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外出許可

第20章

 「彼女を消しますか?」とイカルノが冗談を話した瞬間、カオ国王宮の上空には、雷雲が現れ、主に、ルイ王太子の滞在している棟に、何度も落雷が響き渡った。


 王太子と、イカルノ達4人は、マリヒューイの部屋に駆け付け、部屋を開けようとしたが、開かなかった。


 最後に、ビンエムーが、ドアを蹴り上げたが、既に、そこに、マリヒューイの姿はなかった。



 「王太子・・・」

 「大丈夫だ。きっと、彼女自身の意志で、サルベーセンの元に行ったのだろう」


 イカルノは、膝を折り、誠心誠意、謝罪した。


 「すいません、王太子、私が軽々しく考え、言葉にしました」


 「うん、これから、マリヒューイの信頼を取り戻すには、しばらくかかるだろう・・、言い換えれば、僕たち5人は、心のどこかで、サルベーセン嬢の存在を軽く見ていが、それは、浅はかな行為だと、マリヒューイが、教えてくれたのだろう・・・」


 「サルベーセン嬢は、マリヒューイにとって特別な存在だ。そのことを忘れるな」


 「はい」



 マリヒューイは、ぐっすり眠るサルベーセンの布団に潜り込み、体の震えを我慢していた。


 リリアールは、眠らないのか、マリヒューイを抱きしめる様に、一緒に布団に入り、寝返りをうった、サルベーセンも、そのまま、マリヒューイを体全体で、包み込んだ。


 マリヒューイに、リリアールは、

 「大丈夫、誰でも、自分の知らない力はあるから・・、私だって、死んで幽霊になる力があるなんて、生きていた時は、思いもよらなかった。・・大丈夫よ。マリヒューイは、大切な友達」


 「このサルベーセンもケンティもわたくしも、あなたが大好きだから、安心して眠りましょう」


 リリアールは欠伸をしながら、

 「久しぶりに、私も眠れそう。幽霊って、夜は、眠らいない物なのに・・・」


 マリヒューイは、震えながら、サルベーセンにしがみつき、リリアールに包み込まれて、小さく泣きながら、眠りについた。


 次の朝、通常状態の寝ぼけているサルベーセンは、ベットの中のマリヒューイを見つけても、

 「マリヒューイ、おはよう。ケンティは。まだ、来ていないの?」


 「ええ、先生、昨晩、物凄い雷が・・・・、それで、怖くて・・・わたし・・」

 「そう?全然、気づかなかったわ・・」


 マリヒューイは、少し考えて、

 「先生、あの夜、どうして鍋まで被って、準備万端だったのですか?」


 「え?あの夜?あの日は、珍しく、酔わなくて、リリアールも、落ち着かなくて、なんだか、不安な夜だったの・・」


 「昨日の夜は?昨日の夜は、物凄い荒れた天気で、大きな音の雷が何度もなったのに・・、どうして、眠っていられたの?」


 「昨日の夜は、お酒も頂かなかったけど、久しぶりにヨガをして、リリアールとダンスをして、1時間程、運動したから・・、疲れたのかしら?毎日、プールに入っているけど、少しだけでも、歩きたい・・・。散歩するには、ここの庭は、小さすぎるよね」


