結局、お金はどの位?
第11章
ケンティとマリヒューイは、学校に通い始め、2階のリノベージョン工事の概要を大工さんに伝える。どうせなら、自分が使いやすい2階にしようと思い、殆んどの高級家具を断捨離して、シンプルホテル仕様に換えた。
「サルベーセン様、こちらの主賓室は、書斎と寝室が備わっているようになさるのですね?」
「ええ、趣味ではありませんが、仕方がありません。後、マリヒューイの部屋は、彼女の意見を聞いてあげて下さい」
「サロンの方には、もう一つ、浴槽を増築する方向でよろしいでしょうか?」
「はい、完全型個室の浴槽で、外から薪を入れて、お湯を沸かして下さい」
「このような浴槽、見たことがありません。しかし、いい方法ですね」
「そうですか?ーーー水道や煙突工事も同時にお願いします」
「今日は、教会に出かけてきます。後は、よろしくお願いします」
「はい、行ってらしゃい。お気をつけて~~」
大勢の労働者に見送られ、サルベーセンは、月に一度、教会に出かけて牧師に会う。この牧師さん、このイレブン・ヴィンの真の領主のようだと思える程に、優秀だ。
「サルベーセンさん、こんにちは、役所から、今月の決済報告が届いています。しかし、本当にサルベーセンさんは、優秀な方だったのですね。このような形式で、毎月、役所からご自分の資産の報告書を提示させるように、進言されて、ご立派です」
「ええ、随分、騙されましたから・・・・本当に・・、だから、自分の資産を把握したいと考えました」
「・・・・・・」
「その事は、領民たちも、もの凄く反省していると思います。私の力不足で、心から謝ります」
牧師さんは、深々と頭を下げ、サルベーセンに謝った。
「牧師、私がここに来て、母が亡くなり、私も飢えで死にかけました。それは、心無い商人や、領民のせいではありません。多分、わたくしの性格と無知が招いた事でしょう。あの時の辛さは、一生忘れられません。だから、この領土で、生活している領民たちに、飢えの辛さをさせたくありません」
「自分の資産、この領土の資産を把握して、生活が困窮している領民を助けたいと、考えています。父は、王都での商会が上手く回っていて、領土の事など気にもしていなかったのでしょうけど、わたくしはここで生活するのですから、少しでも、飢えをなくしたいです」
「しかし、お父上のおおらかな気持ちも、領民には有難かったです」
「ええ、でも、この領土が、それほど荒れていないのは、あなたがいたからです。牧師さんは、教会や教室の他に、牧場経営を行い、チーズや牛乳などの加工品も販売していて、領民からの信用も厚いです。わたくしは、これまで通り、牧師さんが中心となり、この領土が発展する事を望みます」
「サルベーセンさんは、ご領主として、何かを始める事は、おありですか?」
と牧師は真剣に聞くが。
「いいえ、現状維持を目指します。国から、幸い、港を閉鎖された時期の補助金が入金されたので、多分、生きている間は、わたくしの飢えは、しのげそうです」
「クッキー工場の件ですが、雪が降り始めると閉鎖されるようですが?」
「はい、麦や山の果物、畑の整備が終わった後は、また、静かに暮らして行きたいと考えています」
「それは、残念です。張り切って、仕事に向かう領民が大勢いましたから・・・」
「あの場所は、雪が多く、通勤するには危険が多いですし、実は、わたくしも、その静かな雪景色を楽しみにしています。わたくしの気持ちを、察して頂くと、有難いです」
「そうですか・・・、そうなると、ケンティとマリヒューイさんも学校はしばらくお休みですね」
「はい、もしかしたら、その頃には、王都から彼らの為に、教師がやって来るかも知れません」
「彼らが、来なかった場合は、わたくしが授業を進めておきます」
