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未知との遭遇 ~イルム星 異星省 交渉課 調査班 地球担当の調査記録~

作者: 雪沢 泉


クリスマスと何の関係も無いけど、息抜きに書いてみました。息抜きに読んでみて下さい











「現星人! 大人しくワタシの要求を飲め!」



茸が沢山取れると聞いて、日本の食べられる茸が載った図鑑と、バックパックを持って、車で遠出して山にやって来たのだが、茸の前に別の物を見つけてしまった。煙を上げながら地面に突き刺さっている、銀色に光る円盤と、ピッタリと肌にくっつく近未来的な服を着た女の子だった。


銀色の髪を靡かせて、意思の強そうな緑色の瞳で此方を睨み付けて、手に持った銃で此方を狙っている。


特徴的なのは、頭から生えた立派な二本の角と、首筋辺りにある鱗だろう。



「おい! なんとか言ったらどうだ!」


「………」



それにしても、彼女は運がいい(・・・・・・・)。何故なら、偶然にも俺に出会えたのだから。それにしても、彼女はさっきから、宇宙船の修理が出来る奴を呼べだの、燃料を寄越せだの、食料を寄越せだの………食料はともかく、地球の技術力じゃ宇宙船の修理も燃料も無理だから。


相も変わらず、ドラグニア人(・・・・・・)は勝手にも程がある。しかし、女の子でそれも成人したばかりのようだし、そこは幸いだろう。これで壮年の男なら面倒くさいことになる。


さて、ちょっと涙目になってるしそろそろ助けよう。



「地球始めてだろ?」


「は? あ、あぁ、地球というのか?」


「………大方、燃料補給に降りてきて、着陸に失敗したんだろ?」


「う! う、うるさい! いいから直せ!」


「はいはい。直してやるから静かにしろ、地球人は異星人を悪く見る時あるから、あまり姿を見せるな」


「なんだその言い方! まるでお前は━━━」


「この星の人間じゃない」



俺は帽子を取る。きっと、彼女には俺の尖った耳と色が常に変化する、頭頂部の髪の根元が見えているだろう。


俺はイルム星出身の、レレム人。この星の調査をやっているものだ。まぁ、彼女には関係無いと思うけどね。スタスタと彼女の宇宙船に近づき、ポケットガレージに収納する。彼女が何をした! とうるさいので、ポケットガレージを放って渡す。



「ほら行くぞ、これ羽織ってろ」


「なんだこれは?」


「フード付きのマント。ちゃんとフード被れよ、姿を見られたら面倒な事になるからな」


「別に見られてもいいだろう?」


「俺の話聞いてた? 地球人の中には異星人を悪く見る奴や、怯える奴もいるの、無駄な騒ぎは起こしたくないんだよ」


「むぅ……分かった」



渋々フード付きマントを着てついてくる。茸を取りに来ただけなのにこんなことになるとは、世の中本当に何が起こるか分からない。チラリと後ろのドラグニア人の女の子を見て思った事は、やはりドラグニア人は着陸が下手だという事だった。


俺がこの地球の調査をすることになったのは、三年前。イルム星出身のとある宇宙航行士が、偶然にもこの星を発見した事が始まりだった。彼は、生命が、それも知的生命がいることを確認すると、直ぐに異星省に報告。それから、異星省の者が星の外からの内部確認を行うと、独自の文明を築いた知的生命がいることが判明。さらに、種族の容姿がほぼ変わらないのだ。肌の色や、髪の色の傾向だけ。


交渉の余地があると判断すると、交渉課の調査班から俺が派遣された。突然異星人が現れたら攻撃されるかもしれないので、技術諸々を使ってこの星で活動出来るように場を整えた。


調査を進めていく上で、この星の文明がとても興味深いことが判明した。特に、マンガとアニメだ。小説や絵の心得なら我が星にもあるが、それを組み合わせてこんな面白い物を創り出す発想は無かった。幾つかを参考資料として輸送したら、交渉課のトップ(姉)が暫く独占して、知られた後環境省の建物の一部が消し飛ぶ事態になった。と、大臣から手紙が来たがスルーした。


