万能シスター
第28章
サルベーセンの思惑とは違って、孤児院の子供たちは、それからやって来なかった。あれから、2週間で、王都の街の雪は溶けて、学校が始まる前に、シスターは、完成した衣類を持って来てくれた。
「ありがとうございます。こちらは代金です」
「ーーー沢山の暖かい生地を頂きましたのに、代金まで頂くのは・・」
「わたくしは、経済観念が足りず、仕立て代の相場がわかりません。領土では、すべて同一賃金を通していますので、足りなくても、許して下さい」
「助かりました。明日からは、ケンティも学校ですので、今日のうちに街にでて、少し、物の値段を見てくる予定です」
「お供もいなくて大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。ケンティがいます。彼は本当にしっかりしていて、いつもわたくしを助けてくれます」
シスターは、後ろ髪を引かれながら、代金を受け取り、帰って行った。
ケンティがやって来て、
「先生、シスターがやって来たの?子供たちは?」
「ケンティが、子供達と遊びたいのは知っていますが、わたくしは、しばらくこのまま暮らしたいのごめんなさい」
「大丈夫です。明日から学校で会えます」
「お詫びに今日は、街に出て買い物しましょう」
「先生・・・、お金、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。ジンが、あちらの家にあった金を届けてくれました。貴族の人達って、金は、どうしているのでしょうか?ケンティ・・、学校で習ったら教えてください」
「先生、僕は先生が心配です」
「ええ、わたくしも自分が心配です。とにかく買い出しに出ましょう。明日からは、ケンティも、孤児院の彼らもいません。多少は、食料なども買い足したいです」
二人は、新しい服装を着て、サルベーセンは、ズボンの上から、ドレスを纏い、見るからに平民とわかる格好をして、ケンティに相談する。
「ケンティ、この服装はどうですか?・・・平民に見えますか?」
「ーーー見えます」
リリアールに「ケンティの少しの間は、どういう事?」と聞くと、
「おかしな平民って、意味でしょう」と、答えた。
「ええ、王都では、人間観察を行っていないので、少し街に出て、観察してから、これからの対策を考えましょう。この世界に慣れるには、本当に大変だわ・・・」
二人は、先ず、卵を探し始めた。
「卵とベーコンのような肉と、なんでもいいから肉と、なんでもいいから調味料と、なんでもいいから、日用品・・・」
しかし、街は本当に食料がなく、石鹸やシャンプーなどは手に入ったが、牛乳やチーズなども、見るからに粗悪品で、お腹を壊しそうだと、思った。
「先生、卵を売っている店は少ないけど・・、露店で鶏を売っていますね」
「屋敷の裏に、小屋が有りましたけど、そこで、鶏を飼いますか?」
「あのような露店の鶏は・・、オスなのではないでしょうか?」
「卵を産まなかったら、食べればいい」
「ケンティ、流石のわたくしも鶏を絞める事は、できません」
「僕が、孤児院の子供たちに聞いてきます」
「そう考えると、あの子たち、本当にすごいわ・・・・。しかし、あの籠に入った鶏を二人で運ぶのは、大変です。諦めましょう」
「先生、馬と客車も売っていますよ。馬車がありば、荷物が運べます」
「ケンティ、馬車は大丈夫?」
「はい、ここから屋敷までは、馬を引いて帰りましょう。あの広い庭で練習すれば、どうにか乗れるようになると思います。コツは、コウシャさんに聞いています」
「畑を潰さないでね」
「勿論です。そこは一番気をつけて、鶏と馬の世話は、僕がします」
「では、一番小さな馬車を買いましょう。お金は、いくらでしょうかね?」
ケンティとサルベーセンは、馬車を購入する為に、恐る恐る、馬主を訪ねた。そこは、少し怪しい感じで、女、子供が交渉するには、違和感があったが、ケンティが、どうしても馬車が欲しいらしく、一歩も引かないで、その店に入って行った。
「馬を探しているのか?」
「はい、そうです。この子が乗れるような小さい馬はありますか?それと客車か荷台も購入したいと思います」
店主は、ジロジロ見て、
「今、馬を買おうっていう人間はいないよ。餌が無いんだ。雪が降って、干し草などが不足している。馬を譲っても餌を与えられない人には売れない」
