その26 真実
「どなたからの情報でしょう。…告発状を持ち込んだ方と思ってよろしいのですか。」
「……。」
「会長」
ロスは、うつむき加減になって悩んでいた。
どちらの側につけばよいかは、自明のこと。けれども、踏みつける相手が相手だけに、その復讐も恐怖である。進めば、裏切り者の烙印と報復が待っている。しかしこの場ではぐらかしたり偽りを述べたりすれば、王女の鉄槌が待っている。
どちらにしても、地獄。
どちらがましか、という地獄。
「わたくしが父王から賜った王命は、まだ生きております。
昨夜のメイド同様、父王の名のもとに、貴方の回復を保証しましょう。
ただし。
真実をおっしゃれば、に限りますが。」
会長は、目を見開いた。
本気だ。
王女は本気で、王家の均衡を破る気でいる。
いいのか。いいのかムシュカ王女。
「告発状を持ち込んだのは……。」
「メンディス王子ですね?」
「……っ、そうです。」
し、ん、と室内は凍り付いた。
王子は、今日も、断罪されるのか……。
「成程。王子であれば、貴方は否とは言えなかった。
わかります。
しかしながら、その肯定は、兄、フェーベルト王子と、未来の王太子妃アゼリア嬢を愚弄し、その名誉を傷つけた。直系王家に対する裏切り行為であることはお分かりですね。」
「は、い。十分分かっております。」
王家の争いに巻き込まれた男は、うなだれて怯えるウサギのようだ。
これで、私は、第2王子を売ったのか…。
「あの日、私は会長室で一人執務をしていた。
そこに護衛もつけずに入っていらしたのが、メンディス殿下だった。
手にした告発状を渡され、そして、彼のシナリオを聞かされた。」
私は、兄上の陰謀を阻止するつもりだ。
ローレイナ嬢が退学となれば、その身分は剥奪され、
兄の名誉は落ちる。
私は、これを好機ととらえている。
兄が、婚約者に身びいきして、成してはならないことを
隠蔽したのであれば、
身内の私が、糾弾するほかはない。
しかし、私が表立てば、王家を二分した争いとなる。
そこで、私はこの告発状を無記名で君に委ねよう。
君は受理し、掲示板にさらしてくれ。
その後は、公爵令嬢にご判断いただこう。
彼女は貴院の最有力者。彼女が動けば貴院は動く。
そして、わたしが援助する。
アゼリア嬢に恥をかかせ、皆に証明するのだ。
そうすれば、生徒会は生徒を糺す正義を貫いたことになる。
侯爵家の失墜とともに、私という存在が浮き上がる…
「その時がきたら、私の参謀に、君を迎えよう。そんな口約束にほだされて、よくも調べずに信用してしまった!私の愚かさをどうか、裁いてください!」
ロス会長は身を裂くような悲しい叫びを発した。
「よく分かりました。
貴方の欲が、目を曇らせましたね。
もう少しこの件を寝かせておけばよかったのに。」
「そうだ!」
バルザックが立ち上がる。
「1年 ナレック・バルザックであります!発言の許可を!」
「許可します」
よしっ!と、椅子に片脚をかけて、筋肉男は不敵な笑みを浮かべる。
「ガカロ・ボラリナも、私も、ローレイナ嬢とヴァレリオーズ嬢が誤解を解き和解した場に立ち会っている!双方に非はないと、王子と学院の校長・副校長が証明したのだ!
彼女、アゼリア嬢は、王子との絆を確かめ、お妃教育に力を入れるため、この貴院に転校したのだ!」
バルザックは熱く語る。アゼリアはぽっと頬を赤らめる。
それを見たバルザックは、ますます張り切って、
「皆も承知の通り、この国最難関の学び舎だ。
学問に専念しては、お妃教育がおろそかになってしまう。
さらに言えば!
王子が麗しの婚約者にかまけてしまっては、学業がおろそかになってしまわれると危惧されたのだ!王子はあー見えて、アゼリア嬢にメロメロのデレデレなのだ!
ああ!なんと愛されていることか!」
恥ずかしいから、やめて、というアゼリアの声はすでにバルザックには届かない。
スイッチが入ってしまっている。
「俺は、姫を守るために、ともに転校した!
王子から預かった姫をお助けできなかったのは、旅で離れていたとはいえ、自分がふがいない!」
バルザック劇場は、まだ続く。
「そして皆も見たであろう!
確執があると言われたクレア嬢とアゼリア嬢の仲の良さ!」
夜会でクレアに魅了された者たちは、麗しい二人の「顎クイ」を思い出して、ぽおっとした。
クレア様……。
「危険なほどに麗しく、危険なほどにアゼリア嬢を慕っておる!
そんな危険人物がいる学院から転校させたかった王子の心根を
男たちは、容易に理解できよう!!」
おお~~~~!
本当に恥ずかしいから、おやめくださいまし!と、アゼリアが顔を覆ってしまったので、ムシュカは頃合いとみて、発言した。
「……つまり、貴方やガカロ・ボラリナに確認がとれれば、あの生徒総会はなかったということね。……これは、生徒会にとって大きな不始末です。」
ムシュカは皆に宣言する。
「我々は、まずロス会長の企てに関し、ロス会長の解任を要求します!
皆の決議を!」
異議なし!異議なし!異議なし!
ロスががっくりと肩を落とす。しかし、これで糾弾が終わることに安堵している風でもあった。生徒会長をおろされる…それは、成人後の貴族社会でもついて回るだろう。
この先、ロスが出世することは、まずない。
「そして、現生徒会役員全員の解任を!」
ムシュカが告げると、役員たちがぎょっとした。
「ふ、副会長!」
「我々も、ですか?」
不安げな声をムシュカは無視した。
「我々生徒会は、会長の暴走を止められませんでした。ローレイナ家とフェーベルト殿下のお怒りを鎮めるには、責任ある者がその責を負わなくてはなりません。
よって!生徒会役員は解散します!」
ざわつく講堂からムシュカは、護衛にロスを任せ、共に通路に進む。
「ロス。貴方には今一度、王室警察にて、証言をしてもらいます。
ローレイナ嬢、ジャーメイン嬢も共にお願いいたします。」
第2王子を追い込む。
そして、ロゼリナ派を崩す。
この一件がメンディスのみの企みとは思えない。
あぶり出してやるわ。
兄の後ろ盾を
その潔さと王女の威圧に、
ムシュカ様!
ムシュカ様!
ざざっと男子は臣下の礼を
女子は淑女の礼とる。
「アリッサム伯爵子息。選挙管理委員長に後を任せます。では。」
臨時総会の終了と共に、選挙の始まりをアリッサムに任せ、王女は退室する。
その後をアゼリアとジャーメインも続いて退室した。
行先は
王宮である。
バルザック君が出てくると軽いコメディに戻ってしまいます。
次回最終回、かな?