あぁそれと、ゲーム。あれは本当に素晴らしい。最初はなんだコレ? と思ったが、やってみたら見事にハマり、今では様々なジャンルのゲームが揃ってしまっている。此方も、参考資料として送ったら、またまた交渉課トップが独占し、知られた後、交渉課の部屋全てがリフォームすることになり、武闘派揃いの調査課トップが、姉に全治1ヶ月の大怪我を負わされた。と、またまた大臣から手紙が来たが、これもスルーした。あ、いや、この時は旦那が三ヶ月帰って来てないそうですと、返事を出したっけな。捜索隊が組織されたとか、されてないとか…………


ま、とにもかくにもこの星に関しては、かなり詳しいつもりだ。



「よし、ここまで誰とも会ってない。早く乗れ」


「なんだコレは?」


「車だ。この星の陸上移動手段」



ドラグニア人の女の子を後ろに乗せて、車を運転する。特級宇宙船の免許を持ってる身としては、運転免許証の取得は楽は楽だが、車が遅すぎて逆に大変だった。これを運転するのに慣れたら、特級宇宙船運転出来なくなりそうで怖い。


出発した車に対し、遅いだの文句を言い出す後ろの奴。そういえば、名前を聞いていなかった。



「自己紹介がまだだったな、俺はルト。イルム星 異星省 交渉課 調査班 地球担当だ」


「ワタシはアリティア・グロム。グロム星の第三王女だ!」


「………王女が何やってんだよ………」



グロム星といえばドラグニア人の始まりの地と言われてる場所じゃないか。火山だらけのあの島の地下に暮らすドラグニア人は、一騎当千の強さを誇ると言われている。そして、そんな中でも最強と謳われる王族かよ。まぁ、イルム星と同盟組んでる所で幸いだったと思うべきか………



「それにしても、なんでワープゲートを使わないんだ?」


「使う使わない以前に無いんだよ、この星の文明の歴史は、1億年すら無いからな」


「嘘だー!」


「嘘じゃねぇよ」



そう。この星の文明の発展は、びっくりするくらい遅くから始まっている。それこそ、宇宙誕生から100年くらいで文明が出来始めたイルム星周辺の銀河と違って、この星は本当に最近(・・)文明が出来始めたばかりなのだ。ワープゲートとか、次元間ワープ航法なんかは無い。しかし、その変わりに娯楽等が物凄く発展している。我が星の上層部は、俺から報告を受けて一年ちょっとで観光地認定していた。未だに交渉方法が思い付いていないのにだ。


いや、星を挙げて巨大宇宙船で来られて、パニックになるだろう所に、お宅の星を観光したいから、許可を貰えません? なんて言われたらどう? しかし、だからといって普通にそのまま行っても信じられないだろ? 結果、上層部は頭を悩ませているのだ。まぁ、そのうち簡単な解決法が見つかるかもしれないけど。



「なぁ、何処まで行くんだ?」


「今俺が暮らしてる所、後一時間はかかるな」


「そんなに!?」


「退屈なら寝てろ」



そうすると言って、揺れる社内で横になったアリティアが、直ぐにすやすやと寝息を立て始めた。流石はドラグニア人、焼け落ちた家の中でそれに気づかずに寝ていたという事例が、一年に数件あるだけある。


それから一時間程かけて、郊外にある住居区の一つにある一軒家に着いた。因みに、経費で購入した。マンションよりは、一軒家の方が安全だろうから、である。



「ほら、着いたぞ」


「うん? そうか」



車から降りて、家に入る。あぁ、どっかのマンガみたいに地下にアジトとか無いから、普通に寝室に異空間に繋がる扉が、デン! と置いてあって、そこからアジトっぽい所に入れる。アリティアから宇宙船の入ったポケットガレージを受け取り、アジトに向かう。中は、倉庫というかなんというか、研究室のようでもある。


ポケットガレージから宇宙船を出し、解析にかける。


エンジンが破損、安全装置は完全にダメ、その他諸々壊れている。しかし、コンピューターが無事で良かった。っていうか、自動着陸モードにしろよ。ドラグニア人が着陸をマニュアルってほぼ無理なんだから。


5日はかかるなと思いながら、自動修復を開始する。これで放っとけば殆ど直る。後は、完全にダメなパーツを、交換するだけだ。まぁ、それは直る所が直ってからでいい。


リビングに降りると、机に置いてあったマンガを真剣な表情で見ているアリティアがいた。



「見たぞ。後5日はかかりそうだ」


「ん? そうか、じゃあ、それまでここにいる」



そう言うと、ソファーに寝転がって、またマンガを読み始めた。別に構わんのだが、王女がこんなんで大丈夫なのか? 最初からそうだったが、敬う気持ちはもうゼロだ。なんというか、手のかかる妹みたいにしか見えない。