「干し草・・・」
「先生、先生の家の馬小屋の倉庫には、干し草は、有りました。大丈夫だと思います」
「そりゃ、珍しい家だ。今は、馬の食べる麦なども人間が食べていて、野菜はない、草は雪の下に埋もれていて、最近、やっと馬たちに食べさせられる。干し草や馬小屋があるなら、好きな馬を売ってやるよ。その方が馬たちにもいい」
「とにかく、大人しくて、安全な馬はいますか?」
馬主は、ケンティを連れて行って、ケンティが乗れる馬を探し始めた。
「お嬢さん、馬と客車は、それなりの値段だが、支払いは大丈夫なのか?」
「あの・・、料金はどのくらいでしょうか?」
「馬にもよるが、あの子供が乗るような馬は、200000pinだ」
「そうですか、それなら何とか払えそうです。荷台の方は・・・?」
その時、シスターが、現われて、
「両方購入しても200000pinは、しません。精々120000pinです」
「サルベーセン様、ここよりも、もっと親切な馬主がいます。ここでの購入はヤメて下さい」
馬主が怒って立ち上がり、シスターに襲い掛かりそうになったが、シスターは、
「この方が、今回、王都の困窮者に、食料を提供して下さった女性です。それでも、このように、高値を吹っ掛けますか?そうなれば、王宮は、きっとあなた方馬主を調べるでしょう。よろしいのですか?」
その店の馬主は、サルベーセンを見て、
「ああ、わかった。わかったよ。120000pinで、好きな馬と客車を売るよ。本当にあの子を、馬に乗せるのか?大体、あの子、馬に乗った事があるのか?」
「ええ、領土では馬で学校に通っていました。馬車の訓練もしたことがあります。しかし、今日は、二人で、馬車を引いて帰るつもりです」
ケンティが、好きな馬を見つけて来て、走って来た。
「先生、乗れそうな馬が見つかりました。あれ、シスター・・・?」
スシターは、その後、馬や客車の点検を行い。
「今日は、私が馬車をお屋敷まで走らせます。買い物したいリストを渡して下さい」
その後、買い物も無事に済ませ、鶏も鳥小屋に入れ、馬の手入れなどもサルベーセンとケンティに教えてくれた。
「ケンティは、これからこの馬に毎日乗って、仲良くなってから、街に出る様にして下さい。王都の道は、人もたくさんいます。気をつける事が多いでしょう。わたくしが大丈夫だと判断してから、街に出ると約束して下さい。よろしいでしょうか?」
「はい、わかりました」二人は真剣に答えて、サルベーセンとケンティは、今日の買い物で、己の無知を、何度も味わい、小さくなっていた。
「サルベーセン様、私も、あなたの様に考えていた時期があります。周りには信用できる人は誰もいなくて、毎日、自分の身を守るだけで精一杯でした。でも、やはり、一人では生きて行けませんでした。誰かを信じて、もう一度、世の中に出たい時に、私や子供達を思い出してくれませんか?」
「ーーーはい、ありがとうございます。私も少し考えて、閉じこもるばかりではなく、外にも出て行こうと思います。今日は、本当に助かりました。ありがとうございました」
シスターが、孤児院に戻って、ケンティと、何とか馬に餌を与えて、二人で馬小屋でのんびりしていると、マリヒューイが、現れた。
ケイティは、びっくりして、
「マリヒューイ、見て、王都でも馬を買ってもらって、また、馬に乗れる。客車も引ける馬だよ」
「ええ、ケンティ、明日から、わたくしも同じ学校に通います」
「本当に?」
「ええ、本当です。ここから一緒に通ってもいいと、許可が下りました。だから、一日でも早く、馬車を乗りこなして下さい。あなたが駄目が場合、私が乗ります」
「??????」
「お二人が出かけている間に、王宮から荷物を運びこみ、電気を引き、暖炉や煙突の掃除も済ませ、家具も一新して、明日から、ケンティと二人でここから通います。サルベーセンさん、よろしくお願いします」
「鍵、鍵は、どうしたの?まさか、また・・・・・」
「鍵は、イカルノが、開けてくれました」
サルベーセンは、怒りながらも笑って、サルベーセンが、笑ったので、二人も笑顔になって、干し草の上にジャンプして、ずっと、笑っていた。
笑いながら、「本当に、世の中、知らない事ばかり・・・・」と呟いた。