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雪が止んでも・・

第27章

 ケンティが、ヴィン邸で暮らし始めて雪は止んだ。


 久しぶりの快晴、サルベーセンと王太子たちは、もう雪は降らないと考えていた。


 「先生、雪が止みました」と、嬉しそうにケンティは、サルベーセンに、笑いかけた。


 「ええ、外に出て、庭をどうにかしましょう。庭が、あまりにも酷すぎます」


 「先生、僕も先生のような板が欲しいです」


 「コレ・・・、板に靴を張り付けてあるのだけど・・、替えの靴はある?」


 「あります。今回、王宮には、孤児への寄付が多く集まって、服や靴などは、そこで頂きました」


 「そう、では、少し小さめの板を探して、靴を張りましょう。コレ、本当に便利だけど、練習も必要です」


 庭に出て、王太子の部隊が、ヴィン邸の庭に雪山を作った所にケンティを連れて行き、一から指導する。


 「登っては、降りて、登ってを、降りてを繰り返して、滑れるようになったら、呼びに来てね、先生は、取られていない野菜を探します」


 「ケンティ!! ファイト!! 」


 サルベーセンは、ケンティが滑れるようになるまでは、相当時間がかかると思っていたが、2,3時間で、ケンティは、どうやら滑れるようになっていた。


 「子供って・・・、憎らしいくらいに上達するよね」


 「ケンティにとっては遊びと一緒なのでしょう・・。あっ、転んでいる」


 「でも、笑っているね。あーーーまた、山に登って行った」


 そんなケンティを見ながら、雪をかき分け、大事な食料を掘り出す作業をしていると、ベルが鳴った。


 「出ないの?」

 「出ると、いい事ある?」

 「・・・・・・」


 しばらくすると、見かねたケンティが、「先生、孤児院のシスターと、子供たちがお見えです」


 サルベーセンは、「は~い、」と返事して、スイスイっと、滑りながら、門まで行った。


 シスターは、30代くらいの女性で、キチンとしている印象で、

 「はじめまして、いつも、子供たちがご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 「それから、王宮の役人に聞いたのですが、たくさんの食料のご寄付をなさったと聞きまして、感謝しかありません。本当にありがとうございました。役人の方々がおっしゃるには、こちらの大きなお屋敷にお一人で暮らしていると、お聞きしまして、わたくしと子供達で、お礼に、何かお手伝いをさせて頂きたく、失礼だとは思いましたが、訪ねて来ました」


 「・・・・・・」サルベーセンは、心の中で、しばらく考えて格闘している。


 その役人って、絶対に、あの4人の中の誰かで、絶対に、何か裏がある・・、しかし、頼みたい事もある。どうしたらいいのか・・・・。


 サルベーセンは、リリアールを見て、子供たちの期待の目を見て、本当に格闘していた。


 その時、後ろから遅れてやって来たケンティが、スキーでカッコよく登場する。

 「先生、どうしました?」


 「孤児院の皆さんがお礼にいらしたの・・・、それで、何か御用はありますかって・・、でも、ケンティが来てくれたから、買い物の心配がなくなって・・・、どうしようかと・・・。ねぇ?」


 「じゃあ、後は、お裁縫だね! 」


 リリアールが、

 「ケンティ、何と鋭い。まったく、その通りだね。ここは、彼女に、お願いするしかないのでは?」


「また、スパイにお願いするの?泣けてくる・・・」


 その時、子供の一人が、

 「ケンティって、ここの子供なの?その板、すごくカッコいいね」


 「ああ、あっちの庭に、雪山があって、そこで滑る練習を始めたんだ。めっちゃ、面白いよ」


 「ケンティのお友達?」


 「うん、同じクラスの子、友達だよ」


 リリアールが、

 「ここまで、来ると、頼むしかないよ。子供達がケンティを羨望の眼差しでみている」


 サルベーセンは、「わたくし、裁縫が苦手で・・、シスターは、あの・・、お出来になります?」と聞いた。


 「はい、一応、大抵の縫い物は出来ますが・・・。お受けいたしましょうか?」


 「では、用意してきますので、お待ちください」


 その時、一番小柄な子供が、「先生、この大きなカギを開けると、庭に入って遊べるよね?」と、鋭い質問をして、ケンティが、「僕が、子供達にソリやスキーを教えておきます」と、答えた。


