その5 王宮にて2
「ぐ…」
メンディスは柔らかい拒絶に顔を紅潮させたが
「お兄様。わたくし気分が悪くなってまいりました。」
とムシュカがこめかみを押さえて助け船を出したので、その矛を収めざるを得なかった。
「な、長居したな。では、アゼリア嬢、ご健闘を祈るぞ。」
もったいなきお言葉ーとカーテシーをしたまま美少女が返す。
メンディスは、足早に退室した。
「アゼリア~!
息が止まりそうだったわ!」
ムシュカが、はあ~っと息をつく。
いかな正妃の第1王女とはいえ、王位継承2番のメンディスに噛みつくわけにはいかないのだ。
「それにしても、ほんと、からっぽな奴よね。
結局なんだったわけ?ったくもう!」
お茶を入れ直させるわ、と侍女を呼んで、ムシュカはカウチにばふっと横になる。
この王女も中身と外面はギャップがあるのだ。
ふふ、とアゼリアは笑って
「あの王子、きっとジャーメインにも同じこと言うわ。」
「えっ…」
「王子は、結果がどうあってもいいのですわ。
わたくしに試験を課したのは、裏で手を回してわたくしを救い、恩を売るため。」
ムシュカはがばっとクッションをつかんで、起き上がる。
「そうか…貴女が決闘をしかけたから、今度は勝てるようにはからうと。
そして、拒絶されたから」
「ええ。ジャーメインに妃になれるよう手を貸そうと告げるでしょうね。 わたくしを娶るために、勝って欲しいとね。結託しましょう、と。
ジャーメインがフェーベルト王子を慕っているなど耳にしたことがないわ。単に、王太子妃という位が欲しいだけ。そこにつけ込むでしょうね。
わたくしなら、そうするわ。」
くすくすと笑うアゼリアにムシュカは疑問をもつ。
「アゼリア、貴女どうしてそんなに冷静なの?」
さあ、とアゼリアは微笑みながら首をかしげる。
「…わたくし、楽しんでおりますわ。
家を身分を背負いながらも、それらに守られてきたわたくしが、自分の力量だけでこの試練をこえるという快感に酔っておりますわ。」
負ければ、死に値するのに?
メンディスのような、ハイエナが待っているのに?
恥辱にまみれ、すべてを失うのに?
「あら、ムシュカ様。よもやわたくしが負けると思っていらっしゃる?」
「いえ!でも」
ふふ。
「ある方がわたくしに授けて下さいましたの。
女は女として、自分の人生をつくれ、と。
今わたくしは、己が力で立とうとしております。
ジャーメインか、ロゼリナ様か、知ったことではありません。わたくしにこれだけの怒りをもたせてくださった事に感謝しますわ。」
透き通るベリルの瞳に青白い炎を見て、ぶる、とムシュカに震えが来た。
この美少女は、ただものではなかった。
兄上の隣がふさわしい、女騎士だった。
「わかりましたわ。アゼリア。貴女の戦い、とくと見せていただくわ。
生徒会副会長として、邪魔立てさせないよう公正をはかることに尽力しましょう。」
「ありがとうございます。」
11月2日
第一試験 お茶会審査まで、あと2日。