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07 異空間〜石芝 渡の場合〜

ホラー企画の締め切りす過ぎても、完結しない小説。

流石に夏中で終わらせようと思っています。



目を覚ましたとき、僕は病院のベッドで寝ていた。

柔らかい枕、薄手のシーツ。

頭を横にすると、点滴の袋とチューブがあった。

その先端を辿ってみると、僕の左腕に刺さっている。

極めつけは、夕暮れの光が差し込む長方形の窓と外の風景。

どうやら、僕は病院にいるらしい。


「おや、起きたかい」


足元から聞こえた声に、僕は反応しようと身を起こした。

けれど頭に痛みを感じ、思わず呻いてしまった。


「無理はするな。各所に打撲と擦り傷、左足の骨折。加えて頭部を強く地面に打ち付けていたんだ……安静にしてなさい」


相手の顔は分からないが、僕は指示に従った。

その様子を見たからかその人物は顔の見えるところまで来てくれた。

僕は彼の顔を確認して、ようやく誰かを思い出す。


「貴方は……101号室の」


「最初の言葉がそれとは、まだ俺を思い出せないのか」


男性は溜め息をついた。

茶色のメガネが特徴的な険しい顔つき。

そして顎に生えた無精ヒゲを撫でるのが癖である、知り合ったばかりの人。


僕がハイツに入った矢先に、怒鳴りつけてきた人だ。


「全く、君には早くこの街から立ち去るよう注意したはずなんだが」


「ええと、その、急に怒られたことが怖くて、あまり内容が頭に入ってこなくて…」


あのとき。

彼は僕と顔を合わせたかと思うと、急に引っ越すよう叱ってきたんだ。

僕は、あまりに突然のことで反応できずにいた。

やがて彼は伝えるべきことを言い終わると、バタンとドアを閉めてしまった。

僕と彼とはそれっきりの間柄だと思っていたのだが。


「ふん、今更忠告をしても仕方ない。お前は事件に巻き込まれてしまったからな」


「え、事件って何です?」


僕は飛びついた。

気づけば何故か病院にいる。

隣人が僕の目覚めを待っている。

この状況を、全く理解できていないのに、更に事件とは。

僕は何をしてしまったんだ?


「君は、覚えていないのか?階段から突き落とされたことを」


「突き落とされた!?」


そんなことがあったのか!?

僕は脳内の記憶を呼び戻そうと試みる。


確か、大学の食堂で出会った彼女と話していたんだ。

そこで昼飯を忘れたはずの僕が、忘れたはずの昼飯を食べていた、と言われたのは憶えている。

そこから急いで裏野ハイツに帰ってこようとして……


「それで……僕はどうなったんだ?」


ハイツに辿り着いたときから先が、全く思い出せない。

まるで靄がかかったように、曖昧となった時間がある。

もっと深く考えようとすると、頭に痛みが響き、集中できない。


「もしかして、記憶が混乱しているのか?」


僕の異常に気付いたらしく、彼は眉を潜めた。

更にメガネをクイっと上げたかと思うと、何やら考え事をし始める。


「ならば犯人の正体が分からない?伝えるべきか……いや、アイツに出会わなければ、忘れたままの方が都合良いのか?」


彼はブツブツと呟き、僕から視線を外した。

このままだと会話が終わってしまう。

僕の知るべきことを教えてくれないと困る。


「あ、あの僕は今、どんな状態なんです?」


焦りのあまり上ずってしまったが、僕は彼に質問した。

おかげで彼の意識を呼び戻すことができたらしい。


「……その前に、君は私の名前を知っているか?」


質問を質問で返された。

そういえば、彼の名前を聞いたことがない。

裏野ハイツは玄関に表札も付けてないし、僕が顔を知っているのは目の前の男と……あの騒がしい母親のいる家族だけだ。

一応挨拶回りをしたのだが、その日会えたのはこの二部屋の住人だけだった。


「その様子では、色々と忘れているな。今日のことだけではなく、かなり前のことも」


「あの、それって?」



男は、再び大きな溜め息をつく。

まるで地の底から湧き出したかのように、深く息を吐く。


「私の名前はな……」


男は僕を睨みつけた。



「……石芝 翔太郎(しょうたろう)だ」


僕は目を丸くする。

だって、その苗字は…


「僕の親戚……ですか」


「いわゆる父親、という奴だ」



絶句する。


いや、そんなはずはない。

だって僕の父親は、他にいるからだ。

僕の父親は……



あれ?


思い出せない。



ドクン



「嘘だ」


彼の言葉に、我を取り戻す。

けれど僕の心臓は高鳴りを打ったままだった。


「名前は本当だが、私は君の叔父だ。とはいえ、君の様子を見て確信がついたぞ。やはり君は……記憶喪失になっているな」


そう宣言すると、彼は僕に背を向けた。

僕の叔父、そう名乗る男。

けれども僕の記憶に一片も彼の姿はない。

夕闇がその姿に影を落とす。


「そろそろ私は帰らせてもらう。詳しいことは医者から聞け。それと、そうだな……」


彼が言葉を呟きかけたとき、部屋の外からカンカンと音が響いた。

ドタバタとした足取りで、誰かがコチラに向かってくる。

病室から半身を出した無精ヒゲは、ちらりと外に目をやる。


「ふん、君の友人も来てくれたようだな。丁度良い」


「石芝ッ!!お前、大丈夫かッ!?」


男が呟くと共に、僕のベットになだれ込む人影。

この声、このテンション、そしてこの僕の知り合いといえば……友人Aである。


「おいおい、何だよ!?包帯グルグル巻きじゃねえか!?」


彼はひどく興奮して喋り出す。

けれども、僕は彼の姿を見て安心した。

記憶の大きな欠落。

知らぬ間に病院に運ばれている。

まさに異世界にでも飛ばされた気分だったのだ。

こうして心配してくれる友人がいるだけで、随分と心が落ち着ける。



「渡の友人、君も覚えておくと良い」


友人Aと入れ替わるよう部屋を立ち去る男。

自分の出番は終わったとばかりに、スタスタと帰ってしまう。

そんな彼の放った最後の台詞。

それが一生、僕の耳にこびりつくことになる。



「君は今日中に裏野ハイツへ戻れ。さもなくば、今度は死ぬぞ」


う〜ん、群衆劇は難しいですね。

分かりにくい点があれば、感想機能で伝えてくれると嬉しいです。

次回更新も3日以内で頑張ろうと思います。

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