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その33 アゼリアへの手紙

ここまでお付き合いくださってありがとうございました!

脇役好きは治りません。精進します。

また次の作品でお付き合いくださいますようお願いします。

親愛なるわたくしの好敵手


貴院は如何かしら。わたくしが抜けてしまっては、貴女の天下といえど、皆さん物足りない事でしょう。


この度アズーナ王の養女となりました。公爵家ではなく王家から嫁ぐことになります。わたくし以上に王家に美しく賢い姫はいないのですから、シャナはどれほど得をえたかわかりませんわ。

いずれわたくしをと、お考えになっていたアズーナの殿方に申し訳ない気持ちです。


先日は侯爵様から過分なお祝いをありがとうございました。素晴らしい首飾りで、父も驚いておりましたわ。貴女が輿入れの時お持ちになる品とつがいだと伺いました。

わたくし達空は違えど、お揃いなのですね。


貴女の贈り物も嬉しかったわ!

百合の象嵌(ぞうがん)の文箱。

そう。

ムシュカを含め、わたくし達は白百合同盟ですものね!


時代は動いています。

科学の発展、産業の発展に伴い、平民と貴族の境が曖昧(あいまい)になってまいりました。そして、電話を象徴するように、昔からの手順やしきたりより、利便性が優るようになってまいりました。


その時代の渦の中、わたくし達は戦っていかなくてはなりません。



いままで、わたくしお母様の生き方なぞつまらないと思いながらも、それをなぞり育ってまいりました。

曰く

子を産み育てて、血族の繁栄を支える。

男の仕事を後方で支え、安らぎをもたらす。

それが一番なのだと。


けれどこの度の事で、わたくし分かりました。

わたくし達は戦士なのです。

男社会を時代をかいくぐり、繋がりや和を守る騎士なのです。

それ故に、わたくしや貴女は、文化の最高を身につけ身にまとい、切り込んでいくのです。


貴女はアズーナ国を

わたくしはシャナ国を

守り育て、和を作る。それがわたくし達の戦い方です。


そして3人ともこの立ち位置では、子を産む事を何より求められましょう。でも、わたくし、もしも石女(うまずめ)であっても、故郷には帰りませんわ。


わたくしの存在がシャナにとって、なくてはならないものとなるよう戦います。


勿論、母となったとしても、夫の影にはおりませんけれどね。


シャナについては連日物凄い勉強が続いております。このわたくしが、根を上げそうなくらいよ!

言葉は聞き取りは良いの。でも発音が難しくて、うちの執事に毎日嫌味を……いいえ、負けませんわ。4月に出立する時までに、古語まで完璧にしてみせますとも。


アゼリア。

わたくしの大切な盟友。

ムシュカとともに、どうかアズーナを栄えさせてね。

貴女とわたくしはアズーナ貴族文化の結晶といえましょう。これから実務に携わり、子を育て導き、政治の荒波を泳ぎ、陰謀や謀略をかいくぐり、例え泥にまみれたとしても、


わたくし達は長い年月熟成された文化の粋を体現する存在なのです。

その誇りを生涯持ち続けてまいりましょう!


淑女試験は、乙女の決闘は、白百合同盟は


わたくし達の永遠の絆です。

わたくしの永遠の支えです。


アゼリア

わたくしの大切な友達

人生の最高の時間を過ごした戦友


手紙を沢山書くわ

貴女も頂戴

頂いた文箱が一杯になったら、また文箱をおねだりするわ

わたくしも白百合の(あつら)えのシャナの文箱をお送りしますわ


インクは消えないものをね


        ()()()()() アゼリア様


        ()()のシャナの国母 ジャーメイン





ふう、と息をついたジャーメインは、呼び鈴を鳴らしてヴォルを呼んだ。


(…これを侯爵家に)

(はいお嬢様。)


窓の外は冷たい時雨がガラスを打っている。緩いとはいえアズーナの冬はまだまだ続く。


(ひとつひとつ終える度に、別れが増える気がするわ)

少し寂しげに淑女が呟いた。


「お嬢様」

ヴォルが優しい声で俯いたジャーメインに言う。


((私は何時も何処までも愛しい貴女の傍にあります。異国であろうと地獄であろうと貴女をお守り致します))


「…?」

ジャーメインが金の眼をくるくるさせて言った。

「今のは、シャナ語?わたくしの知らない構文だわ」


「…シャナの(いにしえ)の言葉です。妃たるものこの程度は。4月までに叩き込みますからね。」


まさか出来ないなどとは、とのたまう執事にジャーメインは


(貴方にできてわたくしに出来ないはずがないでしょう!)

と身をよじってシャナ語で叫んだ。


お上手な発音ですお嬢様、と一礼して下がる執事は踵を返した途端、にっこりと微笑んだ。



午後は歴史と作法ね。


ジャーメインは小さく呟いた後

(ヴォル)

(はいお嬢様)

と、執事を立ち止まらせた。そして


((貴方の覚悟 期待してるわ))

と、古語で伝えた。


「…」

執事はその眼を少し見開いたが、すぐに眼を細め


(御心のままに)

と、深く礼をした。


傍机に置かれたシャナの花瓶に咲く白百合(カサブランカ)

淑女の手を取り口付けた執事の肩に触り、その花芯を少し揺らしていた。




        ――了――










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