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その31  獅子の間

この物語もあと少し

如何だったでしょうか

宜しかったら、評価を頂ければ幸いです

中の宮 獅子の間


国王の執務室から続くこの部屋は、枢密院の閣僚らと国王が会議する際に使われる。


今日は、フェーベルト王子、カムル公爵、ローレイナ侯、アズーナ王、そして枢機卿議長のドロテア伯、宮司法庁官が(つど)った。


「以上が宮廷警察からの報告です。」

庁官が奏上を終えると、

「その署名は本物なのかね」

と、ドロテア伯が疑問を呈した。


「はい。筆跡、インク、紙質、全て王院の化学部にも依頼し確認しました。―メンディス殿下のものに間違いございません。」


仕事が速い。

何が何でも、この集いに間に合わせようとの意図が透ける。


「…後継第二位のお方にしては、甘い。」


真っ直ぐな気性のローレイナ侯爵は、少し上気した表情で

「その様な威嚇で公爵令嬢に圧力をおかけになられるとは」


「まあ、あの娘も勝気だがねえ。」

カムル公爵は割腹のよい体躯を揺らして髭を触りながら、

「次代の王なんて言われたら、この間抜け!とでも言い返す子が、白紙の抗議とは。あの子も大人になったねえ。」

と、我が娘の事を他人事のように頷いて言う。


(不味い)

ドロテア伯枢密院議長は、この場に自分が呼ばれた事の意図を感じて頭をフル回転させていた。


この部屋に入ってからの出来事。


まずローレイナ侯とカムル公爵の猿芝居のような和解。

互いに謝罪し互いの娘を称え合い、更には王子を巻き込んで、王子への謝罪を幾たびも繰り広げた。


そして陛下に対しては、王子が謝罪した。

自分の振る舞いで、皆に迷惑をかけたと。

自分を貶めたい者に、隙を与え、公爵家、侯爵家の双方にご迷惑をかけたと。


王子にまとめられてしまっては、口出しができなくなってしまう。その王子の不甲斐なさを揶揄(やゆ)しようとしても


馬鹿王子が馬鹿な証拠を残してしまった。


春の間から届けられた2つの手紙が流れを作って


見回してみれば、宮妃派は我が身1人という絵面となっている事に気付いた。


ドロテア伯にとって、フェーベルト殿下は目の上のコブだ。

王国の開発を推奨する王子は、先頭に立ちたがる。

しかし

枢密院はそうはいかない。

互いの利権と考え方を勘案し、合意案に持ち込む必要がある。中には場当たり的な損得で物申す輩もいるが、不満を残せば遺恨を残す。

残せば将来の国策に響くのだ。


この王子は賢いが、そういった人間関係を無視して純粋理論で押してくる。それは専横に繋がるとドロテアは思ってしまう。


だから、第2王子についた。

彼ならば、傀儡(かいらい)として飾っておけばよいからだ。

宮妃にしても、権力は好むが実務は避ける。都合の良い神輿だったのだ。


だった。


そう。既に2人は過去の人物と、今なった。


「陛下にあらせられましては、如何お考えになられますか」


ドロテアは、震える手を押さえながら、王座の国王に委ねた。


アズーナ王。

先代は武功の名高い逞しい御方だったが、この(よわい)55にならんとする王は飄々(ひょうひょう)としていて、読めない。

王子ほどではないが、馬鹿ではない。

春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)にして秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)。背反する二つの顔を持つこの王にかかると、枢密院の決議にも関わらず、よくよく鑑みると王家の御心のまま、という流れとなるのだ。


「うーん。そうは言ってもね」

ゆったりとした口調は、弟の公爵に似ている。


「私の息子は2人しかおらぬからなあ。フェーベルトとバルディス。…他におったかな?」

二本の指を立てる国王に、その場の皆が凍った。



メンディスは存在しなく()()()



