帰国の目途が立つ
第22章
自分たちの部屋に戻り、今後の事を話し合っていると、メイドが、
「サリーサリー王女がお見えになりました」と告げて来た。
「え~~~、敵ながら、行動が早い」
まだ、3人での意見交換が終わらない内に、攻められた感が、残っていたが、肝を据えて、向き合う事にした。
「マリヒューイは、眠っていなさい。嫌な話を聞く事はありません。あなたはまだ子供です」
メイド達は、すべて遠くに立ち、サリーサリー王女と、サルベーセンは、二人だけでの会談となった。
「今日は、皆さんの休日を潰してしまって、申し訳ありませんでした。お詫びに、こちらの最高級の果物酒をお持ちしました」
そのびっくりする程に大きな瓶を見て、サルベーセンは、驚きを隠せない。
「こ、こんな大きな瓶・・・、流石のわたくしもこんなには飲めません・・・」
サリーサリー王女は、初めて、サルベーセンに、笑いかけた。
「あなたが、最後に言い放った、罰が当たります、と言う言葉のおかけで、色々な事が出来そうです。だから、感謝を込めて、このサイズにしました。後、数日で、国に帰れる事になるでしょう。その時は、どうぞ、このまま、お持ちください」
「・・・・・・」
「しかし、どうして、あえて、罰と言う言葉を、使ったのですか?」
「ーーーここのメイドさん達は、信心深い人達が多いです。今日は、この花を必ず飾る。こちらの方角を向いて、食事をして下さいとか、絶対に、水に触れない日もあります。この国の人々は、みんな、見えない何かに、怯えて暮らしていると、思いました。誰もが感じている不安を、国のトップは迷信で解決しようとしていると・・」
「正解です。国王が何度も、この場を離れて、普通の土地への移転を提案しても、重鎮たちは腰を上げませんでした」
「だから、マリヒューイが必要だったのですか?」
「はい、彼女の力を借りたかったです。だから何度も、ルイ王太子に打診をしましたが、彼女の存在は、謎のまま、不確定でした。それでも、若い世代の人間は、待てずにマリヒューイ嬢に、恐怖を与えてしまった事もあります」
「しかし、今回、あなた方を襲撃したのは、絶対に、我が国ではありません。信じて下さい」
「ええ、わたくしは信じます。それは、ここでの生活が、素晴らしい物だったからです。カオ国の人々は、穏やかで、優しい人間が多いと思いました。できたら、ここに残って暮らしたいくらいです。しかし、公国は、移住を認めていません。わたくしがここで暮らせないように、あなたの国の国民も、他の国では暮らせません」
「わかっています。首都移転は、国の重要課題です。今日のあなたの発言で、必ずいい方向に向かうと思います。彼らは、自然の力と神を信じています。本当にありがとうございました」
「いいえ、サリーサリー王女のその白い肌が、日光の暖かさではないと教えてくれました。本当にお綺麗で羨ましいです」
「はい、わたくしは、一度も、外で泳いだ事もなく、顔もベールで隠し、我が国の日焼け止めも毎日全身に塗っています。サルベーセンさんにも後でお届けします」
「この国には、日焼け止めがあるのですか?羨ましいです。それ、絶対に売れます。すべての女性は、きっと欲しがります。後、ジャングルの中には、チョコ以外にも、貴重な物がありそうですね。この国は、本当に、素晴らしく可能性が多い国です」
「だから、首都移転が速やかに行われ、国民が安全に暮らして、カオ国の製品が、私の領土にも届く事があれば嬉しいです」
サリーサリー王女は、立ちあがり、大きな手で握手を求めた。
「サルベーセン嬢、いつか、我が国の製品が、北のあなたの領土に届けられる日を、私も期待します。本当にありがとう」
サリーサリー王女が、この場所を去る時、マリヒューイは、ドアを開け、頭を下げて見送った。
「マリヒューイ、ーーーイレブン・ヴィンは、もう雪がどけの頃だね。どうやら、国に帰れるらしいよ」
「はい、戻りましょう」
その日から、3日後に、自国へ戻る為に、今度は船で出航した。
