どういう事でしょう?
第14章
「お願いできるかしら?」
「・・何でしょう?」
「もうすぐ雪が降りますよね?」
「はい、1週間後には、降るのではないかと、村のみんなも予想していて、屋根の完成をとても喜んでいました」
「雪が降ると、わたくしの家に、マリヒューイの親戚の方がいらっしゃる予定です。その方たちは、多分、5人程で、その5人が通過した後は、わたくしの家までの道を封鎖して頂きたいの・・。この村は、わたくしの家までの、最後の分岐点、わたくし、この冬は、ゆっくりと静かに暮らしたいと思っています」
「出来るでしょうか?」
ジンは、少し考えて、
「わかりました。閉鎖します。人や馬などが、通過できないのならよろしいのですね」
「大丈夫です。任せて下さい」
村の人達と別れて、ジンの馬車に、沢山の綿と共にまた乗り、揺れながら空を見上げ、また、寒い冬の訪れを、覚悟していた。
雪が降る前の日、マリヒューイは、サルベーセンと同じように、曇り空を見上げて、
「これで、学校へ、通う事は出来なくなりますね」と、呟いた。
深夜に降り始めた雪は、足跡を消し去るように、大雪へと変わって行った。
「王太子、お気をつけて下さい」と、ジンが頭を下げ。
「ああ、大丈夫だ。この辺の事は、すべて理解している」と、ルイ王太子は、話す。
「そうですね。自由に行動されて、王都の街よりも、熟知しているかも知れませんね」
と、ビンエムーが話し、
「数ケ月前からここに滞在していたとは、彼女も知らないだろう・・・」
と、コウシャが笑う。
「まさか、ジンにこっそり、道の閉鎖を頼むとは、なかなか、面白い女性です。それに、着眼点が、我々と一緒だった事には、驚きです」とイカルノが笑う。
「最後の、案は、イマイチだったが、この村を選んだ事は評価しよう」
「こちらが、ヴィン家の裏の鍵です。我々は、彼女のご希望通りに、この村で、王太子を後方支援いたします。ご安心下さい」
「ああ、そうしてくれ、閉鎖されると、何か起こった場合、こちらからも出られなくなるので、警備を頼む。彼女の言う通り、この村は、彼女の家までの最後の砦になる」
5人は、手慣れた様子で、新築された馬小屋に、馬を止め、サロン側の入り口から入り、2階に上がって、暖炉に火を点け、温まり、新しくなったベットで、眠りについた。
朝になると、ビンエムーは、外の薪で、サロンのお風呂を沸かし始め、出勤したマルクと挨拶を交わし、互いに懐かしんだ。
サルベーセンが、目を覚ますと、既に、5人とマリヒューイは、朝食を始めていて、
「おはよう」
「あ・・・・・おはようございます」と返事を返して、もう一度、布団を被ったが、びっくりして、起き上がり、
「いつ、いらしたのですか?」
「昨晩だ。相変わらず、この部屋は暖かいな。良く眠れるはずだ」
サルベーセンは、いつもスエット上下に、キルト仕様のガウンを羽織り、ソファーに腰かけながら、マルクが出してくれたお茶を頂いていた。そして、リリアールの催促の下、思い出したように、
「ご無事で何よりです」と、挨拶をした。
5人は、薄っすら笑いながら、ルイ王太子は、
「マリヒューイの事、助かりました。礼を言います。そうだ、他国のチョコと言う物を持参した」
「え??」サルベーセンは、急に立ち上がり、急いで、チョコを受け取り、ニコニコしている。
「チョコのある国は、何と言う国ですか?南の方ですよね?」
「ああ、そうだ。カオ国と言う。まだまだ発展途上の国だが、果物やそのチョコが有名な国だ」
「そうなのですか。女性は、このチョコが大好きですから、きっと、発展できますよ」
しかし、一口食べると、苦いので、砂糖と牛乳の中に入れてホットチョコレートにして飲んでみた。
「マリヒューイもどうぞ、甘くて美味しいわよ」
マリヒューイは、既に、正装に着替えていて、王太子を出迎え、通常の貴族らしさをかもしだし、上品に一口だけ、飲んでみた。
「ええ、甘い、美味しいです」
「ね! 美味しいわよね」