 「ええ・・・・」


 それから、マリヒューイは、公然とサルベーセンの部屋に居る事が許されて、1週間後には、外出の許可が出た。


 いつもの様に、プールで泳いで、シャワーを浴びて、朝食をとっていると、ここで一番偉いメイド長から、

 「本日、皆さんの外出が許可されました。勿論、護衛やメイドは付きますが、どこか行かれたい所はございますか?」


 サルベーセンとマリヒューイが、黙って、考えていると、ケンティが、「市場、市場に行きたい」と答えて、後の二人も同調した。


 同行する人間は、少なくしてもらったが、それでも目立つ一行だった。当然の事ながら、遠くでも見張っている人間は、たくさんいた。


 「先生、何を買いますか?何を買っても支払いは、メイドさん達がしてくれるそうです」


 「そうなんだ・・」

 「貴族は、どこでもそうです」と、リリアールが、不機嫌に睨む。


 「どうして不機嫌なの?」


 「ええ、何を、買ってもいいのに、行き先が、宝石店でない事が、お気に召さないの・・」


 「フフフフ・・・」


 久しぶりのウォーキングで、心は踊りながらも、二人の先生らしく、市場の品物、一つ、一つの名前をノードにメモさせた。


 2時間程、買い物を楽しみ、この国の平民が食べる食べ物を買い込んで、自分たちのコテージに戻った。


 「ケンティ、どうだった?自国との違いはあった?」


 「ありました。先生、あの市場には食べ物しかありませんでした。布や工芸品、建築資材、革製品や食器などは、なかったです」


 「そうね。小さい市場だったからかしら?」


 お茶を入れてくれたメイドが、

 「一度、食中毒で、大勢の人々が亡くなったのです。その為、食料市場は独立して、衛生面を厳しくしてあります」


 「そう。それは良い事ですね」


 ケンティが、「明日も出かける事は出来ますか?」と、お茶も飲まずに聞いた。


 「はい、これからは、ご自由に、外出なさってください。しかし、出かける時は、必ず、警護をつけて下さい。お願いします」


 「先生、僕、テン・ヴィンの市場に置いてあった品物と、この国の品物の違いを調べたいのですが、いいですか?」


 「良いけど、覚えているの?」


 「勿論です。全部覚えています。この国にあって、我が国にない物も、調べたいと思います」


 3人は、顔を見合わせて、ケンティは、王太子たちからの指令を受けた事を実感する。


 「ケンティ・・・。君は正直者だから、先生は大好きです」


 「・・・・・・」



 次の日から、ケンティの希望通りに買い物市場に出かけて、王太子に協力している感が、丸わかりで、「ケンティ、そろそろ、市場まわりに飽きて来ました」


 「え????」


 「観光に行きたいです」とサルベーセンは、きっぱりと言う。


 少し意地悪だと、思ったが、本当に観光したくて、メイドさんにいい観光地を聞いてみた。


 皆さんの意見は、ジャングルの中にある足湯のあるレストランだった。そこは、少し遠くて、朝から出かけて、ゆっくりした方が楽しいと教えてくれた。


 「では、明日、早めに出発して、行きましょう。ケンティもマリヒューイも、用意しておいてね」


 二人は仲良く「はい」と返事をして、次の日、馬車に揺られ、町中を見学しながら、目的地を目指した。


 山を登り、ガイドさんから説明を受け、キレイな鳥や昆虫を探しながら、目的地の足湯温泉を目指した。その温泉を囲みながら、小さなバーコラが、いくつも立っていてバーコラレストランが並んでいた。


 「スゴイ、私の泉にも、あのようなバーコラが欲しい。そして、優雅に食事をする」


 ケンティが、

 「しかし、先生、この国とは建築資材が全く違います。あのように壁のない家は、作れません」


 「ケンティ、君は、優秀で、その小さい頭で色々考えている事は、知っていますが、女性には夢を見させる事も学びましょう。それでは、大人になってからは、モテません」


 周りのメイド達は、遠慮なくクスクス笑って、ケンティは、真っ赤になって怒って、

 「僕は、モテなくていいです」と言い返した。


 マリヒューイは、ケンティが怒られると、いつも、嬉しそうに笑っている。


 そのレストランの支度が終わるまで、マリヒューイと二人で、手を繋いで、のんびりと足湯に浸かりに行く時に、土の上を歩くと、


 「ねぇ、マリヒューイ、ここの土って、ほら、暖かい。温泉が出るだけではなくて、土が熱を持っているみたい・・。砂漠?いいえ、違う・・、コレ」


 マリヒューイの小さな足は、恐る恐る土を踏んだ。上流社会の女性が、生まれてからどのくらい、土を踏むことがあるのだろうか?


 「ええ、本当に暖かいです。この土の下に、温泉が通っているのですか?」


 「いいえ・・、まさかそんな・・・ことで?」


 サルベーセンは、そのまま色々考えて、確かにこの国は、真冬でも暖かい、気候の為だと思っていたが、日差しはそんなに強くない。一度しか会った事がない、王女の肌は、北に住んでいるサルベーセンよりも、白かった。


 ーーー、温泉で、誤魔化されて暮らしいたけど、この国??


 「それが、この国の大きな謎なんだよ」と、王太子は、突然、サルベーセンに問いかける。



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