その1 告発状
おしゃれ番長アゼリアの「ざまあ小説」の始まりです。
旅においてけぼりをくらった彼女を大変な事件が襲っていました。
がんばれ、アゼリア!
新しくお読みいただく方にも、世界観をおわかりいただけるよう書こうと努めますので、どうぞおつきあい下さい。2日3日ペースで更新しますので、よろしくお願いします。ブックマークいただけると、何よりです。
「ローレイナ嬢!
貴女の醜聞は、この貴院にあるまじき内容!
我々は、ここに貴女の退学を奨める。
生徒総会の審議を元に!」
侯爵令嬢の断罪が、今始まる…
一昨日
アゼリアは、ちょっぴりおかんむりだった。
いつもなら待ち合わせして蒸気自動車に同乗する、ガカロとバルザックが欠席しているからだ。
(それも、王子と視察旅行だなんて!)
フェーベルト王子は、アゼリアの婚約者である。王子は王院学院、通称「学院」の生徒で、学院は今、秋休みである。
アゼリアの通う貴族学院、通称「貴院」は、三学期制で秋休みなどない。にもかかわらず彼らは呑気に視察に旅立った。淑女が婚前に同伴するわけにもいかず、アゼリアはおいてけぼりである。
アゼリア・アズ・ローレイナ侯爵令嬢。貴族学院中等部1年。
フェーベルト第一王子の婚約者にして、王国一の美少女と言われる美貌を誇る。
自身の研鑽によって、文化流行の先端をゆくおしゃれ番長。
今年の社交界デビューでは、一躍「黄金の百合姫」と称賛された。
訳あって、学院から6月に貴院に転校したが、ここでもアゼリアは人気者である。その華やかなたたずまい、一流の社交術、驕らず誰にでも人懐こい性格、素直で明るいその言動に、男女そして教師達も惹かれている。
中でもガカロとバルザックは、アゼリアの転校に付いてきた折り紙付きのアゼリア贔屓である。バルザックは未来の騎士団長、ガカロは神官という将来のためには、学術優先の学院より、こちらに在籍する方が順当であるのだが。
(まあ、よしとしましょう。わたくしも女友達と楽しむことにいたしましょう)
秋晴れの中、貴院へと運転手は車を走らせる。お茶の時間に秋の果物や木の実のタルトはいかがかしら…そんなことを考えて、少し気持ちが晴れた。
この時は。
登校し、そして、事件は起こる…
貴院の門をくぐったとたん、ざわ、という空気がアゼリアを取り巻いた。
いつもなら、ごきげんよう、の挨拶の声がかかる場面で、ひそひそとこちらを見る生徒たちが、アゼリアの視線を避けて通り過ぎる。
(…?)
いぶかしんで、それでも朗らかに挨拶をし、返ってこない挨拶に首をひねりながら教室に入った。お友達が駆け寄ってくる。
「あ、アゼリア様、ごきげんよう…大丈夫?」
「無礼極まりないわ!私達、わかっていますわ!」
何事だろう。
自分に何かが起きたことだけ、アゼリアは理解したが。
「ごきげんよう。…何が起こりましたの?」
まあ!と大仰に驚く友達が、きょとんとしたアゼリアに告げる。
「掲示板ですわ!アゼリア様の酷い悪口が。」
「分かっています。わたくし達、貴女のお味方ですわ。」
悪口?何?
生徒会室入口の横に、学生用の掲示板がある。
そこは人だかりができていた。
(まさか)(あの百合姫が)
(本当ならとんでもない事だぞ)
(馬鹿。侯爵令嬢がそんな)
(侯爵だから、こんな真似ができたのでは?)
…わたくしの、こと?
「あ、ローレイナ嬢!」
ざわ!と人だかりがアゼリアを避けて退く。
…何なの?
掲示板に近づくと、一枚の紙が貼られていた。
え?
