返事を聞かせて
抱きしめてからしばらく時間が経って、俺はようやくアリスを開放した。
あーなんか目が痛い。目に手をやれば水の跡。泣いていたとか……ちと恥ずかしい。
そんな俺にアリスは照れたように微笑むと、
「助けてくれてありがとう。それと……さっきの返事聞かせてほしいな」
「返事?なんのことだ?」
礼を受け取ると同時にはてなと首を傾げる。さっきなにか言ってたのだろうか?
正直アリスを助けることに意識を集中させていたので、何を言っていたのかほとんど聞き取れていない。
それを聞いたアリスは呆けた顔をしていたがだんだんその形相が鬼のようになっていく。
「えっと……さっきなにか大切なことを言ったのか?正直聞いてなかったんだが……」
そう言うとアリスはとてもよい笑顔になって俺の胸をどすどすと突いてきた。
さっきの戦闘で疲れていた俺はまともに受けるのが辛かったので逃げるように後ろに押されていく。
「ひ、人、が、最後、の、力、を、振り、絞って、伝え、よう、と、した、言葉、を、聞い、て、なかった、と、か、……しんじられない!」
腕の動きに合わせて紡がれる言葉には怒気がこもっている。
その怒りにうろたえながらジリジリ後ろに下がっていた俺は、いつの間にかベットが当たる位置まで押されていた。
「聞いていなかったのは正直済まないと思う。だけどもあの時はアリスを助けることで頭がいっぱいだったんだ。良ければもう一度言ってくれないか?」
と、言うととたんにうろたえだすアリス。何やらブツブツ言っているがこちらまでは聞こえてこない。
「わ、わかったわよ。ちゃんと言うから今度はちゃんと聞いてよね!」
そういうアリスに俺は背筋を伸ばしじっとアリスを見つめる。すると見る間にアリスの顔が赤くなっていく。
「わ、わたしは!あなたのことが、す、す、す、す……って素面で言えるわけ無いでしょ!!」
えっと、これはもしかしてあれなのだろうか?俺のうぬぼれでなければだが。惚れた腫れたの……なんだか顔が熱くなっている気がする。
「あーもう!シジ!とりあえず床に座りなさい!」
俺は言われるままに床に腰を下ろす。そうすると俺の眼前にアリスの顔があった。
アリスは俺の顔を両腕で挟み頭を動けなくすると俺の目を見つめてくる。
あれ?なんだかこのシュチュエーションにデジャブがあるぞ?
力が戻ったと思って結局オレを操り人形にするつもりなのかな?
そう思うと胸の奥がズキリと傷んだ。
と、なるとアリスを見つめる目線も少し冷ややかなものになってしまう。
アリスは力を使う前準備なのかひたすら深呼吸を繰り返す。
そしてその中でもひときわ長い息を吐き終わった後、真剣な顔をしてアリスはこう言った。
「それじゃぁ、今から言うわ。今度こそちゃんと聞いててね。」
ああ、結局使うのか。それがなんだか悲しくてアリスの目を見ないように自分の目を閉じて……
――――唇に柔らかい感触が押し当てられる――――
思わず目を開けばそこにはもう触れ合えるくらいの距離に目を閉じたアリスがいて……え?え!なにこれどういうこと!!
俺が訳がわからないまま混乱していると、アリスの唇は離れていく。
……もったいない。思わずそう思ってしまった。
「ちゃ、ちゃんと聞いてくれた?」
「つまりそういううことだから!」
「も、もう私寝るね!おやすみなさい!」
そう言って顔を赤くしたアリスは急ぎ足で部屋を去っていった。
とりあえず俺は今あったことを思い返し、唇を指でなぞってさっきの感触を思い出すと、いてもたってもいられずそのまま布団へ頭を突っ込んだ。
……魅惑耐性突っ切ってくるとか強すぎだろ……
顔が熱い。心臓もドキドキ言っている。アリスの顔が頭からはなれない……
……今夜眠れるだろうか……
次回でエピローグとなります




