その27 論点整理
ごめんなさい。
終われませんでした。
我慢なさって
王宮への馬車には、王女とジャーメイン、アゼリアの3人が乗った。
ロスは侍従達と共に別の馬車である。
「……要は、メンディスに、或いはロゼリナに、誰が入れ知恵したのかということよ。」
扉が閉まるなり、ムシュカは切り出した。
白百合同盟は、ようやく論点整理を行い始めた。昨夜から、3人ともベットに伏した時間は短い。
ムシュカは、今日の準備
ジャーメインは、公爵家での家族会議
アゼリアは、フェーベルト派の賛辞と見舞い客への礼
それぞれが、闘いの始末に向き合っていた。
闘い。
昨夜の成り行きの殆どが、3人のシナリオである事を知る者は殆どいない。
ドレスの件
ミーヤの裏切り
赤毛の女
ボウガン
そして
クレアの協力
全ては、メンディス王子を自滅させるための画策。
ムシュカは決めたのだ。
この機会に、バランスを覆す。
2人の王子と3人の王女。ロゼリナ妃が我が母より王宮で権勢を振るっており、王太子となるフェーベルトをも凌いでいる現状を変える。
そのフェーベルトも、先の正妃の息子であり、2人の妃の勢力の中で浮いた存在だ。
フェーベルトを推すローレイナ侯爵、父の弟のカムル公爵、そのどちらともを王妃派に組みさせるには、両家の愛娘をムシュカが救うという絵面が必要だったのだ。
ムシュカの狙いは、メンディスごときではなく、ロゼリナにあった。
「……ミーヤの弟は、王宮の下男だったのね。弟を盾に裏切れと脅された……」
「そう。見目麗しい子だったようよ。どこに働いていたかはわかるでしょう?」
美しい男の子を侍らせる場所など、王宮には1つしかない。
西の宮。
ロゼリナ宮城。
「ミーヤは」
「すでに王都から出したわ。
お母様の里の領地に管理官が常駐しているの。その館で2人とも。」
「そう。では宮廷警察の聴取は終わっているのね。」
「この件はスピードが肝心だから。」
可愛い子だったのに。アゼリアがそっと呟く。
馬車は緩やかに貴院の敷地を出る。
「ボウガンには驚いたわ。
クレアの腕を狙う手筈だったのね。大した度胸だわ、赤毛もクレア様も。」
アゼリアが嘆息する。
クレアが協力する事など聞いていなかった。無論ボウガンも。
女はメンディスの為に動く、という立ち位置であの場に潜んだ。凶器は最悪の場合、ジャーメインに向けられる事になっていたそうだ。
ムシュカが雇い直さなければ。
「ボウガンの狂言はうまくやってくれたわ。実際にクレア様が的になって下さって。」
クレアの凛々しい姿を思い出したのか、王女は、ふっとため息交じりの笑みを浮かべる。
「あれは痕になるわよ。クレア様には感服したわ」
ジャーメインが口を挟む。
赤毛は既に隠密が調べ上げ、ムシュカが駆け引きしたのだ。
いずれメンディスはお前を切る。
逃げ道を私が作ってあげよう。
そのかわり、狂言に付け合え。
金で売ったと一芝居。
そこで、真実を告げればいい。
私が腕輪を授ける。
腕輪を見たら、兄を指せばよい。
その場は私の護衛が
お前を捉えた程で守ろう
金と安全
それを与えられるのは誰か
分かるな?
「…鍛えているから、とニコニコしてらしたわ。兄上は凄いお友達をお持ちね。文武両道、眉目秀麗。クレア様はあの捕物より、御令嬢たちの申し込みに疲れ果てた、と。」
クスクスと王女が笑うと、アゼリアがむっとして、
「……お姉様は、わたくしの親友よ。お泊りしたこともおありなんだから。」
と、無邪気な嫉妬をする。
「そうね。それをちゃんと調べなかったあちらの愚かさと、わたくしの愚かさだわ。」
ジャーメインが少し寂しげに言う。
公爵家はジャーメインを許さなかった。王家が卒業まで、となした裁可だが、争い事を好まない父は、娘を外国に逃すつもりでいる。
やっと出会った好敵手と、聡明な従姉妹。会えなくなるのが寂しいわ…
様子を察した2人は、公爵令嬢から眼をそらした。
「…兎も角。赤毛は既に出国したわ。宮妃も手が出ないでしょう。」
「と、すれば。宮妃は誰を羊にするのかしら。」
「そもそも。学院の顛末を知っている者が裏切ったのよね。」
「そう。フェーベルト様の侍従か警護の中の誰か。」
「又はその者と近しく、かつロゼリナに通じている者。」
王子に近い人物。言わずもがなの了解に、3人は頷く。
「さて、向かう先で、どう立ち向かうか、ね。」
すでに王宮には、2人の妃が待機しているはず。
そして国王と王子に公爵、侯爵の両者が
謁見している。
女の闘い
男の闘い
「もうすぐ王宮よ」
王宮の正門が近づいてきた……
次回 王宮 中の宮にて





