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その29 2つの手紙

「……これは息子に届いた手紙。…公爵家の透かし紋章が入っている。」


ロゼリナは指に挟んでひらひらと揺らす。

王妃の大きな目がきろりと動く。

しかし、公爵令嬢は何も言わず固い蕾の様に口をつぐんでいる。


「美しいサインだの。カムルの姫。日付は、お茶会対決とやらの日と。律儀な者よ。愚かに証拠を残したな。」

そして封筒から中身を取り出した。


(メンディスへの返答ね。)

白百合同盟を結んだ時にジャーメインが打ち明けた、唯一の彼女の疵。

王子の策略に乗る、と、返答した手紙がある、と。


無論ジャーメインの手中にも、王子の手紙がある。告発状の手回しや、ミーヤへの脅迫など、物証はない。唯一あるのが、この2つの手紙なのだ。


メンディスの手紙には

  先の提案

  再度ご検討を

と、あった。


ジャーメインが結託していたとしても、首謀者は彼だと主張はできる。

しかし、

(どうとでも読めてしまう。)


サロンの演目の事だよ

とも、

ドレスの助言だ

とも、

何とでも受け取れる。


(…貴女は何と?)

ムシュカの問いに、ジャーメインは過去の自分を殴りたい気分になった。


(…踏み込んだ内容、とまでしか言えないわ。悔しくて。)

(そう。)

考え込む王女に申し訳ない気持ちになるが、そこは勝気な彼女の事。ぷいと横を向いて何かを我慢していた…。


 

 わたくしに女神を見せて下さるなら。

 これ以上の恥辱を受けるなら、

 地獄に落ちますわ。

 どんな手を使っても

 あの小娘に勝つ

 貴方の懸想する小娘が

 貴方にすがるしか無いようにしてあげる。


(必死よね。わたくしも)


内容が露見しても、仕掛けたのも持ちかけたのも、王子だと言い張れるかどうかは微妙な表現だ。

と、言うより手元に王子の(ふみ)が無かったら、首謀者は自分だとも読めてしまう。


そこは何事にも後塵を記すことをよしとしない性格が災いした。


「…さて、妃殿下。これで我が息子可愛さに(たばか)っているのでは無いと証明出来ましょう。」

(ああ!)

(……)

(っ―)


それぞれの胸に、それぞれの言葉が浮かんで、無音の室内は、呼吸すらやんだように空気が止まった。


女官が捧げた盆から、王妃が折りたたんだ紙を取り

開いた。


  墜ちる…


王妃は、再びその目を見開き、

ふ、と息を1つ吐いて、宮妃に向き直った。


「ロゼリナ殿」

王妃は紙を立てて

「――何も、書いて、ございませんが。」

と、告げた。


「なっ!」

「何っ!」


ガタッと宮妃が王座から腰を浮かし、噛み付かんばかりに、王妃の手から手紙を奪い取った。


そして

(…な、ぜ?)

 メンディスは読み上げてくれた!

 わたくしも、見た!

 何故

 すり替えた?ありえぬ!

 この手紙はわたくしの文箱に入っていたのだ!


 宮妃はカサカサと震える手で紙を見つめる。


 確かに公爵家の証がある便箋である。しかし、折りたたんだ跡以外は何一つ汚れてはいない。

 真っ白―。



ロゼリナの瞳は緑の焔がともった。

かっ、と、ムシュカを見遣り

 「おのれ(はか)ったな!昨夜から小賢しい女狐め!」

と呻くような呪いを吐いた。


「…それは、どの姫に仰っているの?宮妃殿下。」

と、王妃の冷たい声が刺した。


「わたくしの娘であれば、貴女同様、子供の喧嘩にわたくしが受けますわよ。」

「……。」


「夫の弟君、公爵家の姫であれば」

「いえ、義伯母様。自分で(みそぎ)をいたします。」


ジャーメインが立ち上がって、胸元に薔薇の香りがする手紙を捧げた。

それを王妃に(ひざまず)いて自ら手渡す。


「獅子の紋章…王家直系の紋章。」


(しま、った)

宮妃が慌てる。

メンディス!お前は何と愚かな!


「中を改めても?」

「お願いいたします。」


カサリと開いた王妃は、平板な筆跡の簡潔な文字を眺めて

ふうむ、と芝居がかった困惑を(おもて)に出した。

「どういうことでございましょう。ここには、メンディス王子殿下の署名がありますわ。そして」


  私の謀略に乗れば

  貴女を勝たせてあげよう。

  先の提案

  再度 ご検討を

  私が全てやってあげる

  貴女は堂々と戦えばよい

  私の謀略に眼をつむれ

  

(え……?)

ジャーメインは王妃の声に驚いたが、かろうじて表情は変えなかった。


「はっきりと自分の策だと。自分がやると。…踊らされたのは公爵家の姫だったのですね。」

「そんな!息子は」

宮妃は手紙を奪おうとした。筆跡を確かめなくては!


す、と王妃ははぐらかして

「…残念ながら、この手紙は大事な証拠。見たところ紙は王家直系の私物。筆跡は初めから最後まで一貫している。…鑑定は必要だが、最後に」

トン、と末尾を弾き

「流麗にサインをしている貴女の息子は、限りなく黒い。」


そこには

 

 次代の王

  メンディス


と、記されていた。


(そんな、え、…まさか)

頭を下げたまま、ジャーメインは背後に意識の全てを注いでいた。


背後に座る、ムシュカ第一王女


彼女の陰謀だと言うことか…



ごめんなさい。まだお付き合いください。


このお話が終わったら、ジャーメインの物語を始める予定です。この子、所謂悪役令嬢よね。

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