魔王の悲願の成就
魔王と勇者のお話のエピローグです。お話の空気をラブラブな雰囲気に出来なかったのが残念。
「どうした、勇者?」
「いや、その、ごめん。オレ、実は」
「私も初めてだよ」
熱い吐息が漏れる唇と唇が重なって互いが互いを抱きしめた。
自然と女騎士の目から涙が溢れてきた。
二人の足下には憎き女魔王が倒れている。
二人は遂に魔王を倒したのだった。
熱い包容を交わした後、女騎士の体を引き剥がすと勇者は女魔王の骸の前に片膝をついてしゃがみ込むとそれきり動かなかった。
「どうしたの」
不審がった女騎士が勇者の体を揺さぶった。
「大丈夫だよ、生きてるから」
「んもう、死亡フラグを立てないでよ」
メタな台詞を言うと女騎士も片膝をついてしゃがみ込んだ。
勇者は目を剥いて絶命した女魔王の目を閉じてやると女魔王の髪飾りを外して髪先を整えた。
「首を斬るなら手伝うよ」
「いや、いい」
勇者は倒した証として女魔王の碧髪を先端から切った。しかもご丁寧に切り揃えてだ。
「優しいんだね、勇者は」
「ああ、何度も顔を合わせてきたからね」
「そうだね。嬉しい」
ーー何度も?
勇者は違和感を覚えて背後の女騎士を振り返った。
だが女騎士はにこにこ笑っているだけだった。
ーー気のせいか。
女魔王を倒した証としての髪と髪飾り、そして外套を奪うと勇者は部屋の片隅に女魔王の遺体を運んだ。きちんと手を組ませて安らかに眠れるように施して。
「ほんとに優しいんだね、勇者は。丁重に遺体を弔ってくれるのは本当に嬉しいけどね。だけど今度はその優しさを私に向けて欲しいな。だってさっきのキスは私の初めてだったんだから」
勇者はまじまじと女騎士の顔を見つめた。
「本当に初めてだったのか」
しばらくの間があってから女騎士は破顔した。
「あー、さっきのはノーカウントよ。だって非常時だったもん」
女騎士の笑顔を見て勇者は息を吐いて安堵した
「そうだな、さっきは助かったよ、ありがとう」
「だったら今度は形で示して欲しいな。帰りは帰還魔法は使わずに宿屋で宿泊したいなー」
女騎士は勇者に抱きついた。
薄いとはいえむき出しになった胸の体温が伝わる。
「その、なんだ」
勇者は赤面して自分の上着を脱いで女騎士の背中に被せた。
「大好き、もう離さないから。良かった、妾はずーっとこの時を夢見てたんだから」
呪力のこもった血を浴びせて女騎士の体を乗っ取った女魔王は勇者には聞こえないように悲願の成就を言祝いだ。
完




