冬が来る前に・・。
第13章
マルクのチクチク仕事が始まってから、日中は、リリアールと二人で、厨房部屋で過ごす事が多くなって、やっと、生活が落ち着き始めた。それでも、たまに2階の家具の運び込みや、最終確認で、誰かしらは、毎日、訪ねて来た。
「リリアール、静かな日々がやっと訪れそうだね。明日で、2階の工事は終わり、クッキー工場も、今週には、終了する。こうしてお茶を頂き、ソファでゴロゴロする事が、こんなに幸せなんて、思いもしなかったね」
「レディ・サルベーセン、貴族は、常に、背筋を待っすくに保ち、優雅にお茶を頂く事を心がけましょう。それでは、本当に平民です」
「それ、それなのよ。私は多分、平民なのよ。???金持ち、土地持ちの平民で、絶対に貴族ではない。だから、寝転がって、本を読んでも怒られないと思うけど・・?どう?」
「サルベーセン!! 仮にもあなた、王太子を攻略・・・・・」
リリアールが話しかけようとした時に、ドアがノックされた。
「こんにちは、サルベーセンさん、よろしいでしょうか?」
「どうそ~~」
「あの・・・、マルクさんは、最近、縫い仕事を頂いていると聞きまして・・・、それで、もうすぐ、クッキーの出荷は終わり・・、仕事は終了と聞いています。ーーー男性たちは、青い屋根の村に移って、まだ、仕事があって・・・、その・・・・」
「ーーーキルト作りがしたのですか?」
「はい、そうです。村の女性たちは、針仕事が出来ない人はいません。マルクさんに聞いて、絶対に、失敗しない覚悟で臨みます。お願いできませんか?」
サルベーセンは、少し考えて、
「マルクは、今、キルトを作っているのだけど、その厚手の布で、服を作れる人はいる?」
「はい、全員、大丈夫だと思います」
「そう、では、キルトを作る人、服を作る人を決めて下さい。そして、あの大量の綿がなくなった時点で、今年の仕事は、本当に終了です」
「ありがとうございます」
その代表の女性は、宙を浮くように、みんなの元に戻り、その後、大勢の人がサロンに入り、サロンは、縫製工場へと変貌した。
リリアールが、
「ねぇ、どうやら平民の方々には、縫い物が出来ない女性は、いらっしゃらないらしいね?そうなると、あなたは、貴族、平民、どちらなのでしょうか?」
サルベーセンは、真っ赤な顔をして、「リリアール!! 」と、叫んだ!
その時、マリヒューイが、入って来て、
「サルベーセンさん、貴族は大声で怒鳴ったりいたしません」と注意をした。
サルベーセンは、クッションに顔を埋めて、「貴族でも平民でもなく、私は鳥になりたい」と、呟き、マリヒューイが、「大丈夫です。貴族は刺繍をして過ごします」と慰める。
縫製工場が始まって、どうい訳か、より大勢の人が集まり、急ピッチで、キルトが出来上がった。
それに伴い、女性3人は、ドレスなどのデザインを考える事が多くなり、毎晩のように激論が繰り広げられた。
リリアールとマリヒューイは、ドレス担当、サルベーセンは、作業着、部屋着、コート担当に分かれた。
「サルベーセンさん、この黒の布で、兄上たちにもコートを作って頂けませんか?」
「え??良いけど、王室って、服装の決まりとかないの?」
「そうですね。兄上は、服のアクセントに紫を入れます。騎士の皆さんは、緑を入れる方が多いです」
「え!! あの4人って、騎士なの?初めて知った。使用人かと思った」
「はい、当然の事ですが、腕の立つ騎士で、それでいて文の分野にも精通しています」
「そうか・・・、適当に書いてもマルクは誰の物かを知っているから、みんなに合わせて作ってくれるよね」
「はい、マルクさんは、健康になってからは、本当に働き者です」
「今では、20人以上を束ねている工場長です。女性の能力は無限だね」
「スゴイよね。夕方になるとマリヒューイの入浴を手伝って、夕食の用意もして、ケンティの面倒も見ている。素敵な母親そのものだ」
「マルクさんは、私やサルベーセンさんにとってもお母様のような方ですネ」とマリヒューイが、言った。
「本当だね。私達、甘えすぎている。久しぶりに、私が夕食を作りましょう」
大量の布と大量の綿は、沢山の服へと変身して、完成品がサロンに並び、サルベーセンとマリヒューイは、感謝の意味も込めて、着替えて皆に披露した。
ここに通っているパートの女性たちは、感動したのか、自分たちが作った服を見て、泣いていた。
「すごく可愛い、綺麗です。あ~~いいです。立派なコート・・・、素晴らしい」
「そんなに感動したのなら、冬の間、皆さんも作って、市場で売ってみたらいいのでは?そうね、売れそうなのは、このスカートとか、このジャケットもいいわね。それで、明日からは、ここへの進入は禁止になりますが、余裕がある人は、資金を提供しますので、制作して、市場で売って下さい」
「それには条件があって、綿は、青い屋根の村の品物を使用して下さい。布は・・・、なんでもいいです」
「本当ですか?こちらのデザインを使用してもいいのですか?」
「そうね、こちらの貴族用の服装は禁止しますが、一般の服は許可しましょう。やってみたい人はいますか?」
その場の全員が、手を上げた。
「そ、そう・・・、では、証文を書きますので、役所から資金を受け取り、売り上げの1割を、また、役所に収めてください。それは、税金になります。いいですか?」
「貴族用のデザインは、禁止です。綿は領内の綿を使用する事、売り上げの税金を必ず納めて下さい。約束ですよ。守れない場合は、来年からすべての仕事は、ありません。私は、引きこもります」
「はい!! 」
パートの女性たちは、サルベーセンが発行した証文を持って、嬉しそうにそれぞれの家に戻って行った。
「彼女たち、本当に商売するのかしら?」
「さぁ、どうでしょうか?でも、女性の自立を助けたい気持ちもあります。家庭、子供も大切ですが、自分自身も大切にして欲しいです」
マリヒューイは、リリアールと一緒に、嬉しそうにサルベーセンを見ていた。
数日後、ジンが馬車に乗って報告にやって来た。
「今日で東屋が完成しました。村の全員が、サルベーセンさんが村に来てくれる事を、待っています。お願いできますか?」
サルベーセンは、畑の点検をしていると、ジンが訪ねて来たので、重い腰を上げて、青い屋根の村に向かった。
相変わらずの大歓迎で、東屋は、何と、リゾート地にあるように立派な建物で、その下には、バーカウンターがあっても、似合いそうな出来だった。
テーブルや椅子が用意されていて、テーブルの上にはご馳走が並んでいた。
「すべての家からの感謝の気持ちです」
「ありがとうございます。食べきれなかったら、もらって帰ります」
それから、感謝の言葉や、歌などで、接待されて、落ち着いて来た頃に、ジンに綿の売り上げを聞いてみた。
「最近は、どう?綿を求める人は、増えた?」
「勿論です。知っていますよ。サルベーセンが支援して、女性たちに仕事を与えた事を、町の市場での売り上げも上々で、驚くほどに、彼女たちは儲かっています。本当にありがとうございました」
「本当に?それは良かった。上手く回ってくれれば、それでいいの、領の税収入にもなる」
「はい、みんな、税金を払う事が嬉しいって、言っています。サルベーセンさんに、恩返しができるって、本当にありがとうございます」
「・・・そう言ってもらった後に、お願いしづらいけど、実は、あなた方、ガテン系の皆さんに、頼みごとがあるの、お願いできるかしら?」
「??????」