「それは、素晴らしい。あの二人は、本当に優秀で、生徒の見本です。わからない生徒たちに指導もかってくれて、私の助手としても働いてくれています」
「ええ、我が家でも、わたくし以上にしっかりしています」
「ハハハハ・・・」
優秀な牧師さんと、別れの挨拶をして、二人が通っている学校の教室を覗いてみた。
本当に、ケンティとマリヒューイは、教室の前に立ち、わからない子供たちの質問に答えたりしていて、本当は、先生不在の時間が一番、勉強が進むのかとも思われる風景を見ていた。
その時、ケンティが、サルベーセンを見つけ、駆け寄って来て、サルベーセンは、カゴ一杯に詰め込んだクッキーをケンティに渡し、
「お昼ご飯が終わったら、みんなで食べて下さい。少し割れていて売り物にならない物だから、全部食べていいわよ」
「先生、ありがとう」「ありがとう!! 」と生徒たちが歓喜の声を上げて、手を振っていた。
リリアールが、
「割れたクッキーを上げただけで、あんなに喜ばれるのは、気分がいいわね」
「ええ、王都では、このような事はないのでしょうか?」
「貴族は、気まぐれに孤児院などを訪問して、施しを与える事もあるけど、あなたのように、直接、教室を訪ねる事はしないでしょう」
「ここの牧師さんって、孤児も引き取って、育てているのよ。彼が真の領主みたいだよね」
「・・・・・」
「二人で、のんびり外に出て歩くのも久しぶりで、ゆっくり散歩するのもいいよね。季節が変わると、周りの木々たちの変化も楽しめて一歩一歩が嬉しい」
「サルベーセン、あなた、没落したとは言え、貴族階級で、今は、領主でもあるのよ。道端で、食べられそうな食物を探すことは、やめて下さい」
「何を言っているの! 綺麗なお花でも摘んで帰ろうと、思っているだけよ。食べ物を拾うなんて・・・。あっ! 見て、この花・・・・カタクリの花に似ている・・・、頂いて行きましょう」
「・・・その花、まさか、食べるの?」
「嫌だな~~~育てて鑑賞して‥‥最後には、食べるかも知れないけど・・、綺麗よね?」
「食べないで、めでるかな~~~いとしいお花~~~♪ 」と歌いながら、リリアールとの散歩は、楽しくて、仕方がない。
「ルイ王太子は、雪が降らないとやって来ないと思っているの?」
「ええ、彼らは、きっと、自分の安全よりもマリヒューイの安全を、最優先にしていると思うの」
「どうして?」
「だって、魔法が使えるのよ。彼女はきっと特別な子供なのよ。国家が守る程に・・」
「でも、あの移動魔法・・、あなたの所にしか戻れない、ポンコツな魔法でしょう?」
「それは、私も思いました。色々な所に移動できたら、王太子たちは、諸国巡礼等をしなくても、その国の内情を把握する事が出来るのに・・・」
「でも、本当は、違う魔法が使えるのかも知れませんね」
「何だろう?大体、私たちも特殊な環境で暮らしているから、すんなり魔法少女を、受け入れているけど、大丈夫だよね。朝、起きたらカエルに変身させられていたりして、そしたらどうする?」
「そうしたら・・、虫を食べるしかありませんね」
「ひぇ~~~、無理、マジで虫は無理だわ。長い舌で・・・ヒョイっと・・、無理だ!! 」
今回の、二人の散歩が余りにも楽しかったので、次の日からは、マルクにお弁当を作ってもらって、工事中の我が家を脱出して、領土巡りを始めた。
「行ってきます~~! 」
「行ってらっしゃい~~! 」と、本当に沢山の労働者を見るたびに、冬になるとこの人達は、仕事を無くして、どうするのだろうかと、思っていた。
「彼らは、今まで、何をして暮らしていたのかしら?」
「大工さん達は、家具を作ったり、修理をしたりして暮らして、後の人々は殆どの人達は、農業で生活しているみたい。大型の市場が出来て、そこで売って、暮らしているらしいよ」
「だから、今回の市場の閉鎖は、厳しかったのでしょう」