仲間を探せ
現状を確認してから2ヶ月。
いまだ迷宮突入の仲間は見つかっていない。
何人かに声をかけてみたがまぁ大体が
「レアドロップが多いのは魅力的だが狭い迷宮内で間違って暴れられたらシャレにならない」
とのこと。
信頼って大事だよねー。
この一年そういう付き合いをせずミームにかかりっきりだった俺に責任があるのだけど。
もっともこんな話し合いになるのは少数でほとんどが話しかける前に逃げられるのだが。俺がそんなに怖いか。
……怖いそうです。主に個人ランクと悪評のせいで。個人ランクというのはいわゆるレベルのことでこの年で23と言うのは相当らしい。(この1年あんまり戦闘しなかったからレベルは上がらなかった。ぐぬぬ。)
冒険者学校に来る奴というのは大体が5以下で入学。一年たっても10もいかないのだそうだ。
そんな高ランクで邪剣持ち(と思われている)。もし暴走したら生徒の殆どが止められないので組みたくないと。
実際は暴走なんてしないのにねー。わかってくれる人がいない…
「ご主人様!私はわかってますよ!」
とミームから意思伝達。ミームは鞘に入ったままだ。普段は表に出ないように言ってある。
ありがとう。と礼を言っておく。でもお前精霊(人じゃない)だよね?とは言わないでおく。そこまで無神経ではない。
別に迷宮に入らなくてもいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、必ず一度は入っておくようにとのこと。
迷宮に入る勇気がないものに冒険者は務まらないとか何とか。
勇気はあるんです!ただ人が見つからないんです!
迷宮への道程は遠い……
その日もいつものように迷宮の入り口を見やりながらパーティーに入れてくれそうな集団を物色中。
すると入り口から少し離れたところで人だかりが。何やらイベントの予感。無論積極的に参加しますよ。
近づくと男女の言い争う声が。どうにも女のほうが嫌がってる風に聞こえる。
……俺、この騒動を仲裁してパーティーに入れてもらうんだ……もう5回ほど乱入してすべて失敗に終わってるけどな!
俺が近づくと人だかりが割れていく。お前らそんなに俺が怖いか。
何人かは目をキラキラさせながら避けていったが。
大方またなにか面白いものが見られると思っているのだろう……この前は土下座までしたのにパーティーに入れてもらえなかったからな!
「だからここじゃなくちょっと休憩できる場所で回復魔法をかけてもらいたいだけだって。」
「何言ってるのよ。ここでかければいいじゃない。それにあんたらとのパーティーはコレで解散のはずよ!」
「まぁまぁ。怪我の治療くらいしてくれてもいいだろ。それに回復魔法ってのは身も心もリラックスした状態でかけたほうが効果が高まるんだから……な。」
んー男3人に女の子が2人。それぞれ分かれて言い合ってるみたいだなー。
あ、男の中のちょっとイケメン風のやつが女の子の方を抱こうと手を伸ばして払われた。
「ふん、あんたらの考えなんて透けて見えるのよ!大方私達を連れ込んでいやらしいことをするつもりでしょ!」
言い争っている金髪のツインテールの女の子の言葉で男たちがいやらしい笑みを浮かべる。どうやら図星らしい。
「ははっ。わかってるなら話がはえーじゃねーか。お前たちは迷宮帰りで魔力が尽きかけている。対して俺たちは軽い怪我をしているだけだ。このまま争ったらどうなるか考えなくてもわかるだろう?」
んーよく見たら男たちの方はこの間個人ランクが12になったと吹聴していた奴らだ。だから誰も手を出さないのか。
女の子の方は言葉に詰まると助けを求めるように周りを見回して……俺と目があった。だがちょっと待て。何だそのさらに絶望を含んだ表情は!
「ふん、周りに助けを求めたって誰も助けてなんかくれねーよ。なんたってこちとら個人ランク12が3人もいるんだから……なぁっ!」
男が視線を女の子の目線の先にやったので必然的に俺と目があった。
そしてなんでお前もそんな絶望的な表情をする!