とりあえず、王女がここにいる事を、トップ経由で知らせるか。でも、もしかしたらニセモノの可能性もあるから、一応写真を見せてもらおう。


通信機を起動させてトップ(姉)を呼び出す。暫くした後、画面に姉の姿が写った。まだ十歳にもなっていないような幼い容姿に、波打ちながら七色に変わる長い髪に、尖った耳。ここまで力の強いレレム人はそうそういない。1億年に一人の逸材だそうだ。



『どうした? 定期連絡には早いだろう?』


「あぁ、ちょっと………グロム星の第三王女の写真ある?」


『あるが? これでいいか?』



画面に現れた写真に写っていたのは、紛れもなくアリティアだった。俺は、無言で通信機をアリティアの方に向ける。通信機の向こうで、ソファーに寝転がってマンガを見るアリティアを見て、姉が絶句している気配がする。



『………上層部に連絡してくる』



姉はそう言って通信を切った。机の上のマンガを読み終わって続きを要求するアリティアに続きを渡したり、菓子を食べて通信が来るのを暫く待った。


そして、通信が来た。



『どうやら、二十歳の誕生日に宇宙船を送られて、それに乗ったまま何処かに行ってしまったらしい』


「ここにいる事は伝えたか?」


『していない。そんな事言ったら、ドラグニアの宇宙艦隊がそこに向かう』


「だよな。なんとなくだが、宇宙船が直らない限り帰らないぞ」


『だろうな。その星は素晴らしいからな。移住したい』


「トップだろうが」


『ソシャゲやりたい』


「携帯ゲームで我慢しろ」



ここで通信を切る。さて、どうするかな今日の夕飯。



「ルト! ここ行きたい!」


「………」



アリティアが何処から見つけてきたのか、パンフレットを広げて俺に見せて来た。頼むから、これ以上面倒事を増やさないで欲しいのだが………


アリティアが広げたパンフレットは━━━



「U○J………」


「ここ凄く楽しそうだ! 連れて行け!」



パンフレットを此方にぐいぐい押し付けながら、駄々をこねる王女様。流石にダメだろと思い、却下する。しかし、アリティアは俺に張り付いて行きたい、行きたいとさらに駄々をこね出した。もうこれどうすりゃいいんだよ。



「行きたい! 行きたい! 連れてってくれるまでこうしているからな!」


「だぁーー!! 分かったよ、連れてってやる」


「本当か!?」


「ただし、俺の言うことを聞いて勝手な真似はするなよ?」



コクコクと頷くアリティアにちょっと不安を覚えながらも、一度言った事を違える気はないので、色々と準備しなければならない。とりあえず、一番大切な事をあれしないと。寝室に行って、とある物を持って来て、アリティアに渡す。


らくらく言語ラーニング。これを寝る前に使えば、あらかじめ設定されていた言語を、起きた時には殆どマスター出来ているという、スグレモノ。交渉課の必須アイテムの一つだ。



「らくらく言語ラーニング? なんでだ?」


「入ってるのは、日本語………この国で使われている言語だ」


「国?」


「この星は幾つかの国に別れて統治されてるんだよ。ほら、種族毎に統治場所がある星があるだろ? あれと同じ感じで、数が多いんだ」


「成る程な!」



そんなこんなでその日は何時ものようにネットで情報収集している横で、アリティアがマンガを読んで時間が過ぎた後、夕飯は肉多目にしておいた。ドラグニア人は肉が好きだからな。


そして、次の日。



「ルト! 早く行くぞ!」


「はいはい」



こっちの服に着替えたアリティア。黒ストッキングにふわふわと暖かそうなスカート、そしてカジュアルなコートを着ている。目立つ角は小さくさせて(ドラグニア人の角は、小さくする事が出来る)帽子をして対処。首もとの鱗はマフラーで隠す。


今が寒い時期だから良かった。マフラーが目立たないからな。


車に乗り込んでU○Jへと向かう。道中、気になる物を見つけたアリティアに質問攻めにされたりしたが、特に問題もなくU○Jにたどり着いた。しかし、相変わらずの混みようだな、まぁ、まだ平日なだけましか。



「おぉー凄いな!」


「ほら行くぞ」



そして入ったのだが、そこからが大変だった。テンションマックスではしゃぐアリティアが、あっちへこっちへ、まるでロケットのように飛んで行く。その度に飛んで行って捕まえる。