「どちらも大事な後継者だから、この際バルディスもこの王宮でしつけようと考えておる。歳若く病弱なれど、母の乳はもういらぬ。その母も」


ふう、と、王は大仰に溜息をついて


「病気だ。療養が必要だろうな。離宮で静養なさるがよかろう。シャナ国王からお預かりした大切な妃なれば、宮家などの公務などなさらず、ゆっくりと治してもらうことにしよう。」


そういって、にっこりと一同を見回した。


事実上の廃嫡と

廃宮。

ついにはロゼリナも切った…


「……御意」

「御心のままに」


王子以外は、冷気の中で、硬い声をようやく出した。


「フェーベルト」

「はい。陛下。」

鋭い瞳を前髪で隠して、この王子も表情が読めない。


「ムシュカを嫁がせるのは、やめようね」

「え」

「あの子より美しく淑女らしい娘がいるではないか。」

「…陛下、そ、れは」


流石の寡黙王子も、気色ばんだ。

…アゼリア




「何馬鹿な事考えておる。」

王はくっくっと喉で笑って

「シャナにはアズーナの血を入れたい。しかしそれは王女でなくともよいではないか。公爵」


「は、い。陛下。」


「ジャーメインは紛う事なき朕の姪御。王家の血をシャナにもたらす。なあ、公爵」

「……」

「どうせ、外国に逃すつもりであったのだろう?」

「ですが、それは」

「…疵のついた姫だ。あの子にはついて回る。だが」

国王は、にっこりと

「あれだけの姫だ。シャナの妃となれば、アズーナに良き絆となるだろう。王家の血筋に変わりはない。いや、お前の娘だ。先方には過分な姫よ、なあ弟よ。」


「兄上。」


過分なお計らい、と語尾まで言えず公爵が頭を下げる。


これでジャーメインの名誉は復活した。



「畏れながら父上」

王子が口を挟む。

「ムシュカにご不満が?」

そうではないよ、と王が応える。


「この国は男子継承。しかし何時なんどき息子を失うかわからぬ。」


今日のようにな。


「直系だけで王家を栄えさせる事は至難。西の宮を廃した今、あの子の成人を待って、女宮を創設しようと思うのだ。」

「なんと」

「ムシュカは第1王女。後の姫は然るべき筋に嫁がせる。あの子は王家に残す。婿は後々考えよう。」


女宮創設


「枢密院に異存はないな」

国王はドロテアに振る。

「あ、はっ。…陛下の御英断なれば」

慌てて議長は応える。


よしよし、王はうなずいて、

「ドロテア枢密院議長殿。

 この王子は賢いが一本気が過ぎる。また、バルディス王子は無垢なまま。王女に至っては、未だ公務を知らぬ身。王の統治は、枢密院を頭とする高位貴族の協力なくては良い方向に進まぬ。

今後とも、宜しく頼むぞ」



  お前に(とが)はない。

  宮妃に良くしたように

  王妃筋に尽せよ


「か、過分なお言葉!」

ドロテアは王の声なき声を受け取って、急いで答えた。


―この王が健在である限り、

わしは頭が上がらない―


「しかしねえ」


王はおどけた調子で侯爵と公爵に声をかけた。

「第1王子はどれだけ侯爵令嬢を慕っているのだろうね。さっきの見た?ローレイナ。一瞬こいつの殺気が刺さってきたよ。アゼリアちゃんはウチの嫁。どこにもやらないのにねえ―」


わはは!と破顔する王に、父上っ!と、真っ赤な顔の王子が噛みつく。

公爵も春の笑顔で眺めている。



国王はまだまだ健在

あと30年は統治するであろう


ドロテアは考える


この王子は王太子の時期が長い。その地位のまま、様々な公務に着手する。その時に


自分はどんな立ち位置か

どんな位置をいただけるか


後見せよ、と王は言うのだ。


(長い付き合いとなればよいが)


墨書する国王は、鼻歌でも出そうな表情だった。

その書には


メンディス・エリ・ド・アズーナ

廃嫡 

ロゼリナ・シャナ・ド・アズーナ

北の離宮にて蟄居


第12代アズーナ国王


と、あった。



王は晩婚 しかも中々子宝に恵まれず。

出来たら、パタパタっと出来ちゃった♫

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