大きく門が開けられる。
第25章
ルイ王太子たちは、サルベーセンの問いに答える事が出来なかった。
その様子を見て、サルベーセンは、フッと笑いながら、そこから通り抜ける様に、素早く立ち去った。
「王太子・・・。彼女、どこまで調べ上げているのでしょうか?」
いつもの5人は、その場に立ち止まって、ウサギのように逃げるサルベーセンを見送るしかなかった。
サルベーセンが、町に出てから、2日後に、王都では珍しく雪が降り始めた。
「まだ、秋なのに珍しいね。この前、危険を犯しても買い物に行っておいて良かったね」
「本当だよ。雪が降って、野菜たちは、雪下野菜になったから良かったけど、肉は、本当に貴重に感じるね」
「王都で、雪が降る時は、いい事がないんだ」リリアールが話す。
「あなたの父上と兄上が処刑された日も、雪が降っていた」
「ーーーそうなんだ。記憶がないからわからないけど、サルベーセンは、その日、何を思っていたのだろう」
「自分の無力を嘆く以外ないんだよ。私も経験があるからわかる。どうして、こうなったのかは、死んでからも見つからない。巻き添えの理由は、・・・永遠にわからない」
それから、雪は止む事はなく、毎日、降り注ぎ、マリヒューイは、サルベーセンのもとを、訪ねる事はなかった。
雪の中でもストリートチルドレンは、やって来て、サルベーセンは、聞いてみる。
「住むところはあるの?」
「孤児院に住んでいる」
「雪が降って寒いから、これを食べなさい」と、パンに野菜を煮た物を挟んだ調理パンを渡すと、その場で、美味しそうに食べていた。
「雪が激しくなると、危ないから、もう来ない方がいい。滑ったり、風邪を引くと大変だから、孤児院にいなさい。今回は、多めにお金を渡します。だから、もう、来てはいけません。わかる?危ないから、来てはいけないのよ!」
「でも・・・・、お金があっても食べる物がないって、シスターが・・・・」
大雪の中、何度も説明するが、子供たちは、引かない。仕方がないので、子供たちが来たことがわかるように、格子の門にのベルを鳴らすようにアドバイスした。
「ここに台を置いておきます。寒い中、わたくしを長い時間、待たなくても済むように、台に乗って、この大きなベルを鳴らして、そうしたら、直ぐに出てきます」
子供達は、白い息の中で、赤切れのほっぺをしているが、身綺麗で、全員、帽子を被っていて、孤児院のシスターが、子供たちを大切にしているのが、わかった。
次の日は、雪が降っていなかったが、ベルが大きく響き、サルベーセンは、ショートスキーのようなかんじきを、履いて、入り口の玄関から豪快に滑って行く。
子供たちは、10人位で小さな鶏肉を、持ってやって来て、サルベーセンは、代金を払い、調理パンを渡す。
「サルベーセン、その板、入り口から門までは、滑って楽ちんだけど、帰りは大変だね」
「それでも、雪の中、あの小さい靴を履いて、チマチマ歩くよりは、楽なのよ」
「大体、リリアールが、王都は雪が降らないって、言っていたから、靴の事は気にしていなくて、本当に準備不足だよね。工事の為に残っていた板があって、助かった」
「それに、食べる物がある?ーーーこの冬は、イレブン・ヴィンの人々に、感謝だね」
「本当にそうだね。あの時は、領土のすべての人たちが、私を利用して、バカにしていると、頭に来ていたけど、この白銀の世界を見渡すと、人間のいざこざをきれいさっぱり雪が覆っているように、感じる。・・・・・、ああああぁああ、寒い」
「そして、サルベーセンは、また、たかられる」
「リリアール! でも、貴族は、不自由で、見栄ばかりの世界のようで、悪い印象しかないけど、もしも、あの子たちに、支援できるルートがあれば、王都の貴族様たちには、彼らを、助けて欲しい」
「私には、もう、そのような立場がないから・・・・」
「大丈夫だよ、だって、あの子たちは、明日も必ずやって来る」
「ーーーーーー」
