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一石を投じる

第24章

 「ごめんなさい。それは、無理です。王都では、私の過去を知っている人間が、怖いのです」


 「イレブン・ヴィンでも、常に違和感を感じていました。その違和感が何なのかは、わかりませんでした。領民の皆さんは、父に感謝していると、言っていましたが、未だに、土地代や税を納めていません。そして、今日です。彼らは本当に、自分たちから、出稼ぎに来たのでしょうか?」


 マルクは、少し震えはじめた。

 「あなたは、私を知っていると、王太子が教えてくれました。元はここのメイドだったのでしょう?しかし、その事実をずっと一緒にいた、あなたからは、聞いていませんでした」


 「ーーー数少ない、私の友人が王都は、戦場と同じで、信じられる人間は、そんなにいないと教えてくれました。だから、私は、この屋敷に人を入れたくありません。ごめんなさい」


 マルクは、震えなから、

 「あなたの家さえ、没落しなかったら、大勢の使用人は、路頭に迷うことはありませんでした。王都で住む場所がない労働者は、道端で亡くなり、死に物狂いで領土にたどり着いも、やっと、生きて行ける状況です。だから、税金や土地代など、払えるはずがありません。あの頃、・・・あなたやお母様が飢え死にする事を、望んでいた人が、イレブン・ヴィンには、たくさんいました」


 「あなたなんか・・・何も出来ない、話も出来ない女の子で、誰が、お金を払いますか?牧師さんがいなかったら、あの領土なんて、誰も暮らしていません」


 マルクは、床に手をついて、ポタポタ泣きながらサルベーセンに、訴える。


 「それなら、出て行けばいい。私のやり方が気に入らないなら、出て行って結構です。あなたやケンティは、王都では、私の使用人ではありません」


 サルベーセンは、腰に手を当てて、キッパリと宣言する。


 「言い換えれば、ルイ王太子の使用人は、この家に、置くことは出来ません」


 最後の一撃が効いたのか、次の朝、マルクとケンティ、大勢の労働者は、王都のヴィン家の屋敷を去った。


 リリアールが、「これで良かったの?」とサルベーセンに聞いて、


 「ええ、幸い、2年間の食料は、運び込めました」と二人で笑った。


 みんなが、出て行って、大きな門や、小さな門に鍵をかけ、通常通り、野良仕事から初めて、生きている感覚を味わい。薪でお風呂を沸かして、のんびりと入っていると、マリヒューイが、訪ねて来た。


 「先生・・、ごめんなさい。今回、兄上たちのした事は、私も残念に思います。私の為だとは言っても、また、サルベーセンさんの生活をご自分の支配下に置くつもりでした」


 「マリヒューイ、あなたはきっと知っていると思って、話しますが、私は一度、死んでいます。だから、2度目の人生は、自分で好きなように、生きたいと考えています。田舎での暮らしには、ある程度、人との付き合いも必要でしょう。しかし、ここ王都では、本当に自由にくらしたいの」


 「それに、私には、この体の持ち主の記憶がないのです。だから、ここでの、前のサルベーセンを知っている人間は、怖くて仕方がありません。そして、わたくしがここに籠城している間に、イレブン・ヴィンが、少しでも変わってくれる事を、祈っています」


 二人の間に少し時間が流れ、

 「マリヒューイ、あなたが私を信じてくれるら、わたくしもあなたを信じます」


 「先生・・・・」



 王宮では、

 「王太子! マルクとケンティ、大工達は、サルベーセンによって撃退されたらしいです」


 「彼女、本当に何者なのでしょうか?」


 「我々の意図を見抜いていたと、マルクは話してくれましたが・・」


 「本当に、マリヒューイの件が解決するまでは、外に出ないつもりなのでしょうか?」


 ルイ王太子は、机に肘をついたまま、

 「牧師には、手紙を書いたか?」


 「はい、きっと、マルクたちに話を聞いてから、あちらの領土を出発すると思われます」


 「牧師も、元ヴィン商会の者だと、気づいたのでしょうか?」


 「わからない。今、マリヒューイが、彼女の所に向かっている。どうして、こちらの話が筒抜けで、彼女の方が一枚、上を行くのだ。おかしいだろう?」


 「本当に、どういう事だ?」


 その頃、イレブン・ヴィンの牧師の所には、王太子からの手紙と、サルベーセン・イレブン・ヴィン領主からの告訴状が届いた。その罪状は、ジンの話を聞いて、途中で、降りて、裁判所に、投函した書状だった。


