こんにちは幽霊
第1章
確かに、毎日、疲れている体だと実感はあった。例えば、ジーンズを脱ぐ途中で眠ってしまうも・・・。
やっと入った浴槽、その時、心臓が、痛くて、どうにかして欲しいと、サインを出していたことも、はっきりと覚えている。しかし、その後、重い体を引きずり、ベットに倒れ込んで、膝まで毛布を掛けたはずだ・・。
今度の休日は、この暖かいベットで1日過ごすと決めていた。それなのに、突然、誰かが自分を起こそうとしている。
「ねぇ、今、起きないと本当にやばいよ。起きた方が、あなたの為だよ。このままだと、私と同じ世界に来ちゃうよ。ねぇ!! 起きなよ!! ねえ!!! 」
「ねぇ!!ねぇ!!!~~~~。お・き・ろ! 」
顔を枕に押し付けながら、体は起きようとしているが、頭は、まだ眠っている。都心のワンルーム、彼氏なし、それなのに、誰が、私を起こすの?携帯の動画流したままだったのかな?
やっと、目を覚まして最初に見えた光景は、嵐のような天井に、暗雲の中にいる・・幽霊?
「ギャー!! 何、この幽霊・・・コスプレしている、ド・ドレスを着た幽霊・・・・! て! て! 天井に、ギャー!!!! 助けて!お化け~~~!! お化け! 」
ベットから転げ落ちた後に、部屋の中にあるスタンドミラーに映る自分を見て、『誰?イヤ、イヤ、イヤ誰?・・本当に、誰?』
頭の中が、どうにかなりそうだと思って、後ろを振り返ると、幽霊まだいる。
「イヤ、ギャー、どうしたらいいの~~~~! 」と、床に頭を叩きつけ、本気で目を覚まそうとしたが、鏡に映っていたのは、血を流している16、17歳くらいの女の子だった。
「あなた、バカなの?死の淵から戻って来れたのに、また、頭を打って死にたいの?」
「ここは?どこ?ーーー天国?地獄?三途の川の手前?・・私、今、どこにいるの?」
オデコから血を流し、目からは涙、鼻からは鼻水、口から唾を飛ばしながら、思い切って幽霊にたずねる。
「あなたの部屋」
「違う!絶対に違う!だってこの部屋、木の臭いがして、軽井沢にあるコテージの様で、コンクリート感が全然ない!・・・それに・・・」
「それに?」
「この体も私のではない・・・・」
「・・・・・・」
その後、二人は、黙ったままお互いを見て、考えた。ーー少し落ち着いて来たのが、自分でも少しずつわかった。
「一回、整理させてくれる?」とサルベーセンは何の抵抗もなく幽霊に話かけていた。
「わかった、多分、わたし・・、自分の世界で亡くなったんだと思う。・・そして、この女性も・・同時刻に亡くなって・・、ーーその時、あなたも?」
「いいえ、わたくしは、随分前に死んでいます。どうして死んだかは、今は、言いたくない。でも、あなたの事を助けたかったから、あっちの世界に行く前に、呼び起こして、手を引っ張って、目を覚ますようにしたの。感謝してね。私は、きっと、いい事をしたと思う」
幽霊をじっと見て、胸を張って、自分の善意を強調しているのがわかるけど・・・。頭の中では、体と、魂を間違えたのは、この幽霊ではないかと、少し疑っていた。
「私、今、違う人間なんだ。これって、転生したと理解した方がいいのかしら?」
「うん、そう思うよ。だって、ここに住んでいた女の子・・・サルベーセンって言うのだけど、最近は、たった一人で生きていたから・・・」
「え?この一軒家に?こんな若い子が?何か事情があるの?」
「1年前に母親とここに来て、最初に母親が亡くなり、その後、生きる事が、出来なかったんだと思う。没落貴族って、生活力がないから、いきなり使用人無しの生活は、辛かったと思うよ」
「・・・・・・」
サルベーセンは、確認したくて尋る。
「お願いがあるのだけど、ドレスの中の足・・・・その・・」
その黒と薄紫で出来ているドレスを着た幽霊にお願いしてみた。
「いいよ。どうせ無いけど・・・・」
「私の事は、リリアールって、呼んで! 」
リリアールは、少し天井に浮き上がり、ドレスの中を見せてくれた。ドレスの中は、真っ黒で、足はなく、自由自在に部屋の中を浮いていた。
オデコの傷が疼いて来て、もうこれは、夢でも、幻覚でもなく現実なんだと実感できるようになってきた。現実を受け止め、起き上がり、部屋を見渡し、その小さなコテージを見学する事にした。
