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迷い家

この男の趣味は旅である。

休日は電車に乗って出かけ、気の向くまま途中下車、下りた土地をひとり散策するのが好きなのだという。

今日もまた、彼はひとつの無人駅に降り立った。


彼はその土地を散策し、充実した一日を送った。

日も暮れてきて帰ろうとした矢先、大雨が降ってきた。


雨宿りできる場所はないかと探してみると一軒の小屋があった。

古ぼけたいつ壊れてもおかしくないような小屋だったが、贅沢は言ってられない。

男はぼろ小屋の中へと駆け込んだ。


ぼろ小屋の中には人の気配はなく、ところどころにクモの巣が張り、床には埃が積もっている。

いかにもなぼろ小屋だった。


男の服はびしょびしょに濡れていた。

パンツまでびっしょりと濡れていた

その日は寒く、小屋の中にも冷たい隙間風が吹いていたという。


このままでは凍え死ぬ。


男はなんとか暖を取る方法がないかと小屋の中を物色した。

するとぼろだらけの小屋に似合わない鮮やかな色合いのものを見つけた。

近づいて手にとって見ると、それは藤色の反物だった。

明らかに女物だ。


しかしその時は四の五の言える状態ではなかった。

男は雨に濡れた服を脱ぎ捨てる。

上も、下も、下着もすべて脱いだ。


そして着物を身につけ、雨が止むのを待った。

しかし、待ち続けるというのは案外暇なものである。

自然と男の瞼は重くなり、うつらうつらと舟を漕ぎ出した。



まぶしさを感じ、目を開けると、木漏れ日から日差しが降りてきていた。


ここで違和感。


自分はぼろ小屋の中にいた筈である。

だのに、なぜ外にいるのか、と。


状況を探るため、上体を起こす。


が、ここでまた違和感。


ぷるるん、と胸元で何かが揺れた。

それとほぼ同時に黒い何かが視界を覆う。


なんだこれは、と黒い何かを引っ張ると自身の頭に痛みを感じる。

おかしい、これではまるでこの黒い何かが自身の髪の毛のようではないか。


いやまさかと思いつつも、もうひとつの違和感を感じた場所を見るため、黒い何かを掻き分け下を覗く。

そこには、藤色の着物からこぼれる2つの果実があった。


そう、そこに男はいなかった。



(まよ)()』は東北あるいは北関東に現れたという幻の家である。

山をさ迷い歩いていると一軒の家が見つかることがあるという。

そして、その家の中から何かを持ち帰ると、その者には富貴が授けられるという。


今回、彼、いや彼女は、藤色の着物と女の身体を持ち帰った。

であれば、彼女が今後、女として幸福な生涯を送ることは想像に難くない。



――もっとも、今は自身の身体の変化に戸惑い、今後を考える暇など無いであろうが……


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