秋口から降り始めた雪は、降ったり止んだりを繰り返し、サルベーセンの屋敷の庭も、スキー場のように雪の山が出来上がった。
「ねぇ、人参とか芋とか、この辺りに植えたはずだよね?イレブン・ヴィンよりも深い雪で、どうしょう、畑の位置がわからなくなっている」
[カーン、カーン! ]
「サルベーセン、ベルが鳴っているよ」
「うん、わかった」
サルベーセンは、ストックも使い、縦横無尽に広い庭を走り、子供たちが訪ねてくる小さい門に向かった。
しかし、そこに待っていたのは、久しぶりに会う、ルイ王太子たちだった。
「君が支援を続けている子供たちは、王宮内に、全員、避難した」
「ああ、そうですか?それは良かったです。それなら安心して眠れます。王太子の素晴らしいご尽力に、感謝いたします」
二人は、見つめ合ったまま、何も話すことがなく、時間だけが過ぎていて、サルベーセンが、頭を下げて、背中を向けて、戻ろとした瞬間に、王太子は、
「少し、話をしないか?ーーー我々は、君の質問に答える為に来た」
サルベーセンは、大きなミトンの手袋を外し、かじかんだ手で、大きなカギを外し、雪が邪魔する中、門を開けた。
今回、王太子一行は、大勢の兵士を連れていて、一度開いた門は、大きく開けられ、ぞろぞろとヴィン邸の庭に入って来た。
サルベーセンは、眉間にしわを寄せながら、その一行を見て、リリアールを見る。
「公国の王太子が、移動するときには、この位の人数が必要なのかも知れないけど・・・。それにしても、多いと思う。戦争でも始めるのかしら・・・?」
リリアールから話を聞いて、少し後悔し始めたサルベーセンは、いつも過ごしている、暖かいキッチン兼居間に、王太子たちを通した。
「子供たちに渡すパンを作っていたので、散らかっていますけど、どうぞお座り下さい」
キッチンの中は、十分に、暖かくて、子供達の為に、沢山の調理パンや、昨日の残りの鍋などもあり、いい匂いがして、サルベーセンは、いつもの様に、暖かいブレンドしたお茶に生姜シロップを入れて、みんなに出した。
「ーーーー父上と兄上の罪状は、君の思っている通りだ。隣国との小競り合いが起こり、ヴィン家は、隣国へ物資を流していた為に、二人は罪を受け、処刑された。その国は、マリヒューイが、生まれた国で、今、その国は、建国される前の国に返還されている」
「君の父上が、裕福で、領民からの地代や税金に対して寛容だったのは、その国へ、密やかに物を売っていた為だ。その為に、マリヒューイの両親は、亡くなり、クーデターは失敗した」
「ヴィン伯爵は、嫡男の意見をよく聞き、彼よりも優秀な娘には無関心だった事が悔やまれる」
「この話は、裁判所の記録にも残っていない。それは、君もわかっているように、マリヒューイの為だ。しかし、我々も、君が、私達やマリヒューイと共にして、この事を探って来るとは、思っても見なかった」
「結局、私たちも、イレブン・ヴィンの人々と同じように、君を利用していた事には変わりない」
王太子と4人は立ち上がり、
「本当に、申し訳なかったこの通りだ」と頭を下げた。
「どうして、国王陛下の書簡での謝罪ではないのですか?」
5人は、驚いた顔をしてサルベーセンを見る。
イカルノが、
「まさか、平民の分際で、国王陛下よりの謝罪がほしいのか!」と怒りをあらわにする。
「私は、どうして、国王陛下のサイン一つない謝罪を受け入れられるのでしょうか?父や兄は、単純な人間で、あの宰相に会った事もなかったのです。王都で、騙し合いが横行していた事を見逃して、そして、相手国やこの国の誰かに、騙された可能性だってあったはずです」
「わたくしは、その可能性の方が大きいと思っています。・・・彼らは善人でした」
「ーーーーーー」
「君は、・・・国王陛下の死去もどうやら、知っているようだな・・?」
「しかし、君が知らない事もある。ケンティの母親は、亡くなったよ」