そして俺のまわりから引いていく野次馬たち。
成り行き的に舞台に上がらされてしまった…もともと首突っ込むつもりだったけどね。
……うん。最初に助けるのと引き換えにパーティー組んでもらうことを要求しよう。それがいい。そうしようそうしよう。
「一体何のようなんですかねぇ……あんたには関係な「助けて欲しいか?」」
男の言葉を遮って女の子の方に声をかける。
女の子は疑わしげな視線を向けてくるがこの状況では俺以外に頼る相手がいないと理解したのだろうか頷いた
「助けて欲しいなら俺の言うことを何でもひとつ聞いてもらうが……それでもいいか?」
そう言うと女の子は一瞬きょとんとした顔をして……そのあと急に顔を赤くしたかと思うともう一人の女の子と小声で話し始めた。
ちょっと尊大な物言いになってしまったがパーティーを組んで欲しいだけだ。
返事が来るまで俺は男たちとにらみ合いである。
「けっ、横からかっさらうとはちょっと狡いんじゃないっすかねー」
……かっさらうもなにも彼女たちとのパーティーは解散だとさっき聞いたから問題はないんじゃないか?
「何も問題はない。俺のやり方になにかおかしいことがあったか?」
普段の口調とは違う、ちょっと威圧を込めた口調で返す。
「ふん。ちょっとランクが高いからっていい気になるなよ。あんたよりランクは低いかもしれないがこちらは3人だ。勝てると思っているのか!」
3人ねぇ……少なくとも今の固まってる状態なら何も問題はないんだが。バラけられると厄介かもしれん。早く返事来ないかなー
「わっ、わかりました!あなたの言うことを何でも聞きます!だから!私達を助けて下さい!」
を、返事が来た。しかしなぜそう悲壮な声を出す。そんなに俺と組むのは嫌なのか?こちらは迷宮に一回でも入れればいいんだからそれくらい犬に噛まれたと思って諦めてほしい。
男たちとの距離は5メートル。俺は剣を抜くとミームに協力を要請しその場で横に薙ぐ!すると男達はその場でパタパタと倒れてしまった。
魔力喰い(マジックドレイン)を利用した魔力の枯渇による無力化である。まわりからわぁーと上がる歓声。ふっ照れるぜ。
少女たちの元へ行く。さーてこれからパーティーを組んでもらうお願いをしないとな。
「さて、何でもいうことを聞いてもらうということだったけど……」
「そのことだけど…それは私だけでいいでしょ!ルナーは見逃してあげて!」
「リリア……」
ん?一人だけ?それは困る。迷宮に入るには3人以上のパーティーじゃないとダメなんだ。
「だめだ、そちらの娘にも聞いてもらう。」
「そんな……ルナーのバカ!噂どおりの奴じゃない!」
「え~そうかな~」
なんか真剣な口調の金髪ツインテール。対して黒髪の少女はおっとりマイペースだ。
それにしても噂ねぇ……やっぱり良い感情は抱いていないみたいだなー。
ならここは一回だけでもいいからと誠意を持ってたのみこむしかないか。
そばまで行き金髪少女と向かい合う。……向こうのほうが背が高い。成長期まだなんだよ!ちくせう……
「一回だ!一回だけでいい!」
「なっ!一回…一回だけって!一回だけっていっても私達ははじめ…」
何か金髪少女が言っているが俺は思い切り頭を下げ言葉を遮る。
「俺とパーティーを組んで迷宮に行ってくれませんかっ!!」
まわりが静まり返る。なが~い静寂。返事はまだない。そぉーっと頭をあげると金髪少女は体をプルプル震わせていた。黒髪の子はクスクスと笑っている。
じっと見ていたがしばらくすると金髪少女はこちらをキッと見やると
「紛らわしいのよあほーっ!」
といって拳骨を俺の頭に叩き込んだ。あ、あれ?なにか間違った?