【告発状】
アゼリア・アズ・ローレイナは愚かな女
王子の婚約者など務まらない 偽りの淑女である。
彼女は、王立学院で単位が足らずに落第した。
さらには、伯爵令嬢に嫌疑をかけて貶 めようとした。
第一王子が怒り、彼女を放校した。
貴族学院に、ごり押しで転校し、上品にふるまっているが
中身は上記のような、汚い程度の悪い令嬢である。
このような愚かで権威をかさにきた振る舞いを貴族学院は許すのか!
われわれは、彼女の退学を請求する。
貴族学院を愛する者より
(う…そ。)
彼女は掲示板の前で手で口をおおい、がたがたと震え出した。
(あの日のことは、誰も知らないはず!
王子やせんせいが、漏らすはずもないわ。
一体…)
「アゼリア様、こんなもので貴女の瞳を汚すことはございませんわ」
「そうですわ。根も葉もないたわごと!下手人をあぶりだしましょう!」
蒼白になった彼女をお友達が励ます、が、彼女は震えをとめることができず、涙をそのベリルの瞳に溜めている。
(事実では、事実では、ない。
けれど、偽りでも、ない。
誰?誰が書いたの?)
「あら、そのご本人だわ。ちょうどよかった、アゼリア嬢ごきげんよう。」
ざわざわとする中、えんじ色の制服が彼女らの前に立つ。
白い指で金の巻き毛を後ろにはらい、皮肉な微笑みを浮かべた美しい女生徒。
2年生のジャーメイン・エリ・ド・カムル公爵令嬢である。
この貴族学院の女王、貴院の華、と称される有力者。
アゼリアもお友達も丁寧に会釈をする。
「今、この告発状について、生徒会に申し出たところよ。」
「カムル様、このような戯言、真実ではございません。」
「どうか彼女のために、釈明していただけませんか。」
気のいい友人たちは、口々に公爵令嬢に乞う。
カムル嬢はにっこりとして、
「よろしくてよ。この告発が事実がどうか、生徒総会で審議していただきましょ。」
「え」
審議?
周囲の生徒たちが、さらにざわつく。
「生徒、総会。」
アゼリアがか細い声で繰り返す。
「お嫌なら、ご退学を」
「…なんて、ことを!」
「ひどい。侯爵令嬢を晒し者になさる気ですの?」
「あら」
カムル嬢は、ほほ、と口元を隠して笑う。
「このようにすでに晒されているではありませんか。事実と異なるとおっしゃるなら、生徒総会で潔白を証明されることね。」
「-そんな。どうやって」
「お考えになることね。証人をお連れするなり、あちらでの成績表をお出しするなり、打つ手はございましょ?…ま、明後日までにそれが整うかどうか、ですけれど。」
(なぜ?なぜこの方は、わたくしを貶めるの?)
アゼリアは混乱する。
証人…パトロもバルザックも、旅行で不在なのに!
成績表など、6月に転出したアゼリアの手元に、あるはずがない。
貴院の成績では、皆は納得しないだろう。
なんといっても、皆は最難関の学院での成績が知りたいのだ。
(打つ手が…ない)
「では、総会で。後ほど生徒会から召喚状が届くことでしょう。」
「カムル様…なぜ貴女はわたくしを…」
「わたくしは、単に騒動を納める手立てをとったまで。
楽しみだわ。貴女が皆の前で、そのお力を発揮されるのを」
おほほ…と笑いながら、貴院の華は去っていく。
「なんという…あ、アゼリア様!」
とさ、
と、軽い床の音
彼女は床に倒れる。
お友達の悲鳴とともに、男子生徒が(担架を)と叫ぶ声が響く。
11月1日
アゼリアが15歳になる一週間前の出来事であった。
前作 いじめ対応マニュアル
を 引きずった展開となっております。
もしおひまがあったら、拙い作品ですが
そちらも読んでいただければ。
でも、こちらだけでも楽しめるように努めます!