周りの5人は、不思議な顔をして、サルベーセンを見て、
「その国では、健康のために、役立つと言って渡してくれた」
「そうなのですか。健康にもきっと役立ちます。この前の生姜シロップも、マルクさんを、健康にしました」
「・・・・・・」
マルクが、目で、着替える様に催促して来たので、少し失礼して、サロンの方で、着替える事にした。厨房部屋に戻ってから、
「玄関のドアは壊れていませんでしたが、どこから入ったのですか?」
「サロンの方のドアから、失礼した」
サルベーセンは、また、ドアを見に行ったが、壊れていなかったので、不思議に思っていた。その時、外から、ケンティが雪かきを終え、授業の為に入って来た。
「あ・・、やっぱり、馬小屋に馬が並んでいたから、絶対に、皆さんが、お見えになったと思いました。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「ケンティ、久しぶりだ。立派になって、サルベーセン嬢よりも立派に挨拶ができる。いい事だ」
サルベーセンは、少し不機嫌に、ケンティに話しかける。
「ケンティ、後で、外からサロンの入り口を見てくれる?」
「??????」
「鍵は大丈夫だ。ジンからスペアーキーを、もらったから・・・」
「・・・・・・」
その時、ケンティが、
「やっぱり、おかしいと思ったんだ。ジンさんは、簡単に馬車を走らせて、いつも先生を迎えにくるでしょう?僕も、先生の為に、何度も馬車の練習をしたけど、馬は、なかなか言う事を聞いてくれない。あのスピードで、馬車を走らせて、人を運ぶことは、訓練した人しか出来ないと思っていて、不思議だったんだ。それに、ジンさん、物凄く馬に乗るのが上手でしょう」
「・・・・・・」
「その件は、ジンにも注意が必要だ。身についてしまった技術を隠す事は難しいらしい・・、子供にバレているとは、彼も思っていないだろう・・」
サルベーセンは、寝起きの頭で理解に苦しむ。「どういう事でしょうか?」
「ジンたちの部隊は、私達がここを去った後から、あの村に駐留していた。港の警備と、君の警備を任せてあった」
頭が働きだしたサルベーセンは、「いつから、あの村にいらしたのですか?」
「いい質問だ。丁度、あの村が、石やレンガを引き始めた時に、労働者として住み始めた。最初は、ボロ家の中を改造して、住んでいたが、その内、外壁と屋根も綺麗になり、君の考えた新しい風呂も設置したよ。本当に、助かった、ありがとう」
サルベーセンは、真っ赤な顔をして、
「どうして、早く言って下さらなかったですか?あの村の為に、散財してしまいました」
すぐさま、イカルノが、
「費用は、その内、役所に補填金として入金される。安心したまえ」
ルイ王太子は、
「サルベーセン嬢、君の着眼点は、良かった。あの村は、最後の砦で、私達もマリヒューイの為に、同じ事を考えていた。予想外だったのは、君が、マリヒューイを学校に通わせて、馬にも乗せた時点で、ジンからどうするべきかと連絡があった事だ」
「その後、短い間でも、マリヒューイが、私達から離れて、のびのび過ごす事も必要だと判断して、ジンたちに、ここに通って仕事をさせた」
サルベーセンはが、一生懸命に考えていると、ビンエムーが、
「ルイ様、お風呂の準備が整いました」と呼びに来て、当然のように、サロンの浴室へ向かって行く、姿を見た時に、この人達・・・、絶対に、労働者として、この家に、来ていた事を確信した。
マルクが、説明について行こうとすると、
「大丈夫だ。この家の事は熟知している。私の部屋も、私の趣味にしたある。君の斬新なインテリアだが、使いやすい。数日前には、各部屋に、本、書類、衣服などもすべて2階に搬入済みだ。安心したまえ! 」
サルベーセンは、
「ちょっと! どういう事??え??・・・ここは、誰の家なの・・・・?え~~~~! 」
ルイ王太子は、自分が思っているように、反応するサルベーセンの事を、面白がって、からかっている。
「そんな~~~・・・」