表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/33

その7 お茶会の女主人 判定

「お、出てきたぞ。」

「終わったようだな。どっちだ?」

判定は二つの会議室の扉が面した小ホールで行われた。

生徒たちが見守る中、招待客役の2年生生徒と、校長・副校長・作法の教師が並んだ。


「では、判定に入ります。右のローレイナ嬢の茶会が優れていると思われた方は、右へ。

 左のカムル嬢だと思われた方は、左へ。

 学生の客人はご移動を。」

 

“招待客”の生徒がしずしずと移動を始める。


(…どっち?)

ハラハラしながらも表情を崩さず、ムシュカは成り行きを待つ。


「-2対5。学生票は、ジャーメイン・エリ・ド・カムル嬢!」

わああっ!と歓声が上がる。


「やっぱりね。なんといっても公爵令嬢。」

「器の違いだな。」

生徒たちが口々にジャーメインを誉めそやす。


(アゼリア…)

ムシュカはアゼリアを見つめる。すると、視線を感じたアゼリアが、にこ、とほほ笑んだ。

(―?)

何だろう、あの余裕は。

どんな泣き顔か、いい気味だ、と、横目で彼女を見たジャーメインもいぶかしんだ。


「それでは次に、教師票をお願いします。

 先ほどの学生と同じように、ご移動下さい。」

すると。


(何てこと!)(な、ぜ?)

アゼリアだけが、にっこりとほほ笑む。


「…教師票は、すべて、アゼリア・アズ・ローレイナ嬢。」

硬い生徒会長の声が響くと、生徒たちが沸き立った。


「やるな!アゼリア嬢!」

「大人が全員アゼリア嬢なら、アゼリア嬢の勝ちでは?」

「どうかな。数的には5対5。互角なんだが」


(どういうこと?先生方を懐柔したということ?)

圧倒的勝利を確信していたジャーメインは、怒りすら覚える。


「納得がいきませんわ。お一人ずつ、ご判断のわけをお聞かせ願えるかしら?」

ジャーメインの進言に、会長は即座に

「そうですね。根拠を明らかにしましょう。

 そうすれば、判定の精度があがるというもの。

 では、学生側から。」

と進行した。


「え……わたくしは、あれほどの調度や茶器、お目にかかったことはございません。ですので、カムル嬢に。」

「私もです。素晴らしいカップでした。銀器もふんだんに。」


「わたくしは、ローレイナさんです。 

 とても品があって。

 お茶やお菓子をくつろいでいただきました。」


「たしかにローレイナさんのおもてなしは、きめ細やかでした。でも、わたくしカムル様の豪華さに圧倒されましたわ。」


ジャーメインは得心して誇らしげである。

当たり前だわ。


「次に、教師票について、お願いします。」

すると、作法の教師が、

「理由など自明の事。ただいまの皆さんの言葉がすべてではありませんか。」

と、上品なしぐさで生徒たちに掌をかざした。


「どういうことです?」

会長がいぶかしむ。

「生徒さん達、カムロ嬢の方は、お部屋のあつらえや器の素晴らしさをほめたたえておいでました。一方、ローレイナ嬢の方は、お二人どちらもそのおもてなしを褒めておいでました。」


(あ…っ。)

(…うっ!)

ムシュカもジャーメインも同時に悟った。

アゼリアは変わらぬ表情で作法の教師を見ている。


「今回のテーマは、茶会の女主人、です。

 客人をどうおもてなしなさるか、その力量が問われます。

 女主人は、客人に、また会いたい、茶会に招待されたいと思わせることが大切です。

 ローレイナ嬢の部屋では、皆さんくつろいでお話されたりお菓子をいただいたりしました。一方カムル嬢の部屋では、皆さんその茶器についてご質問され、女主人がお答えするという成り行きでした。これを会話とは申しません。その意味で、わたくしは、ローレイナ嬢の茶会を選びます。」


「ありがとうございます。先生。」

「…。」

形勢が変わる。さらに


「わしは、居心地で選ばせてもらった。この年になると、茶器なぞいくらでも見てきたからな。ローレイナ嬢の椅子は、背もたれも柔らかくクッションがあって、大変良かった。」

「ふふ。校長先生が少しお腰を悪くされていることは存じ上げております。」

「やはり。気遣いがありがたかった。」

「恐れ入ります。」


ここに至って、俄然アゼリアが有利となる。おまけに副校長までが、

「わたしは美術教師として判断しました。いかに部屋が素晴らしくとも、人が入ってこその調度です。」


「…どういうことですか。」

「お分かりになりませんでしたか?それでは、客人の生徒たち、今一度それぞれの部屋に入ってお座りなさい。扉を開けておこう。ここからご覧いただけば、私の言いたいことが分かるはずだ。」


(なに?何が悪いと言うの?)

混乱するジャーメインに対し、アゼリアはゆとりさえ感じさせる様子だった。


アゼリア側の部屋には2人、ジャーメイン側には5人が席についた…


「あ」「ああ!」「な、なるほど…」

2つの扉の向こう、切り取られた絵のような景色がー


(まあ!アゼリア、すべて計算していたということ?)

ムシュカは興奮してきた。なんとあの美少女は、社交の才をもっているのか!


「確かに部屋の調度は、カムロ嬢の方が一枚上手でした。高貴な赤の繊細な色彩の違いが美しい。けれど、彼女は客人のことを考えていなかったのですね。」


扉から見えるジャーメインの方は、その高貴な中に生徒達がくすんで見える。二年生の制服はえんじ色。茜や真紅、テーブルのえんじで、制服がぼやけてしまった。

一方アゼリアの部屋は、ブルーが基調。生徒たちがくっきりと引き立つ。


「おまけに生徒たちも我々も、制服とお仕着せの仕事用の服装。茶会の格と客人の身なりが違いすぎる。これでは招待された客人が恥をかくというもの。」



(ああ、それでアゼリアは品が良くてもシンプルに統一したのね!貴院という会場と生徒という客の設定を考慮して!)


「相手を考えて対応したローレイナ嬢の方が女主人として優れている。物ではない。人なのだ。」

副校長の言葉に、ジャーメインは真っ赤になった。


「し、しかし、数は同数。

ここは、引き分けと…」

会長が慌てて裁可しようとする。


「お待ちになって」

会場の隅から、声が上がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