ど完敗伝 キックボクシング編
キックボクシングのジムに3ヶ月ほど通ったことがあります。
和歌山の橋本から南海線で大阪市まで。
書き手志望の習性か、興味本位だけでジムや道場を見学に行って、体験させてもらうことも何度か やりましたが、これは本気の入会。
挫折したのは、自分の予想以上に股関節が硬かったからです(笑)
『五輪書』の“風の巻”の目付(視点・視線)のページに、武道の目付を蹴鞠の名人に喩えて、「慣れで、自然によく見える(ようになる)」という主旨が綴ってありました。
で、思い出したのが、このジムでの体験。
いろんな方が習いに来ていたんですが、何年も通ってるらしい、50歳近くのオジサンがいました。
俊敏では、ない。
がっちりとした体格だけど、皮下脂肪もそれなりにあって、全体的に太い感じ。
蹴り足のスピードも 特別に速くもない。
ただね、それなのに、蹴ったサンドバッグは凄まじい音をたてる。
2人1組でミットを持っての蹴りやパンチの練習もあるんですが、組む人がスゴくイヤそうな顔をしてたから、音にお似合いな重い衝撃があったようです。
本気ではない、軽いスパーリングみたいなものもありました。
ハイキックはしない、動きに慣れるのが目的で思い切りなことはしない、そんな約束です。
(防具が足りなかったからかな? 笑)
ボク、そのオジサンとのペアになっちゃったんです。
蹴り方を知ってる人の蹴りは、力を抜いてくれても、しっかりと重い。
高校時代の、空手を習っていた友人とのじゃれ合いで、そう学んでいたボクは、こう、スパーリングの結果を予想してました。
ボクが攻めて攻めて捌かれて捌かれて、で、反撃に気を使って軽く蹴ってくれるんだけど、それがムチャクチャ重い……。
もし、よォーッぽど痛かったら、無理せずにリタイヤしよう、なんて情けないことを考えてました(笑)
結果は──
1発も蹴られませんでした。
ただし、1発も蹴れませんでした。
ボクの攻めようとする動きは、全部、出鼻を挫かれるんです。
捌かれると言うより、“撃墜”という表現が近い。
蹴ろうとする動きは、全部、蹴り足が地面から浮いた時には、膝のすぐ上の辺りを爪先で押されて つんのめるんです。
俊敏に動いてるわけじゃない。
片足を上げて待ち構えているわけでもない。
膝を押してくる力も、強いわけじゃない。
ポイントとタイミングの問題だと思います。
とにかく、「あれ?」「うそ!?」と照れ笑い苦笑いで3分を過ごしました。
弄ばれたんです、ええ。
『五輪書』を読んで、「“見える”っていうのは、そーゆーことなんだなぁ」と、思い出しました。