没落貴族だけあって、この家は、広く、本当に使用人はいなくて、自分一人だけだった。
(それにしても・・水や食料がないわ・・・・。)
家の中は、家具も揃っていて、調度品もある。しかし、これでは生活できない。
サルベーセンが、外に出ると、リリアールも外に出る事が出来る。それを見て、サルベーセンに憑いている幽霊だと言う事がわかる。おかしなもので、一度、死んでいるからか、特に怖いとは思わなかった。
「水は、どうしていたのかしら?」
「水は、カメに溜めるらしい。私も知らなかったけど、庶民はそうやって生活しているらしい・・」
「??????」
その言葉を信じて、桶をもって川を探しに行った。今は、初夏で、少し暑く感じるが、都会の夏とは違い、爽やかな夏を肌で感じる事が出来た。どうせ死んでいるんだ。この世界を楽しもう。前世では、一生懸命、ピリピリしながら働いた。あんな生活とはオサバラだ!そう思いながら空を見上げたら、又、涙が出て来た。
リリアールも前者のサルベーセンに付き添って、泉のような池に来たことがあるらしく、場所を教えてくれた。
「こっち、こっちだよ」
その泉は、びっくりする程に美しくて、サルベーセンは服を脱ぎ捨てて、思いっきり飛び込んだ。
リリアールは、びっくりして、サルベーセンを見ていたが、どうせ誰も、ここには来ない事を知っていたので、好きにさせていた。それに、元気なサルベーセンを見ているのが楽しかった。
サルベーセンは、泉に入りながら、体を洗い、髪もその辺の花を手でつぶして洗った。水を入れる予定だった桶には魚と水を入れて、歩きながら食べられそうな野菜も摘み、途中で、麦畑のような枯れ始めた畑も見つけた。
「食べれそうな物は、すべて拾って帰ろう。食べないと生きてはいけない」
歩いている内に、濡れた服は乾き、家に戻ってから厨房を探した。
「薪は沢山ある。マッチも、調味料もある。塩は、使っていたみたいだ。塩だけを使って食事の用意をしていたのかしら?」
「サルベーセンは、町に出かけて、食物を買っていた。隠し持っていた宝石などを売っていたが、それも底をついて・・・・」
「でも、調度品とかドレスとか、まだ売れるものは残っているのに?どうして・・」
「そんな物、売れるの?」
「売れないの?」
色々話すと、サルベーセンとリリアールの会話は、時々、かみ合わない事があるが、リリアールはこの国の事には詳しかった。
「その枯れている草を食べるの?」
「多分、これ、食べれると思う・・・、魚だけでもいいけど、これが食べられたら、あの辺一帯を収穫して、冬に備えたいと思って、今日は少しだけ挑戦してみたい」
「ーーーお茶とか・・・無いよね?」
「お茶は、流石に前のサルベーセンも飲んでいた。あそこだと思う」
「ああぁぁ、お茶が残ってる。ありがとうございます」
それから数か月、サルベーセンは、麦に手を加え、お粥の様な主食に変え、魚や鳥を捕まえ、野菜は、その辺の草を摘んで食べ、たまに野生の果物なども探しては、なんでも食べていた。冬になる前には、麦畑の収穫を終え、水もカメにいっぱい溜め、近くにはよくわからない野菜なども移設して、畑も作った。
秋になる頃には、山ぶとうが沢山なり、当然の事ながら全部収穫して、サルベーセンは、自給自足の生活を楽しんでいた。
「毎日、やる事が多くて、町に一度も行ってないけど、冬前に、何かを現金に換えて、調味料などの生活必需品を購入しなくては・・・・」
「町に仕事があったら、花瓶やドレス等は、売らなくてもいいのでは?どうして、私、勤めに出るって、考えなかったのかしら?」
サルベーセンは、リリアールを見て尋ねた。
「きっと、怖かったのでは?だって、あなたは、まだ、この国で、誰とも会った事がないでしょう?わたくしだって、仕事をしたことはない。前のサルベーセンだって・・・、間違っても、働こうとは思わなかったでしょうね」
「そうか・・・、私達、防衛本能が働いていたかのか?」
「でも、怖くても、町に行かなくては、寒い冬を迎える前に対策したい事は、沢山ある。明日、町に出よう! 」