奇襲を受ける
第15章
頭にくるが、去年の冬よりは設備も整って、充実した毎日を送れている。
必要な物は、ジンが、ケンティと共に届けてくれて、食料品や日用品にも事欠かない。ルイ王太子は、年末になっても、王都に戻る事はなくて、新しい年も、サルベーセンの家で迎えた。
マルクとケンティには、王太子たちの身分を明かしていないが、賢い二人は、口にださずに、既にチームの一員の様に、静かに暮らしていた。
今は、王太子は、もっぱら、諸国の地図を広げ、公国の均衡を図る努力をしているように思える。
イカルノ達4人は、去年よりも成長したケンティに、馬術や剣術、勉強を教え、意見も求める。
サルベーセンと、マリヒューイは、ひたすら地図を覚え、その国の特徴なども覚えて行く。
マルクは、使用人の仕事を頑張り、ケンティの成長だけを楽しみにしているように思える。
だから、このまま平和な日々が続くと思っていた。
寒くて静かな夜に、リリアールと、いつものように、暖かいワインを飲みながら、サルベーセンは、話す。
「このように、静かな夜が、続いて、暖かくなったら、去年のように、みんなを見送りたいネ」
リリアールは、沈んだ顔で、サルベーセンに、語り掛ける。
「さっき、マリヒューイは、寝たのかしらと思って部屋を覗いた時に、あの子・・・、泣いていてたよ。どうしてだと思う?・・・」
「え?・・お腹が痛いの?腹痛?」
「・・・、昔、私の父が生きていた時に、一人の女性を、ずっと疑っていた。その女性は、王家の人間でもなく、貴族でもなかったけれど、王族を陰で支えている女性だった」
「ーーーマリヒューイみたいな魔法少女?」
「魔女では無くて、綺麗で、誰にでも優しくて、愛らしい人でした。それが気に入らなくて、わたくしは、毒を盛ったり、恥をかかせたり、押したり、蹴ったりしたけれど、私の思いは、届かなかった。そして、死を持って、絶対的な敗北を味わった」
「あなた、まるで、悪役令嬢?」
「そう言われれば、そうでしょうけど、その時は、彼女の素晴らしい能力を知らなかったから・・。負け試合でも勝てると、思っていたのかも・・。しかし、父や母、わたくしが死んでから、この国は、素晴らしい発展をした。新しい王は、まるで、未来を予測できるかのようなお方で、ある日、わたくしが、幽霊になって、この国に戻って来た時に、その女性は、思いっきり国王を支えていました」
「王家の支えるって、どうのような事?まさか・・、未来がわかるとか?やはり魔法で?」
「その役目が、もし、マリヒューイなら、どの国でも欲しいはずです。だから、誰にも存在を知られていないと考えると・・?」
「だから、マリヒューイの能力を知った他国の人間は、彼女を争うように、狙っているの?」
「王太子たちの話では、どの国の人間が、マリヒューイの正体を知って、探しているのかも、今の段階では、わかっていないらしいの。彼女、特殊能力で、ほら、必ず、あなたの元に戻って来れるでしょ?だから、彼女自身が、幻なのかと言う、噂も流れていると、ビンエムーが、報告していた」
「本来なら、彼女は、新しい国の王女だったのだけど、協定の結んでいた国が裏切って、当時に王妃は、血縁を頼り、生まれてすぐに、この国に預け、夫と共に、もう一度、国を取り戻す為に戦い、敗れて、マリヒューイは、一人になったみたい。可哀そうだけど、今は、この国のルイ王太子だけが頼りらしい」
「なんだか、切ないね。普通の可愛いお嬢さんなのに・・・。学校で、友達と話しているマリヒューイは、本当に、楽しそうで、物凄く可愛かったのにね。あんな小さい子供頼って、国政を進めるって、どんだけ、無能なのかしら・・」
「すべて、頼るわけではないのでしょうけど、国王たちも、助言が欲しい時が、必ずあるでしょう。だから、大切な存在を、他国に渡すことは出来ないよね」
