身体を温めよう
お風呂回
「どうだカイル」
息子は水面をちょんちょんと突いた後、手を軽く湯船に入れちゃぷちゃぷと揺らす。
「大丈夫そう! あ、でも父さんが寒くならない……?」
息子が心配そうに俺を見上げる。
「大丈夫だ、俺は魔法で熱の出入りくらいどうにかなる」
俺はシャワーも同じ温度にして息子の体に当てていく。
「少しずつ温度を上げていくから、熱かったら言うんだぞ」
「うん、父さん」
息子を椅子に座らせ、背中を洗い流しながら、皮膚の強度に問題がないかを確認する。多少栄養失調由来のやつれが気になるが、背面の皮膚は問題なさそうだ。
俺は正面に回る。
「あ、え、と……父さん?」
「洗い流すついでに皮膚の具合を確認したくてな。特に、腹部と……」
「……」
息子は、股を閉じて、顔を青くする。ちゃんと青くなるくらいには平時の顔の血色が良くなってきたということだ。
──あの錬金術師の理屈は分かる。
種類にもよるが、魔獣の肝や睾丸が高級な材料になるのだから、人間の若い肝や睾丸だって良い材料になる。
俺は優しいので、錬金術師を同じ目に遭わせたりなどしていない。それでは死んでしまうからな。それに治癒魔法は最も研究した分野の一つだ。一応はそれなりに心得がある。
5回潰して4.5回治癒してやった。
なに、2つあるものは片方だけでも人生なんとかなる。
それよりも、スクロール任せにした息子の肉体構成復元がきちんと出来ているかのほうがずっと心配だ。
可能な限り触診と魔力探知で精密に確認したい。
だが、おそらく息子は生きたまま、意識があるまま……捌かれた。
あれは、そういう鮮度だった。
その恐怖と苦痛を受けて、心が無事なわけがない。
「カイル、無理はしなくていいからな」
なるべく優しい声を出す。
「……大丈夫……父さん」
◇
俺は息子の肋骨を一本一本を丁寧になぞり、切断され、結合されたはずの部分が問題ないかを確認する。
「……」
鳩尾から下にかけては、大きく開腹されていたので丹念に触れる。変によったり癒着したりしていないか確認していく。
鼠径部と臍、下腹部へと移る。
恐怖と気恥ずかしさでか、息子は目を瞑っていた。
「っ……」
僅かに生えた、まだ薄く柔らかな部分を越え、切り取られていた境界を中心に指を沿わせる。指を動かす度に、息子の一度は切り取られたそこがぴくり、と反応を示す。正常な反応だ。いや、本当に正常なのか……?
「ぁ、ぅ……」
会陰部から再び正面へ戻ったら、内腿の主要な血管の状態も確認する。
……どうやら問題無さそうだ。
「よし、接合については大丈夫そうだな」
「あ、ありがと……」
シャワーでもう一度息子の身体全体をすすぐ。
俺は、少々逡巡したあと、決心を決めて尋ねることにした。
「カイルは……もう精通しているのか?」
息子のそこは、アンデッドの定義とは一体何なのだろうかと考えさせられるほどに、年頃の男子らしく元気に立ち上がっている。
「……」
しかし息子は、羞恥というよりも僅かに暗い表情をみせて、こくりと小さく頷いた。
「俺はこの後この小屋の外で少し作業するから、その間に……確かめてくれるか……?」
アンデッド化して息子の造精機能がどうなっているのか、正直全く予想もつかない。真っ当に子が成せるのか、可能なら精子の機能を確認する必要がある。
「……父さん」
「どうした……」
息子は、泣きそうな顔をしている。
小さく口を開けたまま、言葉の続きを、もしかしたら取り返しのつかなくなる言葉の続きを、出そうか出すまいかを決心できずにいる。
俺は、あまり考えないようにしていた可能性を、思わず口に出してしまった。
「……あの男に、何かされていたのか……?」
「……」
ぽろぽろと、翡翠色の息子の瞳から涙が溢れて、シャワーの水滴と溶け合っていく。
◇
「……あのとき……あの怖い人に、身体の中を切り開かれて、切り離されて、抜き取られて、死んじゃったとき……俺……うれしかったんだ」
息子と共に湯船に浸かり、俺は息子の好きなように吐き出したいことを話させた。
「今までなんにもいいことなくて、気がついた時から毎日、毎晩……いろんな大人の相手させられて。
だから、痛くて辛くて堪らなかったけど、あの人に俺の中身が取り出される度に、俺の中のあいつの血が、汚されたものが俺から無くなっていく気がして。
それで、やっと終わるんだって……だから、うれしかった。少なくとも、現世の俺は、そう感じてた……
父さんには、言いにくかったんだけど……」
「そうか……」
「ごめん……父さん」
「いいんだ……辛かっただろ。いくらでも話しなさい」
助けることができなかった俺は、その惨状を受け止める義務があるだろう。
それにしても、この世界は息子を傷つけ過ぎではないだろうか? 星を作り変える魔術を研究しておけばよかった。今後の研究テーマにしよう。
「だから……こんなの、おかしいだって、分かってるんだけど……俺、父さんに……て、てつ、だって、欲しく……て」
「……俺でいいのか?」
「父さんが、いい……」
「ふむ、女になったほうがいいか?」
「へっ!?」
息子は俺のセリフが予想外だったのか、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔をこちらに向けて、腫らした瞼を見開いている。
ちょっと骨格と皮膚と脂肪と筋肉を弄って、生殖器の位置を調整してやるだけだ。流石に子供を儲けることはできないが、好きなだけ吐き出させる分には問題ない。
それで息子のトラウマを和らげられるなら容易いものである。
「……俺、男の相手させられてて、だから、その、なか、を…………」
「そうか……」
息子が顔を俯ける。
「こんな、息子になって……ごめッ?!」
俺は、息子の、カイルの唇を塞いで、それ以上の言葉を奪った。
流石の優しい俺も、それを聞いたら、この辺の国を二日程で砂漠か魔獣の森か湖に変えてしまう自信がある。少なくとも息子を傷つけた奴らの股間はどのみちこの世界から消し去らなければ……
「ん、んんっ……んんッ!」
更に息子の口を舌で押し広げて、口腔内を丁寧に舐めとっていく。精神的な穢れをだ。
前歯、犬歯、小臼歯、大臼歯、上顎歯肉と上唇小帯、下顎歯肉と下唇小帯、左右の頬粘膜、舌、舌小帯、硬口蓋、軟口蓋、そして口蓋垂と咽頭の後壁まで、己の舌を多少変形しつつ、全て舐めとった。
流石に息子も軟口蓋あたりから身体をビクビクと強張らせる。普通は舌が届かないだろうからな、驚くだろう。
だが、小柄な息子が咥えさせられてきたものは、届いていてもおかしくはない。
「ぷはっ……はぁ」
「はっ、ぅえッ、えほっげほっ……」
少々やり過ぎて咽させてしまった。
「すまん、大丈夫か?」
「う、うん。と、父さんすごいね……母さんがキスなら父さんに教えてもらいなさいって言ってた理由が分かったよ……」
「練習したければいくらでも付き合ってやる。勿論、そっちの方もだ」
すっかり温まった湯面からひょっこり顔を出している息子の元気な部分をちらりと見やって、人並みに顔を紅潮させた息子の頭を優しく撫でた。
これ以上は流石にあれなので、少しだけ時間が飛びます(朝チュン)