カオ国到着
第17章
キッチンの小さな窓は、換気のために開けているが、ついでに釣り糸を垂らして置いて、マリヒューイは、それを、たまに確認する仕事をしている。
「先生、本当にこのような方法で、魚は釣れるのですか?」
「マリヒューイ、未来がわからない事をするのを、楽しみましょう。もしかしたら、夕食に食べられるかも知れないのよ」
マリヒューイは、嬉しそうに、釣り糸を見て、たまに寄って来るカモメに手を振った。
サルベーセンは、
「カモメって、食べられるのかしら?」
「・・・・・・」
「今日は、大量の豆を煮ます。この豆は、7日間、食べます。後は、マリヒューイの釣る魚です」
「え~~、そんな・・、魚が釣れなかったら、毎日、豆を食べるのですね」
「釣れても、豆は毎日、食べます」
「・・・・・・」
「このお鍋、本当に大きいですね」
「ふふふ・・・、ね、私のお風呂みたいだよね」
「もしかして、この鍋をお風呂にするのですか?」
「まさか、熱湯とお水を混ぜて、浴槽で簡単に洗うだけです。水は十分に積んであるとは言え、やはり、船に上での水は貴重だから。でも、今日は、マリヒューイを洗ってあげる」
「ありがとうございます。本当は兄上たちも体を洗いたいと思います。彼らは、意外に清潔好きです」
サルベーセンは、聞こえない事にして、マリヒューイに、お手伝いを頼む。
「はい、この煮えた豆、潰して下さい」
「はい。わかりました」
「今日は、小麦粉を練って、ナンを作って、ビーンズカレーにしましょう」
「私、先生のカレー大好きです」
「ああ!! 先生!! 糸が・・・糸が重くなっている」
二人で、キッチンの小さな窓に椅子を並べて、一生懸命に釣り糸を引いて、登ってきた生き物は、イカだった。
「先生、気持ち悪い~~~」
「気持ち悪いけど、物凄く美味しいのよ。今日のカレーに入れましょう」
「え~~~~~!! 」
日中は、色々な事をマリヒューイに、教えているために、先生と呼ばせている。先生と呼ぶマリヒューイは、子供の様で、大きな声で笑ったり、不満を言ったりもする。あの教室で見せた子供らしいマリヒューイだった。
食事の時間になると、王太子とマルセンは、やって来て、マリヒューイやサルベーセンの話を聞いて食事を取る。その後は、二人で入浴したり、昼寝をして、洗濯もする。サルベーセンの家の日常が、船上になったかのように、暮らしていた。
波が静かな夜、マリヒューイは、サルベーセンのベットで寝ていた。
「ーーー明日のお昼には、カオ国に入国します」
「そうか・・・、残念ね。大人になってからでもいいから、また、私の所に遊びに来てね。待っているから・・・・」
「はい。でも、どうやって、お一人で、戻るおつもりですか?」
リリアールは、あきれて二人の会話を聞いている。
「勿論、船で戻ります。我が国はハブ国で、どの国からも、我が国の王都を、目指す見たいな授業なかった?それを信じます」
「サルベーセン、この世界、女性、一人で、大金を持って?旅ができる程、安全なの?」
「う~~ん、仕方ない。男装する」
リリアールが、仕方がなく、正直にサルベーセンに話す。
「サルベーセン、マリヒューイの事は、国家レベルの秘密だと思う。その国家機密を知ったあなたを、国の王太子が、このような異国で、あなたを放すと思いますか?」
「え?」
「あなたとマリヒューイは、一心同体のような物で、マリヒューイは、危険を察知すると、あなたの元に逃げ込む。それなのに、あなたを一人で、フラフラ旅行させると思う?・・・私は、少なくとも、今、マリヒューイを、捕らえようとしている犯人を、捕まえるまで、あの家には帰れないし、帰った方が、より危険が多いと思う」
「もしかして、私は、今度、カオ国で暮らすの?」
