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Ⅷ いつか来る絶望

今週も更新です。

夢を見た。


酷く恐ろしく、惨たらしい夢だ。


紅く照らされる街並みと掲げられる人々の首。


群衆は怒号を上げながら凶器を構え、街の中央、王城へと駆けて行く。


この暴動はそこだけで無かった様で視点が別の街へと変わった。


しかし、行われている事はどこも同じで怒り狂った民衆が騎士を踏み倒し、身なりの良い人を引き摺り出しては何十と群がり、殺し、吊し上げていた。


私はそれこそ歴史書の中でしか見た事が無かったが、その光景を見てそれがなんて呼ばれるのかがはっきりと分かる。



革命だ。






瞼越しに伝わる陽の暖かさが私の目を覚ます。


『おはようございます、クレア』


「おはよう」


『おや、涙が出ていますがどうなさいました?』


「え?」


キャトルに言われて初めて涙を流していた事に気付いた。


「・・・なんでも無い。というか知ってるなら聞く必要無いんじゃない?」


私の問にキャトルは苦笑する。


『それではあなたとの会話が無くなってしまうでは無いですか』


キャトルは私に顔を近付けながら続ける。


『いくら私が全てを知っているとしても、私は退屈が大の嫌いですからね。会話は精神的にも大切なんですよ』


深めていきましょ、相互理解。と彼が言うと共に手渡してきた服に着替え、学校に通い始めて1週間、もはや日課となった朝訓練をするべく庭へと向かった。




庭へ出るといつもの様にミヤとユーグが気合いの声と共に稽古をしているのが分かる。


丁度一区切りついた様だったので朝の挨拶をすると、ミヤはややご機嫌斜めながらも話しかけて来てくれた。


「・・・そういえば先生から聞きた。キャトルが獣と人の間の子の様な姿になって凄かったって」


『クレアの魔術に助けられた結果ですよ』


ミヤはキャトルの手をおもむろに掴むと期待を孕んだ視線をキャトルへと向ける。


『そんな目で見られても・・・』


ジィー。ミヤの視線は逸れずに真っ直ぐとキャトルを射抜き続けた。


『・・・仕方ありませんね』


すると、キャトルはギルと闘った時の獣人と姿となった。


「うぉぉぉ」


ミヤはその毛皮に覆われた筋骨隆々な体を見て、触って少し鼻息を荒くする。


もしかしてこの様な男性が好みなのだろうか。


・・・毛皮や獣の様な耳や肉球に惚れたのならばこの世界に獣人はいないらしいので諦めてもらうしかないが。


そんな私の心配を他所に、ミヤは立て掛けていた剣を手に取ると高らかに言い放った。


「話を聞いた時から闘ってみたかったっ!いざ勝負っ!」


「・・・」


ミヤの顔はまるでこれから遊びに出かける無邪気な少年の様で色恋の色など微塵も感じられない。


『宜しいですか?』


「えぇ。けど、お互いに怪我はしないでね」


妹の将来に少し不安を覚えつつもキャトル達の試合を横目に土槍の訓練をする事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


獣と人の間の姿となったキャトルと対峙する。


あの姿のキャトルは背丈が異常に高く、その風貌から伝わる威圧感は今まで相手をしてきた連中の中でもダントツだ。


そんなキャトルは武器を構えずに拳を構えている。


あの巨体では武器を握るよりも拳を振るった方が有利に働くのかもしれない。


対する私は正眼に剣を構えて隙をうかがう。


『そちらからどうぞ。怪我はさせませんので』


「・・・手加減はいらない。こっちも遠慮なく行くっ!」


私は駆け出した。


キャトルは動かない。反撃(カウンター)を狙っているのだろう。


「・・・っ!」


相手の間合いへと踏み込み、渾身の一閃を放つ。


半ば持久戦の様になってしまえばこちらが不利になるのは自明の理。


なんとしてもこの一撃で決めたかったが、突如として悪寒が走った。


剣を止め無理にでも体を後ろへ持って行く。


『・・・中々良い勘をしている』


構えを崩さないキャトル。


何をしたかったのかは知らないがあそこで避けなければ勝敗が決していた。そんな感じがしたのだ。


『今度はこちらからですね』


キャトルの脚力に地面が凹む。


凄まじいスピードで迫って来たキャトルが放ったのは槍の様に鋭い拳。


・・・避けきれない。


私が咄嗟に剣を盾に使うと鍛えられた鋼である筈の剣が軽く曲がった。


「・・・っ!」


『止まりませんよ』


キャトルは私の懐へ踏み込むと手刀を繰り出す。


それは真っ直ぐと私の首に吸い込まれていき、


・・・ピッタリとスレスレの位置で止まった。


『確かにあなたは強い。だが、1度ペースを掴まれると立ち直るのが難しいのでしょう』


無言で頷く。


今回は最初の打ち込みからペースを崩され、最後まで防御に回ってしまった。


『これからは経験の薄い、剣を持った以外の相手との訓練をするべきだと私は思いますよ』


キャトルはそこまで言い切るといつもの紳士服の青年の姿となって手を叩いた。


『さて、そろそろ切り上げないと遅れてしまいます。クレアも朝食を摂らねば間に合いませんよ』


「分かったわ」


私達は学院へ向かう準備を始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学院に通い始めて1週間程経った。


2日目のあの出来事があったものの特に変わった事無く過ごせている。


授業はどれも面白いが、特にユークリフ先生の担当する霊契術理論の授業は興味深かった。


「今日は契約者と霊神との間に契約によって生じる同調(シンクロ)についてやりまーす」


先生は相変わらずだらしない見てくれだが、その手際からは頭の良さが伝わってくる。


「この同調(シンクロ)と呼ばれる現象には意識的同調と無意識的同調が存在するが、今日は無意識的同調について簡単に説明をします・・・と、その前にもうそれっぽい体験をしたという人はいるかな?」


それっぽい体験というのはあの革命の夢も入るのだろうか。


私が悩む内にサイドを刈り上げた元気そうな男子が手を上げた。


「はい!先生っ!俺の霊神はこの篭手に宿った付喪神なんだけど、この篭手を使ってた頃の若い父さんの夢を見た事がありますっ!」


「それは良い体験をしたねぇ。バルト君。契約の儀からそれほど時間も経っていないから君とその霊神の相性は余程良いらしい」


バルトは顎を掻きながら答えた。


「えっと、確かに契約したのは最近だけど、こいつとは昔この篭手を引き継いだ時からだから実はそこまで関係が短い訳でもねぇんだ」


「それでも同調という体験をするという事は相当心の距離が近い、端的に言えば仲が良いという事。誇っても良いと思うよ」


おぉ、と皆がざわめく中、私はあの革命の夢について考える。


もしあの夢がキャトルとの同調ならば、それはキャトルの記憶という事になる。


キャトルの記憶は過去や未来、他世界にも及ぶ。


それを見たとして果たしてそれは警戒するべきなのか分からない。


『あれはこの世界の未来の記憶ですよ』


キャトルが耳元で呟いた。


「・・・それは私が生きている内の?」


『えぇ』


返される肯定の言葉。


「少々脱線してしまいましたが要するに無意識的同調とは・・・」


進む授業。私は意識を授業へと戻した。


こんな事、今悩んでも仕方ない。


今私に出来る事は力を、知識を蓄えるだけだ。

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