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アンデッド少年と脱落賢者の隠遁生活  作者: 鳥辺野ひとり
脱落賢者とアンデッド少年 Ⅱ
30/87

部品屋を始末しよう




 ──“部品屋”。


 それが奴のこの町での通り名だ。



 錬金術師コーマ・オーガン。



 錬金術の中でも生物を対象とした生体錬金術に傾倒し、生きたまま捌くことを得意とする。そうやって数多の命を部品にし、売り捌いて金にする。


 と言うか色々調べてはっきりと分かったが、コイツは生きているものを生きたまま解体することに興奮と快楽を覚えるタイプのクズ(変態野郎)だ。

 だからバラした後のものにはさして執着が無く、躊躇なく売り払ったり処分したりする。

 趣味の悪い合成獣(キメラ)で痕跡を消すぐらいの理性はあるが、まあそれも少しでも長く多くのモノを切り開きたいという欲によるものだ。



「もうよぉ、旦那ときたら勝手なんだ。せぇーっかく()()()()()を、たぁのしぃく()()()たってのに、いきなりもう止めろとか、また薄汚れた固ってぇ肉に戻れっつぅんだからよぁ。じゃもういいしって、俺だって趣味で勝手にやるわっつー話よ。仕事は仕事でちゃあんとやってんだからぁ、うだうだ文句言うなっつーの。ジジイの小言なんざ聞いててもアガんねえっての、なぁ?」

「ハハハ、ソイツぁ気の毒だな兄ちゃん。ホレ今日は奢りだ呑め呑め」


 とまぁ、姿を再び偽って近づけば、いとも容易く酒場で潰せる。


 それぐらいにコイツはこの町で()()()()()()存在。


 (バベドゥラー)からその身分が保証されているわけだ。

 そんでもって公式に錬金組合(ギルド)と薬師組合(ギルド)に高位術師として所属しているのだから、内部の腐り具合はお察しだな。さぞ多くの部品を融通しているのだろう。



 未成熟な臓器は事実として一部のイカれた連中には確かに珍重されるものの、現実には用途が少ない。何せ未成熟故に性能が低いからだ。

 そこだけで見るならピークは10代の終わりから20代少し位。例外としては免疫系──全身のリンパ節と胸腺、扁桃腺──は12、3歳頃に急峻な成長により成人のレベルを大きく上回るが、このことは寧ろ多くの術式において弊害になることが多い。

 なんせそういう素材を必要とする輩にとっては、いかに免疫を刺激せず、あるいは無力化し対象に馴染ませるかが課題なのだから。


 つまるところ、眼前のクソ野郎のストライクゾーンとやらは、微妙に需要からは外れているのだ。







 問題は、その普通はあまりあるはずのない需要が、どういうわけか最近まではあったということだ。

 どう考えても胸糞悪い予想しか立てられない。


 まず、あの時マール(カイル)を生きながらに臓器を引きずり出して殺したのが、奴の言う「趣味で勝手にやった」ことだ。

 では趣味が実益(仕事)も兼ねていたものとは?


 その一つが──ディルマーの()()


 いや、ディルマーだけではない。

 あの子の弟分だったルパーも、廃村と化した彼の村ハルグランに居たはずの人々も、か。そして成功した品種以外は全て教会が跡形も無く()()し、ディルマーだけが何度も肉体を再生させられては削ぎ落とされ続けていた。


 教会がグルになっている、というよりも、教会が雇い主であり主導となっていたのだろう。

 『安全に従魔化(テイム)しやすい屍食鬼化薬』製造計画、と言ったところか。神のお膝下でアンデッド研究とは、俺がディンブラ家の青年に口にした言い訳話が嘘ではなくなってしまった。


 でもって、その安定生産の目処が立つまで、コイツは教会からの依頼でディルマーから身体を削ぎ続けていた。


 このクズが欲望を満たせたわけだ。


 しかしそれも()()()()


 つまり、噂が広がるくらいには流通させられる程度に生産体制が整った、ということ。



 で、その用途。

 なんてことはない、簡単な答え。



 子供()遊びたい、上流階級向けの玩具だ。



 壊しても壊しても肉と魔力を与えれば再生させられる。魔術を扱えずとも単にそこそこの魔力を持つ者をそれなりの数集め、魔力供給路(パス)だけ専門の魔術師に組ませれば、維持も容易い。



 初期は実験体や培地として。そして完成してからは材料として。

 少なくとも10〜15歳の子供達が、この町の近隣で10年以上前からのべ142名行方不明になっている。外部からの捨て子、身売りなどで失踪届が出ていないものもあるはずだ。実態はもっと多いはず。

 無論、教会が運営している孤児院など、それこそまさに製造プラント。孤児院の記録上は病死、事故死となっている子。存在しない家の存在しない里親に引き取られたことになっている子。記録には無い薬師、魔術師、錬金術師の出入り。叩けば埃がいくらでも出てくる。


 それでも声を上げる者がいないのは、それ以上の数の成人もまた売り捌かれているから。目立たないのだこの町では。

 いや、それだけではないか。声を上げられるだけの者()、売り捌かれているからだろう。


 ようは親子共々……ということだ。




「やめッガア゛アアァァァアアアアアアッッッ!!!!!!!」

「ん? この前潰した玉といい、もしや誰かから移植したのか。生殖器の遺伝情報変換などは難しかろうに、よく出来たもんだな」


 まあ、潰すんだが。


 目には目を歯には歯を、というわけで、一通り脳から関係者の情報確認も取れた以上、もうコイツを生かす理由もない。


 取り敢えずディルマーと同じ目には遭ってもらう。あとマール(カイル)の分もだな。

 前は捕縛する依頼だったのもあり腹いせに何度か潰しただけだったが、今回はフルコースで味わってもらう。


 何、俺も生かす治すの技術には自信がある。しっかり堪能してもらおう。







 さて、件の孤児院だ。


 どうやらディルマーに感染していたものから更に品種改良が行われたらしく、感染時点での致死性と伝染性が無くなっていた。


 見つけたマニュアル曰く、予防接種などと銘打って事前に見込みのある子に打ち込み、注文に応じて肉体を調()()──好みの年頃に成長させる、太らせる、鍛えさせる、切る、拡げる、薬で感覚を弄る──。

 その後殺害、ゾンビ化させることで肉体の状態を固定する。ゾンビの再生は死亡時点が基準となるのを利用しているわけだ。

 通常は感染時点だが、この品種は致死性が無いため別の要因で死に至らせる必要があるが、それがより品質のコントロールしやすさに繋がる。そして、その過程自体もコンテンツとして提供できる、と。

 実に反吐が出る。


 今、俺の目の前にいる子達が、その“調整中”なのだろう。


 重要なのは、彼らは感染者(キャリア)だが、ゾンビではなくまだ生きているという点だ。

 つまり治療できる。彼らは間に合う。


 手足が無かろうが、穴だらけになっていようが、薬で脳や未成熟な性器が変質していようが、俺の完全回復薬(ホールポーション)で直ちに快癒させられるのだ。


 その後はバーノンのような、真っ当な町の真っ当な孤児院に移してやればいい。



 と言うわけで治療を済ませ、“調教師”も始末したので、このまま司教の元に向かうとする。


 “飼育屋”トーマス・ブレン・ゲーマンポーター司教。


 この計画の真の首謀者にして管理責任者。手を汚す部分を司祭以下に投げ、何時でも切り捨てられるようにしつつも、自身は甘い汁をすすり続ける外道。


 『遅滞の術』のお陰で、今夜中に最優先ターゲット全てを処理できそうだ。




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