「うん、そうだね。所で、今晩、どうして、マリヒューイは、泣いているの?」
「・・・・・・」
「え?」
「そう言う事よ。早く支度した方がいいわよ。きっと、多分、今晩、襲撃される」
サルベーセンは、飛び上がり、飲んでいるワインを捨て、急いで着替えて、スリッパを投げ捨て、靴を履き、マルク製作の丈夫なリュックにお金や、保存食、着替え、などを詰め込んんで、背負った。
「靴、靴、靴を履いて、頭、頭は、何で守る?金属、金属、金属の鍋?リリアール、助けて、もし、死んでも、あなたのように、幽霊にしてね。マリヒューイが、心配だから・・・お願い。うううう・・・。泣ける。怖い~~~~!! 」
その時、玄関が開き、ジンの部隊が土足で2階に上がって行った。
「この家は、土足禁止なのに・・・・。ひどい、うううう・・・」
2階のみんなは、少し前から支度をしていたらしく、ジンが到着すると、一斉に、外に飛び出して行った。家の中では、戦わない姿勢には、感謝したが、せめて自分にも知らせてくれる思いやりが欲しかった。
「あいつら、平民の命なんて、どうでもいいの?私やケンティ、マルクの事は・・・?」
「敵が狙っているのは、王太子の命とマリヒューイの存在だけだから、あえて教えなかったのかも知れない。あちらも、使用人達に、手を出す事はしないと考えたのでは?」
厨房部屋で、ガタガタ震えていると、王太子が、やって来て、突然、サルベーセンを抱きかかえ、馬に乗り、走り出した。
「何、何、どうするの?降ろして、助けて~~~~~~」
「静かにしろ!! 舌を噛むぞ! それに、相手に気づかれる。とにかく一緒に逃げてくれ、マリヒューイは、別のルートで逃げる。大丈夫だ、きっと、助かる」
抱えられた体制から、やっと馬にまたがり、雪の中、鼻が寒さで、凍りそうなのを防ぐために、ルイ王太子の背中に、鼻水と一緒に鼻を突けて、頭にかぶった鍋の上に、雪が積もっている事を心配しなら、必死に大きな背中を捕まえていた。
きっと、恐怖と寒さで気絶したのだろう。気がついた時には、船の中で、既に、自国を出発していた。
側では、ルイ王太子と、マルセンが話していた。
「誰か、彼女に、襲来の事を教えたのか?ーーーこの不思議な恰好・・・?鍋を、被って?」
「ハハハハ・・・、確かに可笑しな格好です。靴も履いていて、荷物の用意までしている」
「マリヒューイかも知らないナ・・・。本当に、サルベーセン嬢を慕っていたから・・」
「しかし、どうします?」
「安全な所を探すしかない。彼女がいれば、マリヒューイとは、合流できる」
「こいつら、私を連れて逃げたのは、マリヒューイと合流する為だったんだ」
その時、リリアールが、
「残念だったね。愛しいから連れて来た訳ではなくて・・・、フフフフフ・・・・」
サルベーセンは、キッっと、リリアールを睨み、起き上がる。
「あなた達、平民の命を何だと思っているのですか?ケンティとマルクに、何かあったらどうするの?」
「大丈夫だ。ケンティには。前から、何かあった場合は、護衛のいる青い屋根の村で、暮らすように言ってある。きっと、彼らが面倒を見る」
「アワ、アワ、アワ、・・私はどうするのですか?死んでいたかも知れないのに・・・・」
マルセンが、
「みんな、起きないと思っていた。サルベーセン嬢は、夜、酒に溺れて、深く眠っている事を知っていたので、外での戦いを最初から、計画して、大丈夫だと判断した。まさか、マリヒューイが、教えているとは・・・。しかし、その恰好・・・・フフフフ・・」
サルベーセンは、頭がクラクラして、床に尻餅をついて、自分に起こった悲劇を嘆いた。
「ワーーー! 」
ルイ王太子は、ニコニコしながら、
「サルベーセン嬢、大丈夫だ。君は生きている。私達も、本当にすまないと思っている。だから、今回も、たっぷり慰謝料は役所に入金して置く」
「お金は大切だけど、命はもっと大切です!! 」




