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初めての悪魔戦闘

ガキィッッ!!


 女の腕と俺の持つ無明が交錯していびつな音を上げる。ッツ。この音っ、見た目どおりじゃないってことか。

 俺はアリスに後ろに下がるように言い、女と対峙する。

 俺と無明の攻撃力はすでに「闘気」スキルで底上げ済みだ。


 女が扱うのは徒手空拳。ただがむしゃらに突っ込んでくる。

 てんで洗練されていない攻撃だが、脅威なのはその四肢に込められた力だろう。

 一つ一つが灰色熊の一撃並みの威力がある。

 かわし、いなし、弾いては隙のできた胴体に斬りつけるのだがすべてひらりとかわされ間を取られてしまう。これの繰り返しだ。

 距離が開くとミームに魔力喰いの能力で攻撃してもらう。が、これもあたっている割に効果が薄いみたいだ。


「なかなかやるね。人間のくせに。

 じゃぁちょっとだけ本気を出させてもらおうかな」


 女はそう言うと目の前からふっと姿を消し……突如背後から一撃を喰らい前方につき飛ばされた。


 少し咳こむもすぐさま体制を立て直し女を見据える。……どうやって移動した?

 女は困惑する俺を見てニヤリと笑うと再び姿を消し今度は左側面に現れ蹴りを放つ。痛つっ。


 何が起こっているのかわからない。俺は「気配察知」のスキルに意識を集中させ次の攻撃に備える。

 そして女は再び姿を消し、次は……上か!俺は強引に体をひねって回避する。組んだ腕が俺の耳元をかすめていく。


 女は少し驚いた顔をした後再び姿を消すが気配察知のスキルは優秀だ。どこから攻撃が来るのか手に取るように教えてくれる。

 だが反撃が間に合わない。避けた後に攻撃を仕掛けようとするも一瞬でその場を離れてしまう。


 ……だんだん相手の能力がわかってきた。これは空間跳躍、テレポートのたぐいの能力と見た。


 能力がわかってもヒットアンドアウェーを繰り返す相手に反撃の手段がない。しばし躱し続けた後、お互い探るような状況になったため俺は息を整え目を閉じる。


 スキル「心眼」。心の目で相手の挙動を見抜き先手を取りやすくなるスキルだ。

 実はこのスキル、余り使う機会がない。攻撃を躱すだけなら気配察知で事足り、躱したことにより体勢の崩れた相手に十分反撃を行えるためだ。

 そのため使用に慣れていない俺はこのスキルを目を開けたまま使うことはできない。うまく切り替えられないのだ。


 スキルを発動し後の先を狙うべく目を閉じたまま構える。すると敵が戸惑う様子が伺える。

 しばらくするとその場から気配が消え、俺はスキルが感じる方向に向かって剣を振りかぶる。


ガキィッッ!!


 手に感じる衝撃! 俺は攻撃が当たったことに安堵し次の攻撃に備える。

 その後幾ばくか交錯したが決定打は決まらない。そうしているとふいに攻撃がやんだ。


 どうした?なんのつもりだ?と目を開こうとした時、


「キャァァァーーーっ!!」


 っつ!アリスの声だ!


「ふふふ、勘違いしてもらっては困るけど僕の本来の目的を忘れていたわけじゃないだろう?」


 そうだった!こいつの目的はアリスを吸収すること!