はしゃぐアリティアは王女っぽく見えない。いや、ドラグニア人だから仕方ないのか? お姫様っぽいドラグニア人とかいないしな、基本こんな感じなんだよな。


あちこちと写真を撮りながら見て回ったり、アトラクションを体験したりしながら過ごす。途中でオヤツを食べたり、お土産を買ったりなんだりした。



「楽しいな! こんな楽しいのは初めてだ!」


「そうか」


「あぁ! トモダチが出来たのも初めてだ! 皆、外に出るなって」


「………」



アリティアの笑顔は少しだけ寂しさが混じってる気がした。しかし、直ぐに満面の笑みを浮かべた。



「凄く楽しかったぞ! ルトのお陰だ!」


「ま、喜んでもらえたんなら何よりだ」



太陽が沈む中で、俺達は最後にツーショットを撮った。































アリティアが来てから5日が経った。宇宙船はすっかり元通りになり、これなら問題なく星に帰られるだろう。これまでの間、アリティアを連れて………というか、連れ出されて色々な所に行った。まぁ、主にアキバだったけど………


マンガやゲームを買って、ご満悦のアリティアだったが、ナンパをグーで撃退しようとするのは止めろ。もう少しでトマトが食べられなくなる所だった。


まぁ、そんなこんなで5日間で日本を満喫したアリティアは、今日帰る所だ。最初はもっとここにいると言っていたが、親が心配しているからもう帰れと却下した。流石に、許容範囲外だ。



「色々ありがとな」


「いや、これも何かの縁だ」


「そうか、じゃあ、また来るぞ」



いや、流石に警備体制強化されるしもう来れないだろ。うん。笑顔で手を振るアリティアに、俺も手を振る。タタタと、宇宙船に向かおうとしたアリティアが戻って着て、俺の頭にコツンと自分の角を当てた。



「本当は角と角を合わせるんだ。でも、ルトには無いからな」


「そうか」


「じゃあ、またな!」



ドラグニア人にそんな行為あったっけ? もしかして、グロムの王家に伝わる何かかな? 飛び立つ宇宙船を見ながら、俺はそんな事を考えていた。



━━━“角合わせ”━━━


━━━グロム王家に伝わる行為で、とても大事な時に行われる行為だ。この行為は、無しには出来ない━━━


━━━この行為の意味は、“必ずお前を手に入れる”━━━


━━━グロム王家らしい、強引な想いの伝え方だ━━━



アリティアが帰った後、俺は家に戻って報告書を書いていた。流石にアリティアの事は書けなかったけどな。


さて、この星の人は俺達と出会う事を、『未知との遭遇』という。言い得て妙だが、確かにそうだ。しかし、それは此方としても同じだろう。俺達を恐れる一番の理由、それは知らないから。何も知らないから怖いんだろう。まぁ、知っても怖いという時もあるが………


俺達、交渉課調査班は、日々未知と出会っている。そして、それを知ろうとする。幾つもの『未知との遭遇』の中で、幾つもの縁と絆を結んできた。そして、それはこれからも変わらない。何故なら、それが俺達の仕事だからだ。



「さ、今日も頑張りますか」























【一週間後】























「ルト! 遊びに来たぞ!」


「おいこらグロム星、警備強化どうした」






☆イルム星一口メモ☆

・調査課と交渉課調査班

作中で、違いは何? 調査課でよくない? と思った方が何人かいたと思います。調査課は、そのまま新しく発見された星を調査する課です。獰猛な原生生物との戦闘の可能性があるため、武闘派揃いです。しかし、そのため血の気の多い者達が多いです。そのため、意思疎通が可能な、交渉の余地がある種族がいたら、交渉課調査班の出番です。文明がある場合は、最初から交渉課調査班が出向きます。冷静に目立たないように調査しなきゃいけませんからね、そのため、調査班はあまり目立つ容姿でない人が付きます。



・レレム人

どの星で生まれたかは不明。未だによく分かっていない種族で、特徴は尖った耳と持つ力に応じて七色に変わる髪です。力が強いほど、色の変わる範囲が広く、それに応じて肉体の老化速度も遅いです。かつて、惑星を消滅させたり、遥か宇宙の果てをその場にいながら覗くなど、トンでもない力を持った者もいたと、伝わっている。

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[一言] なにこれ続きが見たいです(懇願)
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