 内容は、長年にわたるヴィン商会の家令としての横領を、告発するものだ。


 最後の、一文は、『今後、不満がある領民は、領からの退去を命じる。』と記載されていた。



 一連の謎がわかったのは、2ケ月以上も、同じ船に乗っていた為だった。


 王太子達は、こちらに凄腕のスパイがいる事は、知らないから、気がゆるんだのだろう、色々な話していた。リリアールにとっては、王都に備えての盗み聴きだった。それが意外にも・・。


 そして、王太子たちの話は、リリアールが詳しく報告してくれた。リリアールは、本来、底意地が悪く、騙し合いが得意だったので、裏の裏をかく方法を、教えてくれた。


 この事は、王都で暮らすには、ドレスや宝石よりも重要な事で、これ以上、人に利用される事は出来ないと、二人で判断した事だった。


 「マリヒューイ、あなたが人に使われる事が嫌なように、わたくしも騙されるのが、辛いです。その気持ちを、あなたのお兄様が、理解してくれるといいのだけどね」


 「先生・・」


 「これから、あなたが毎日、訪ねて来ても、わたくしの生活は変わりません。畑や家の修理をして、料理を作り、お風呂に入って、お酒を飲み、リリアールとおしゃべりをする」


 「だから、遠慮なく、来てね。でも、王都には、お店がいっぱいあるから、自分で買い物に行ける。ケンティがいなくても不便はないわね」


 ーーーそう言って、湯舟に潜り、涙を洗い流した。


 裁判所によって、イレブン・ヴィンの牧師は投獄され、土地代や住民の税の徴収を行っていなかった役場の職員たちも、汚職で解雇された。そして、テン・ヴィンの町は、多額の賠償金をサルベーセンに払った。


 町の至る所に、退去命令が発令され、今では、誰も、サルベーセンの悪口を言う人間がいなくなった。


 あの日から、本当に一度も、外出することなく、夏も過ごし、秋になり、初めて、ここで、冬を過ごす為に、町に買い物に出た。


 リリアールが、

 「お金がたっぷりあるのだから、何か一つ宝石でも買いましょうよ。いい宝石店を知っています」


 「無理に決まっているでしょう。このような身なりの人間は、相手にしてくれません」


 「それより、暖かいパンツと下着を買わないと、生きてはいけない。屋敷は、ワンルームで過ごすわけにはいかないでしょう。お風呂は、独立しているし、床は寒いし・・・・。寝室は二階、下着と暖かい服と、肉を買いましょう」


 「肉や魚、卵は、ストリートチルドレンに頼っていて、彼らが売りに来てから、大きな格子越しに購入していたけど、本当の肉の値段も知らないとね。また、ぼられていると思うけど・・」


 「あの子供達、サルベーセンを頭の足りないメイドだと、言ってたよ」


 「ーーーその情報、要らなかった。・・泣けてきた」


 「ねぇ、王都のお菓子は、どれも綺麗ね。美味しそう。マリヒューイが、たまに、王宮から持って来てくれるお菓子も美味しいけど、どれもみんな美味しそう」


 「お嬢さん、こちらのお菓子は美味しいですよ」


 笑顔で振り向くと、そこには、気品を隠せない変装した王太子が指をさしていた。


 「ありがとうございます。街中では声をかけないで下さいと、お願いしました」


 王太子は、裏通りに誘導して、

 「サルベーセン嬢、これで満足ですか?あの荒れた屋敷に閉じこもり、毎日、お風呂に入って、酔っぱらって、従わない領民には退去命令をだして、あなたは本当に、これで、満足しましたか?」


 「ルイ様、あなたは、何がしたいのですか?あなたの目的がわかりません」


 「わたくしは、マリヒューイを狙う人間を、あなた方が捕まえたら、領土に帰るだけです。だから、ついでに、わたくしが留守中に、領土が浄化される事を希望しました」



 「確かに、あなたが裁判所に提出した資料は、物凄く正確で、計算間違いもなく、事実関係もしっかりしていて、すぐ牧師の横領が立証されました。・・あのような書類をいつ作ったのですか?」


 「随分前です。わたくしは、ずっと、わからない事がありました。それは、父と兄の罪状が不透明だった事です。この疑問は、あの牧師、いいえ、あの家令が、横領しただけで終わるのでしょうか?それ以上を、探す為に、王都の屋敷に入りました。だから、あなた方のスパイは、邪魔でしかなかったのです」


 「ーーー真実が、私の最終目的です。そして、父は、王都では成金のような生活をしていましたが、あの商会は、あの後、一斉に姿を消しました。どうしてでしょう?教えて頂けますか?」



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