第1章3 「生贄の少女」
ーーーボガーーン!!!!
トシヤが10数階上の床を突き破って出た音だった。
そこには、頬はコケ、体はやせ細り、腕と足はまるで枯れ果てた小枝のようになった少女と方々に吹き飛ばされたゾンビの姿だった。
「大丈夫ですか?生きてますか!?」
そう言いながら少女の肩を揺さぶった。
「何か…食べ物。」
少女は余程空腹なのか、最小限の声でそう呟いた。
「食べ物か…ちょっと待ってて!!」
そう言うと、当たりを見渡してあるものを持ってきて、軽く松明で炙って少女の口にあてがった。
「さぁ、食べて!おいしいから」
どこか暖かみのある満面の笑顔で少女に食べるように促した。
少女は少年の笑顔にうっすら家族の面影を感じて、言われたままかぶりついた。
ーーーガブリュ
歯をたてて思い切り1口をゆっくりと噛みしめ、
喉の奥に音を立てて送り込んだ。ゴクリュ。
「うっまぁぁあああ!!!!」
飲み込んだ瞬間少女は雄叫びをあげた。
先程まであんなに弱々しく痩せ細っていた体が
たちまちにふっくらと女性らしさの中に美しさを残した程よい肉付きに変わり、身体が例の光に包まれていた。
渡された物を勢いそのままに食べつくしてしまった。
あまりの空腹とあまりの美味しさが合わさって我を忘れている美しい少女がそこにはいた。
「もっとないっ!?このおいしいのもっと!!」
するとすぐに待ってましたと言わんばかりに
「もうちょっとでやけるから少し待ってて!」
優しく嬉しそうに声をかけるトシヤ。
少し残念そうな顔をする美しい少女は待ってる間にふと冷静さを失っていた事に気付く。
「私ったら、なんてはしたない。助けてもらった方の前でこんな獣みたいに!」
冷静さを欠いていた先ほどまでの自分恥じる少女。
「あれ?そう言えば、私を襲っていたあの恐ろしいゾンビはどうしたのかしら」
そんなことを考えていたら、トシヤが美味しそうに焼けた肉の塊を持って小走りでやってきた。
「お待たせ!さっきよりもしっかり焼いたからもっと美味しいと思うよ!」
ありがとうございますと両手を皿のようにして受け取ると、少女はまだ空腹だったのか、そそくさと口に頬張った。
さっきまでの獣のようではなく、どこか気品溢れるように小さく食べていた。
「んんん〜!!!やっぱり美味しい!!さっきより肉汁が溢れて、甘味も増していますわ!こんな美味しいもの食べたことがありませんわ!!!」
興奮気味にトシヤに語りかけてくる少女
「あはは〜良かったよ!でも君さっきまでガリガリだったのに凄い美しくなったね」
恥ずかしげもなく、思ったことを口に出すトシヤ。
「そんな、美しいだなんて。お恥ずかしい。。。」
顔を赤らめ、小さく顔をそらす少女。
「本当に綺麗だよ!君ほど綺麗な人に僕はあったことないよ」
トシヤは本当にそう思っていたのである。今まで関わった女性が近所のおばちゃん達というのもあるが、少女は日本人とは違う美しい鼻筋に小麦色の肌
その肌によく似合う美しい金髪だったのだ。誰がどう見ても美人なのである。
「・・・・困ります。そんな風に言われたことないので。。。どう反応すればいいか。。。」
そう言うと、顔をさらに真っ赤にして、完全に後ろをむいてしまった。
「ごめん、何か嫌なこと言っちゃったかな」
「いえ、そんな事は!!!、、、ただ、恥ずかしくて。」
慌てて向き直り、だんだん小さくなる声で否定する少女。
「そっかあ!良かった〜」
言いながら、屈託のない笑顔で頭の後ろをガシガシかくトシヤ。
その純粋な笑顔に無意識に釘付けになっている少女。
ーーー素敵。
トシヤの笑顔に少し心を奪われていた。
「ねぇ、ねぇ!聞いてる?」
「はっ、はい!何でしょう?」
ボーっと考えていた少女をトシヤが呼び戻す。
「名前、なんて言うの?」
顔をジッと見つめながら真剣に尋ねるトシヤ。
「ミラ!私の名前はミラですわ!」
「ミラか、いい名前だね!僕の名前はトシヤ!屋久島富士山!」
「ヤクシマ トシヤ・・・家名があるということは王族の方なんですね!!!」
興奮気味に語りかけるミラにキョトンとした顔で首をかしげる。
「王族?何のこと?」
「それにこのローブ!言い伝えにきく王様の物と同じじゃないですか!」
トシヤの疑問も聞こえないぐらい興奮して、矢継ぎ早に語りかけるとミラは急いで平伏した。
「ちょっと、何してるのミラ!」
と急いで頭を上げさせようとするトシヤ」
「いえ!我々はあなたの蘇りを3000年間お待ちしておりました。」
どう言うこと?とトシヤは聞いた。
「世界をゾンビの脅威から救う王様が3000年の時を経て復活すると言い伝えられてきました。
我々一族は3000年間言い伝えどうり、あなた様の復活のために毎年、村から一人生贄の少女を捧げて参りました。」
そう言うと、顔を上げて続けた。
「そして、言い伝えから丁度3000年になるのが今年なのです!
どうか、私共を、この世界をお救いください!!!」
そう言うと、また平伏した。
「顔を上げてミラ」
静かにミラにそう告げると、トシヤは気になった事を伝えた。
「もしかして、今年の生贄ってミラの事?」
「はい。私がその生贄でございます。お恥ずかしい話、何日もゾンビから逃げ回り、もう力が出ないで諦めかけたその時、王様が助けて下さったのです。」
その言葉を聞くと、そっとミラの体を抱き寄せた。
「ミラ大変だったね。怖かったでしょ?」
「そんな。王様。。。うっ、うっ、うわーーーんんんん」
ミラはトシヤの胸の中で繋がっていた緊張の糸が切れたのか、大きく、大きく泣いた。
「死ぬのって怖いよね。」
トシヤはそっと呟いた。