、いいと思っているのか?」


 「ドレスは、来月、カオ国から到着する。君と親しくしていたメイド達が、当日は、上手く仕上げてくれるはずだ。そして、一緒に参加もしてくる。ーーーしかし、君が、サリーサリー王女として、失敗でもしたら、両国の友好関係に傷がつく。本当に大丈夫か?」


 「そんな事は、不可能で、無理です」


 「それでは、書類整理と計算、部屋の片づけ、社交界でのマナー等の為に、王宮からシスターを増員しよう」


 リリアールは、大きく頷き、サルベーセンは、首を横に振る。



 エフピイが、その日の夜、教えてくれたのだが、子供たちのいる孤児院は、特殊な訓練を受けた人間の隠れ家になっている。だから、子供たちもいつの間にか、訓練され、使える人間になるようだ。


 「だから、何をしても生きる事が、使命になっています」と、言っていた。


 この世界に来てから、夢中に働いていただけの、日本の生活が懐かしい。腹の探り合いの中、正解を探す事が生活の一部、ああぁ~早く、領土の家に戻りたくなってきた。


 「リリアール、誕生日パーティーが、終わったら、一度、領土に帰る?」


 「命の保証はあるのでしょうか?」


 「えええぇぇ、そうでした。その誕生日パーティーが終わった後に、また、変化があるかも知れないよね。犯人がわかるとか・・・?」


 サルベーセンは、この時、前から聞きたかった事を聞いてみた。


 「リリアールは、この屋敷に来てから、行動範囲が広がったよね。外でも比較的自由に動けて、屋敷内も、どこにでも行ける。どうして?」


 「このお屋敷が立っている場所は、昔、わたくしが住んでいた場所の一部です」


 「この屋敷の裏は公国の公園が広がっていますが、もしかして、物凄い広い公園に、住んでいたの?」


 「ええ、わたくしは宰相の一人娘でした。処刑される直前に、聞いたのですが、この地に屋敷を構えた人物は、反逆者になる呪いがある。それを知りながらも、父はこの地に屋敷を構え、だから、心が傾いてしまったのでしょう」


「そのような言い伝えは、母も私も知りませんでした。父上が、事を起こすことは、当時の国王陛下は、ご存じで、父に何度、進言しても父上は、聞かなかったそうです。だから、わたくしがこの地に舞い戻った時には、不思議でなりませんでいした」


 「どうして、ここに屋敷が立っているのかが?」


 「そうです。あらから、何十年過ぎたかはわかりませんが。先ず、あのような田舎の領主が、王都の中心地に屋敷を構える事が出来た事に疑問を持ちました」


 「それは・・、誰かの口添えがあったから?」


 「ええ、多分、それなりの身分の人でしょう。わたくし、一度だけ、夜中にこの屋敷で、ヴィン伯爵が言い争っているのを聞いていいます。その人が来てから、2日後に、あなたの父上と兄上は、収監されて、直ぐに処刑されました」


 「本当におかしいと思って、前のサルベーセンにも、何度も話しかけたけど、彼女は一度もわたくしを相手にしてくれず。・・、混乱しているのか、その後、直ぐにイレブン・ヴィン領に、母親と一緒に旅立ってしまって・・・。そして、仕方なく、わたくしもついて行きました」


 「王太子とあなたは、その人物を探し当てたいの?」


 「王太子は、確実にマリヒューイを狙っている人物を探している。どうしてそれほどに、彼女に執着するか、それも疑問ですが、ヴィン家の悲劇と、マリヒューイ事は繋がっているように思えます」


 「・・・・・・」


 「難しくて、頭が回らない、明日から、シスターが増えて、また、新し日常が始まる。ああ、ストレス! 静かに暮らす事が、生きがいなのに・・」


 昨晩、飲み過ぎて、頭がボーとしながらも、ケンティとマリヒューイに朝食を作り、2二人を見送って、欠伸をしていると、10人位の優秀なシスターが、やって来て、グループ分けが始まり、マナー教育班、片付け班、書類班となった。


 最初は、サルベーセンの執務室を完璧に片付け始めた。


 「どうして、ここから?」


 「王太子が、時々、様子を見に来るそうです。失礼がないようにと、命令が下りました」


 「チっ! 」


 「まだ、すべての書類が、揃っていなくて、計算できないから、何も捨てないで下さい」


 「わかっています。どのようにその予算を、算出するのかも覚えてくるように言われています。


 「チェ! 」


 「これからは、二度と、舌打ちする事はヤメて下さい。下品な行いです」


 「・・・・・・」


 朝から、片付けてお昼に、何か作ろうかと思っていたが、キッチンも、キレイに片付いていた。

 「どうしたの?この快適空間?」


 「はい、すべて分類に分けてあります。例えば、豆は、大きい物から小さい物へ、お茶も、米、麦、野菜も、必要な分だけをこの場所に、置くようにしました。ワインは外のワイン用の倉庫に移し、必要な物だけを、キッチンに常備します」


 「ええ、素晴らしいです。いつかしようと思っていましたが、一人では、手が回らずに、助かります。えええ、本当に綺麗に片付けるつもりでした。春までには・・・・」


 「しかし、本当に素晴らしいキッチンで、食器も貴族用の食器が揃っていますので、これからは、こちらをお使い下さい」


 「グラスの種類も豊富です。パーティーでは、殆んど口にすることはありませんが、毒の入っていないグラスを、選ぶことがあります。ただ、王太子の側に、立っていればいい訳でもありません」


 「午後は、グラスの説明から、時間がありましたら食器まで行きたいと思います」


 「でも、畑が・・・」


 「全員で、ご指導する事はありません。それぞれが得意分野で指導いたしますので、他の人間は、サルベーセンさんがしていた仕事をさせて頂きます」


 「子供たちも、庭で遊びながら手伝ってくれます。任せて下さい」


 「問題なのは、いつ、ドレスが到着するかです。ドレスが到着次第、王宮の方へ移動して頂いて、サリーサリー王女になってもらうと、伺っていますので、王宮内での暮らしも考えて、そちらの知識、身だしなみ、振舞い等も、覚えて下さい」


 「こちらのお屋敷は、ご立派ですが、王宮に比べますと、何もかもが劣ります。美術品や絵画、詩などの勉強も始めなくてはなりません」


 「待って下さい。もしかして、この屋敷を、仮想の王宮にするのですか?」


 「はい、出来る限り、目立たないように備品を運び込み、サルベーセンさんが、慌てなくて済むようにいたします」


 リリアールが、天井から、

 「サルベーセン、彼女たち、本気だわ。なんだか闘志がみなぎっていて、あなたを通して、自分たちの力を誰かに見せつける様な、殺気を・・・・?感じる」


 「彼女たちは誰と戦っているの?エ~~~~ん! 」




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