大勢のメイドさん達に見送られ、たくさんの土産と感謝をもらって、8人は、出航した。
「来るときも思ったのですが、船は誰が舵を取っているのですか?」
「この5人すべて運航できる。川の船では、ケンティにも教えた」
「・・・まさか、帰りの船も、ケンティが・・・・?」
「安全な場所が来たら教える予定だよ」
マリヒューイは、
「ケンティが出来るのなら、わたくしもやります」と言い。さすがのサルベーセンもその意見だけは、反対した。
「マリヒューイ、それは止めよう! わたくし、やっと、今、命が惜しくなりました」
マリヒューイは、赤い顔して、ケンティは、指をさして笑い、みんなは、二人のやり取りを、穏やかな表情で見ていた。
その後、サルベーセンは、ルイ王太子に呼ばれ、
「サルベーセン嬢、これから帰省するが、君を、イレブン・ヴィン領に、戻すことは出来ないと思ってくれ。1年、嫌、2年の内に、マリヒューイを狙っている国を特定して、君の安全が、確かなものになってから、必ず、帰る事を認める」
「わたくしの安全は、マリヒューイの安全でもあるからですか?」
「あなた達と、カオ国の重鎮の違いは、マリヒューイへの愛情が、有るか無いかの違いだと、思っていいですか?」
「それは、どういう事だ?」
「王室が彼女を利用する為に、彼女から、学ぶ場を奪い、友達との会話、すべての楽しい事も奪っていると、思えてなりません。それは、カオ国の重鎮たちや、他の国の人間とどこが違うのでしょう?」
「君は、本当に不思議な人だ。マリヒューイが突然、君の前に現われても驚かず、彼女の予知能力も知っている。ーーーその事は、マリヒューイは、決してそのことを話さない」
リリアールが、本を指さし教える。
「本しか友達がいない時に、本が教えてくれました。この国の発展は、預言者によって与えられ、その女性は、王室を影で支えていて、間違わない道だけを示したそうです。その能力は、決して間違わずに、その女性が生きている間は、物凄い勢いで、この国は変化した。と・・・」
「ーーー、そのような人間が、再び、現れたら、王室は全力で彼女を、守ると思いました」
「私たちも君の生い立ちについては、慎重に調べた。君は、イレブン・ヴィンに行くまで、話す事が出来なかったらしい・・、その事を知っているのは、数少ない使用人だけだ。その中には、ケンティの母親であるマルクも入っていた」
サルベーセンは、リリアールを見て、リリアールは頷いた。
「ケンティの両親は、王都のヴィン家の使用人だった。ヴィン家が、没落して、領土に戻る間に、夫は病死したらしい。だから、彼女は、私達が、突然、訪れても動揺しないで、対応が出来たのだ」
「王太子、ーーー何が言いたいのですか?」
「初めて、王太子と呼んでくれたね。君は、本当にバカではない。君も最初から僕たちの正体を知っていた。そして、マリヒューイの正体も知っている」
「そうです。しかし、わたくしには野心がありません。父や兄のような考えもありません」
「そして、あなた方は、マリヒューイの為に、わたくしを殺す事が出来ません。だから、これから、2年間は、大人しく王都で暮らします。しかし、貴族になる事は望みません。だから、わたくしが王都にいるこの2年間だけでも、マリヒューイに自由を与えて下さい。お願いします」
サルベーセンは、心から頭を下げた。
「他の望みを聞こう」
「お風呂の改築です」
「・・・・・、良かろう。手配しよう。住まいは、王宮か王都のヴィン家になるが、どちらを希望する?」
「もしも、選べるのでしたら、ヴィン家を選びます。それと、わたくしの生活に干渉しないで下さい。道で会っても、他人でお願いします」
「ーーー承知しよう。但し、王都に着いてからも、マリヒューイの事は頼む。赤ん坊の頃より、面倒見て来た私達よりも、君の方を気に入っている」
「そんな事、あの年ごろなら当たり前です。彼女から見たら、あなた方は、オジサンです」
「・・・・・・」