 大人二人、幽霊一人は、偽物の笑顔を身に着け、

 「では、中へどうぞ・・・」と、シスターと大勢の子供たちを招き入れた。


 屋敷に入る前に、ケンティに安全を図るように指導して、板で作ったソリなどを紹介して、畑の前を通って、屋敷に向かう時、


 「サルベーセンさんは、畑を作っているのですか?」


 「ええ、荒れた庭の枯れた花や木を撤去して、すべて畑にしています。大規模農場とは、行きませんが、たくさんの野菜や実のなる木を増やす予定です。しかし、今回の事があって、これからは、鶏なども必要だと思いました。牛も必要かしら・・・?」


 「サルベーセンさんは、変わったお方ですね・・・・。貴族の方は、ご自分のお庭の素晴らしさを、争っていらっしゃるのに・・」


 「でも、豪華な庭では、食べられません。わたくしは一度、飢え死にしかけて、その教訓から、食料が大量にないと不安でなりません。おかしいでしょう?だから、わたくしは、そんなにいい人でもないのです」


 「でも、今回の、未曾有の食糧難の時に、ご自分の食料を国に差し出されたと、伺いました」


 「それは、王室の方達と、色々な取引をして、最後には、大切な庭まで、全部を掘り起こされ、結局は、わたくしが負けたのでしょう・・」サルベーセンは、肩を落とし、

 

 「こちらへどうぞ、散らかっています、また、一から保存食を作り始めたので、ごちゃ、ごちゃしています」


  サルベーセンが、布の山から、自分で縫い始めた作業着を探し出す間、シスターは、その珍しいキッチンを隅から隅まで見ていた。


 「ここは、素晴らしいキッチンですね。この様に、明るく暖かいキッチンを初めて見ました」


 「ええ、自慢のキッチンです。本当は、領土のキッチンが一番好きですが、事情があって、今は、こちらで暮らしています」


 サルベーセンは、自分で縫って、ダメな部分のやり直しと、新しいデザイン画の説明をして、ケンティと自分用に、ズボンを頼んだ。


 「ズボンの裾をきっちりとめたいのです。お願いできますか?ゴムでもいいし、ボタンでもいいです。この綿の入った布で作って頂けると、有り難いです」


 「このデザイン画は、ケンティが、学校に穿いて行くのと、私の作業用です。残った生地は、処分してもかまいません。ご自由にお使い下さい」


 「このような暖かくて丈夫な生地を、本当に、よろしいのでしょうか?」


 「はい、このキルト生地は、わたくしの領土で作っています。追い返した領民が。置いていったものです」


 「追い返された人間でも、仕事を下さる方がいらしたら、きっと、諦めずに訪ねて来ると思いますよ。私は、子供たちには、生きるためには、何でもして生きる事を教えています」


 「だから、あの子達は、こちらのお屋敷に何度も通っていたと思います」


 「シスターは、意外に、ガッツがあります。でも、素晴らしい教えです。私も、その意見には賛同しますが、出来れば、わたくしを静かに暮らさせて下さい。両親や兄の為に、ここで、もう少し静かに暮らしたいのです」


 サルベーセンとシスターは、無言のまま、お茶をすすっていると、ケンティが子供達全員をつれて、やってきた。最初の感想は、


 「暖かい~~~~」と、全員で声を合わせて言った。


 「ケンティ、小さい子供達が、手を洗うのを手伝ってあげて、それから、食事にしましょう」


 子供達に、お湯と石鹸で、手を洗わせて、シスターにも手伝ってもらって、日本風の鍋で、野菜や鶏肉を煮込み、みんなで食卓を囲み楽しく食事をした。


 「先生、シスターに何を頼んだの?」


 「ケンティと私のズボン、キルト生地も領土の大工達が、持ってきてくれていたから、それでお願いしたの」


 「ああ、あの生地で作った洋服、すごく暖かいよね」


 「だから、余った布は、孤児院の皆さんで、使って欲しいとシスターにお願いしました」


 「わぁ~~~」と歓声があがり、又、サルベーセンは、また、後悔する。


 その夜、シスターと、大勢の子供達が屋敷を後にし、静寂が身に染み、ふと外を見ながら・・


 「そう言えば、あの日、王太子、あのコートを着ていた。リリアール、あなたどう思う?」


 リリアールは、ずるくて、何も答えずに、一緒に月を見ていた。




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