〜序章〜
6月6日(日)
世間的には何て事ないただの日曜日。
しかし、僕達家族の中では日曜日は特別なのだ。
毎週日曜日は、家族みんなでご飯を食べる。小さい頃に母さんが決めた約束事。
僕は、そんな大切な日曜日に、、、死んだ。
ーーーぐぅううう〜。
静かなちゃぶ台すらない、狭くてぼろい畳の部屋。およそ、現代社会の日本とは思えないさびれた空気の漂う部屋に空腹の鐘の音が鳴り響く。
「お腹すいたな。最後に飯食ったのいつだっけ?」
隣に寝転ぶ人物に問いかける、腹の音の主。
「7日前だよ。落ちてたパンを二人で分けたのが最後だったじゃん。」
そういって弱々しく答えるもう一人の男。
「そうだったな。じゃあさ、最後に腹一杯ご飯食ったのいつか覚えてる?」
答えれるものなら答えてみろと言わんばかりと血の気の引いた青白い顔で笑いながら問いかける主。
「・・・母さんがいた頃は食べてた気がするな。」
少し、間を開けてそう答えるもう一人の男。
「母さんなんかいねーよ。顔だって覚えてねーのに」
そういうと少しバツが悪そうに口をとんがらせて言い捨てる主。
「何いってんのさ、母さんは誰よりも優しくてあったかい人だった気がする。きっと何か事情があって出ていったんだよ」
力を振り絞って言葉に力を込める。
そうこの二人は兄弟なのである。腹の音の主は双子の兄ショウジ。もう一人が双子の弟トシヤ。
この子らの母さんは12年前、3歳の兄弟を残し突然いなくなった。
それまでは家族で幸せに暮らしていたと思う。兄弟に記憶はないが、、、
しかし、母さんがいなくなって父さんは荒れた。酒に溺れ、兄弟達に事あるごとに暴力を繰り返すようになった。
食べ物も買うお金も貰えず、何も買って貰えなかったから学校にも行けなかった。
そして今までは、その辺に落ちてるものや食べれるかどうかも怪しい草やキノコを食べて生きてきた。
「じゃあ何で日曜なのに帰って来ないんだよ。母さんが約束したんだろ、日曜日はみんなでご飯食べようって、、、。」
そういうと静かにうつむいた。
日曜日はこの家族にとって特別なのだ。長距離トラックの運転手で週末しか帰らない父、パートで家計を支えながら兄弟を育てる母、そんな生活の中で家族の時間を作ろうと母が毎週日曜日は家族みんなでご飯を食べようと決めたのだった。その約束だけが兄弟にとって唯一の母との記憶だった。だから余計、日曜日にここまでこだわるのだ。
「ショウジ、いつか食べれるよ。母さんと。今はあんなだけど、父さんも母さんが戻ればきっと。みんなで、、、ご飯いっぱい食べれるよっ。今日は、無理でも、いつの日か、、、の日曜日に。」
顔だけむいて笑顔で途切れ、途切れにそう言うと、トシヤは動かなくなった。
「おい、トシヤ!!!、おい聞こえてるかトシヤ!起きろよ、、、、」
トシヤを逝かせてたまるかと必死に呼び止めるショウジ。
遠のく意識の中、トシヤは考えていた。
「ごめんなショウジ。もうダメみたいだ・・・。ショウジは大丈夫かな。ちょっとパン多めに渡したしまだ大丈夫かな〜
でも、、、お腹いっぱい美味しいもの食べたかったなぁ〜
そういえば、色んな草とかキノコとか食べたけど何回もお腹壊しちゃったなーあれ見ただけで食べれるかどうか分かればいいのに。」
死の淵に色んな思いがゴチャゴチャに駆け巡る。
グランブルーの世界の”そこ”に落ちていく感覚を味わいながら意識の視界から光が奪われた。
「でも・・・日曜日にみんなでご飯食べたかったな、、、。」
最後の最後までみんなとの事を考えながら優しい15歳の少年は食に溢れた現代社会の日本で餓死したのである。