「それは・・・、ルイ王太子のお考え次第だろうけど、とにかく、あなたを目の届く所に置いておきたいのは、確実でしょう」
マリヒューイが、
「サルベーセンさん、ごめんなさい」
サルベーセンは、「良いのよ。気にしないで、旅行気分で彼らに沢山ご馳走になるから! 」
「でも、兄上には、カオ国に婚約者がいます」
「え、そうなの?カオ国のお姫様と婚約しているんだ。私たちも会えるかしら?物凄い美人で、気品に溢れていて、王太子とお似合いだったら、リリアールもバカなこと言わないかも・・・?会ってみたいね」
その願いは、下船すると、直ぐに実現した。
カオ国の王室は、王太子を港まで出迎えていた。その中には、当然、ルイ王太子の婚約者も、顔に薄い布を纏い微笑みながら待っていた。
この国の宰相にあたる人間が、歓迎の言葉で、挨拶を行い、立派な馬車で、サルベーセンも王宮に連れて行かれた。王宮は、大きな平屋建てで、コテージのような建物が沢山あり、広場では、歓迎のダンスが披露されて、南国に来た感が漂っていた。
「太陽がまぶしくて、おまけに暑い、キルトのドレスだと死にそうになる」
王太子、マルセン、マリヒューイと別れ、少しだけ豪華な使用人部屋に通され、そこで、ケンティと再会を果たした。
「ケンティ! どうしたの?途中の港で、降りてマルクさんの所に戻らなかったの?」
「うん、お母さんには手紙を書いて、僕も同行させてもらったんだ。人生で、他の国に、行けるチャンスは、これが最後だと思って、イレブン・ヴィンに帰ってからも役立つと、言われて・・・。それに、先生やマリヒューイも心配だったから・・・」
「ありがとう。ケンティ、とっても心強いわ・・。本当にありがとう」
二人が抱き合っていると、王宮の使用人がやって来て、着替えをくれて、外のプールを案内してくれた。
「外のプールは、ご自由にお使い下さい。この部屋には、シャワーも有ります。食事は、常に用意されています。果物やお菓子などは、ご自由にお召し上がり下さい。ご用がございましたら、待機しているメイドにお伝えください。失礼します」
「ねぇ、私たちの身分て、使用人レベルでしょう?この国って、レベルが高いのかしら?」
「ビンエムーさん達の説明では、まだ、発展するところが沢山ある国らしいよ。その発展に、我が国は、たくさん手を貸しているんだって、だから、王太子との婚約も、この国を他国から守る為の物だと、説明を受けました」
「へーーー、そうなんだ。この王宮だけでも、こんなに立派なのに、発展途中の国なんだ・・」
「先生、プールって、何?シャワーも始めて聞いた・・」
「プールって、私の泉みたいなものよ」
「大きなお風呂?」
「先生が、あの泉で、体を洗っているのを見て、お母さんが、呆れてたよ。夏だからって、普通は湯舟にお湯を貯めて、体を洗うのに、先生は、朝起きて、泉にドボン、農作業後に、ドボン、月が明るい夜にも、ドボンって、入っていて、驚いていた」
「夏の夜、暑くて眠れない時、泉でひと泳ぎすると、涼しくて、よく眠れるのよ。いい運動よ」
「着替えて、プールに入って来る。ケンティも行きましょう。泳ぎを教えてあげる」
サルベーセンは、自前の黒のパンツに黒のブラ(マルクの手直し済み)を身に着けていたので、白い木綿の短いドレスの裾を縛り、ケンティと、プールに飛び込んだ。
「このお水・・・、ぬるい、お湯?温水ブールのようだわ・・・」
「先生、スゴイ、僕、こんなに広くて暖かいお湯に入ったの初めてだ」
「日差しだけで、こんなに暖かくなるものなの・・・?どう思う、リリアール?」
リリアールは、空の上から、こちらに向かって行くる、女性の一行を見ていた。その女性たちは、王女を囲むように歩き、一歩、一歩、ずぶ濡れのサルベーセンに向かって歩いて来た。
「・・・・リリアール?」