 声のした方を見やるとアリスの胸から女の腕だけが突き出て一種異様な光景だ。

 女は少し離れたところにいて右手の肘から先が消えている。


「お姫様を放っておいて敵を相手に目をつぶっているなんて……役に立たない騎士様だ」


 そう言うと女はその手に力を込め……アリスから聞いたことのないような絶叫が上がる。

 俺はたまらず飛びかかろうとして、


「おっと、別にこの絞りカスを一瞬で干上がらせることもできるんだよ?」


 との言葉に動けなくなる。


 俺が何もできないまま、刻がたつごとにアリスの体には1つ2つと目に見えて亀裂が入っていき……


「やめろ!やめてくれ!何でも言うことを聞く!だからそれ以上はやめてくれ!」


 俺は思わず叫んでいた。





「ふふふ、ようやくおとなしくなったね。それともこれが愛の力かな?」


 「そうだなー何をしてもらおうかなー」とこちらの感情を逆なでするような物言いの女を俺は睨みつける。

 ミームからは「役に立てずすみません」という意思が伝わってくる。「ミームのせいじゃない。俺の判断ミスだ」と返す。

 アリスの様子は俺の前に立つ女が影になって伺えない。まだ生きてはいるはずだ。そう一類の望みをかける。


「それにしても下等な生物とはいえ君はなかなかやるねぇ。僕の攻撃にあれだけ長く耐えたのは君が初めてだよ」

「あまつさえ反撃までしてみせた。これはもう素晴らしいと言っていい」

「人間の”男”にこれほど心を揺さぶられるなんて!」

「端的に言えば僕は君が気に入ったのさ」

「どうだい、僕に男というものを教えてはくれないかい?」


女の提案に乾いた笑いが出る。これは怒りか?それとも……


「いいぜ」


「そうか!それはよかった。それじゃあ早速あの絞りカsうぐむぅ!」


 俺は無造作に近づくと上機嫌に話す女の唇を塞ぎそのまま口内を蹂躙する。


「ぷはぁっ。な、ななな!一体何をするんだい!君は!」

「何って?男が知りたいんだろう?」


 そう言って再び女の口を塞ぎその内で暴れまわる。

 女の後ろから「シジ……だめぇ……そんなの……ぜったいだめぇ……」という声が聞こえてくる。良かったまだ息はあるみたいだ。


 しばらくすると女の目つきが垂れ下がり俺の舌と積極的に絡み始めた。

 そこで俺はわざと女の口の中から舌を引き上げる。そうすると女は恐る恐るだが俺の口の中に舌を潜り込ませてきた。今度は俺の口の中内で舐ってやる。

 そうやってしばらくし女の緊張がほぐれ舌が十分に伸びきった時、



―――俺は自分の歯をおもいっきり噛みあわせた!!―――



 「びひゃぁぁぁ!」とのけぞる女に俺はすかさずその胸に無明を深く突き立てる!


「アリスにならまだしもな、お前に男を教えるだなんてな、アリスを絞りカスだなんていうようなお前なんかにはな!絶対に教えてやらんわ!!」


 俺は初めてのディープキスに頭が湯立つのを感じながらも心のおもむくままのセリフを口にする。正直何を言っているのかわからないが、多分俺の今感じているそのまま気持ちだろう。

 そしてそのまま痛みにのけぞる女から無明を引きぬき、毎日繰り返した動作の一つを繰り放つ!



―――魔装流、八の型、燕返し―――



 日々の鍛錬は裏切ることなく二筋の軌跡を描き女の両の腕と足をその胴から切り飛ばす。


 四肢を失い地面に倒れ込んだ女は痛みにのけぞりながらも必死のの形相で俺を見上げてくる。


「キッ君はーキミはー最初からこのつもりでー」

「降伏した騎士から剣を取り上げないなんて、とんだ悪役もいたものだな」


 俺は皮肉で返す。

 胸を貫き両手寮足を切り飛ばしてもまだ言葉を吐く力が残ってやがる。……ここで殺しきれるか?


「ふはは、だが姫はもう助からない!少なくとも僕がこの場から去ってしまえばね!」


 そう言うと女は切り飛ばされた四肢を宙に浮き上がらせると転移して俺から距離を取る。チィッ!

 「助からない」と言うセリフが気にかかったが、それに気を取られているうちに再びアリスに襲い掛かられてはたまらない。


「その絞りカスにはもうほとんど力は残っていない!自力で生きていけるほどの力もね!これだけ搾り取れば十分だろう。悪魔が力を回復する方法を知ってるかい?他の悪魔から力を奪うんだ!この街にはもう僕以外の悪魔はいない!つまり僕gぁ!」


 俺は長々と話している女に向かって金剛棒を伸ばし、一撃を喰らわせる。

 制御を失ったのか宙に浮いていた左腕が地面に落ちた。


 この距離では無明で斬りつけるにも距離が遠い。

 金剛棒での遠距離攻撃も威力はあるものの、無明の一撃には程遠い。

 相手は四肢を失っているためこちらに攻撃はないだろうが……奴はどうする?


 俺は女を睨みつけると金剛棒を戻し、いつでも今の一撃が打てることをアピールする。


「ふん、姫を失った騎士がどう生きるのか楽しみだよ」


 そう言うと女の姿が薄れていく。逃げるか。


「それから……」


 そう言ってこちらを睨みつける。


「キミは僕が殺す。必ずだ。」


 そう言って姿を消した。女が姿を消すとこの作られた空間も消えて元の客間へと戻っていった。

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