現れた刺客
俺は脇に置いてあった無明を手に取り、アリスをかばうようにベッドから飛びずさる。
ベッドの上にいたその女は何をするでもなく、アリスを背中にかばい己に剣を向ける俺の様子を観察している。
その女はたしかにアリスによく似ていた。まさしく大人になったアリスといったところだろうか。
ただ違うのはアリスにはこんな妖艶な雰囲気は出せないだろうし、特に目。ややつり目がかった双眸が俺たちを見下しているように見えるのが気に食わない。
「お前は誰だ」
俺は情報を引き出すためにまずは名前を聞き出すことにする。
「僕には名前なんかないよ。あえて言うならあのお方の3つ目の腕といったところかな?君たちだって自分の腕に名前なんて付けないでしょ?」
ちぃっ!名前からぐぐーるさんで情報を得るという線は絶たれたか……
それにしても一体何の目的で……ってアリスか!横目でアリスを見やると少し震えている。追いかけてくる相手がとうとう目の前に現れたってわけだ。
しかしあのお方と言っていたのが気になる。もしかしたらこいつはただの使いっ走りの可能性が高い。
「しかしそれにしてもキミからは全く力を感じないな。本当に絞りカスだ。あのお方もどうして完全吸収にこだわるのかな?」
アリスを見やり馬鹿にするように言い放つ。そういえば首輪で力が抑えられているんだったな。それを見抜けていない?……首輪の力を開放するか?……いやそれでも戦力になるとはとても考えられない。
「まぁもっとも」
「僕は与えられた仕事をこなすだけだけどね」
女の声と同時に彼女を中心として謎の空間が急速に広がっていく。
それは俺たちを飲み込みこの部屋を飲み込み、周りは一種独特な空間……例えるなら異次元空間だろうか……に包まれた。
「さて君は本来他のものを巻き込まないためのこの空間に巻き込まれてしまったわけだが……どうする?その絞りカスを渡してくれるなら見逃してあげるよ」
俺は挑発的に問いかけてくる女を睨みつける。
アリスを絞りカス扱いすることに腹はたったが冷静に対応しなければ。
「その前に……お前も悪魔なのか?」
「え?なに?もしかしてその絞りカスが悪魔だって知ってるのかい!」
「へ~」「ふ~ん」とこちらをジロジロとこちらを興味深そうに見やる女。
アリスを目線からかばいながら、俺は気づかれないようにまわりに意識をやる。
すでにここは客間ではなくおそらく相手のフィールドだ。
念のため退路を確保しておきたかったがすでに遅すぎたと考えていいだろう。
この空間はこの女のギフトか?スキルか?ならばこの女を倒せば解けるかもしれない。できれば「あのお方」の情報も引き出しておきたいところだが……
「ははは、確かに記憶にあるとおりだ!人間は面白い!悪魔とわかっていながら恋をするとは!さしずめそこの絞りカスを姫とするなら、君は命をかけて姫を守る騎士といったところか!」
何やら盛大な誤解をしているようだ。別に俺とアリスは、主人と護衛の守り守られという関係だが、恋人とかそういう関係ではない。ちらりとアリスを見やると目を潤ませて切なそうな顔でこちらを……って敵の勘違いに乗せられるんじゃない!!
「ふははは。面白い。元となった素体のせいか人を完全に傀儡にするのは忌避感があったんだがね。絞りカスを吸収する前に、君を絞りカスの目の前で奪ってやろう。こういうのを寝取るというのだったかな?」
そう言った瞬間、女の双眸が光り俺はとっさのことににその光を目に受けてしまう。
だが以前とっていた「魔眼耐性」のスキルのおかげか俺の精神に何も影響はなかった。もしかしたら「魅惑耐性」も効果を発揮しているのかもしれない。
だが女は勘違いをしたらしく、
「へぇ~コレが効かないなんて、ずいぶんとその絞りカスを愛しているんだね」
違うと言いかけたのだがそれと同時に俺にぎゅーーっっとしがみついてくるアリス。
心配そうに見上げるその顔はとてもかわいくて……じゃなくてだな。心を落ち着けろ!今は臨戦態勢だ!
そんな俺達のやりとりがおかしかったのか、女はニヤーっと笑みを浮かべると、
「仕方がない、それでは……力づくで私のものにしてやろう!」
そう言うと女の敵意が膨れ上がり俺に襲いかかってきた!




